第2章 世界の闇
プロローグ はじまり
いやに鉄のような臭いが鼻に付く。
それは実際に臭うのだが気分的な理由で本来より強く臭っていると感じているというのは否めない。
原因は解っている。
足元に広がる赤い水溜まり。
近くに転がっている人の頭。
今なお、赤い水の面積を広げていく首から落ちる血が、未だにその人が死んで間もないことを理解させる。
視線を前に向ける。
不自然に曲がった腕の死体。
上半身がなくなっている死体。
頭の半分がなくなり脳みそがはみ出ている死体。
死体
死体 死体
死体 死体 死体
死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体
無造作に放置された死体の山。
壁に飛び散っている血の跡。
何かにぶつかり剥がれたのか、地面に落ちている爪。
けれど、この光景はなるべくしてなったのだ。
何も不思議なことはない。
あるとしたら、心の中に
それが唯一、不思議なことと言えるだろう。
「終わった?」
「……あぁ」
後ろから
「本当に凄いわね」
「何がだ?」
「これ」
桐沼がとあるものを叩いた。
それは、コンクリートの壁から突き出した、コンクリートで出来た針のようなもの。
それが、通路のいたるところに張り巡らされ、蜘蛛の巣のようになっている。
「戻すからちょっと離れてろ」
針はコンクリートの壁に吸い込まれるようにして戻っていく。
「いくぞ」
––––ここに泊まるんですか?
そうだが?
––––いえいえ、死体にあふれた建物の中で寝泊りをしようというその気概に驚いているだけです。
どうやら、この凄惨な(人体の破片が飛び散らかってる)状況の建物の中で寝ようとは思ってもみなかっlたとオウランは言いたいたらしい。
確かに一歩間違え……なくてもホラーだが。
「行かないんですか?」
桐沼に言われたのでオウランとの会話を一時中断して歩き始まることにする。
突き当たりを曲がると机の並ぶ仕事場であったであろう部屋が見えた。
窓から月の光が照らす部屋の中にある死体の数々。
ある者はまるで眠るように、また、ある者は苦しみの表情を浮かべていた。
死体をこのままにしておくのは嫌なので、消すことにする。
干渉 人の遺体 消去
––––手慣れてきましたね〜。
オウランが褒めてきた。
ふっ、褒めてもなにも出ないぞ。
––––大丈夫です。褒めてはいないので。
グハッ
きざき しゅんすい は 1000の だめーじ を おった
––––はいはい
うっ、うっ、うっ、オウランが冷たい。
所々穴の空いたソファーに腰掛け、泣き真似をする。
「どうしたんですか?」
桐沼が不思議そうに声をかけてきた。
「うん、あのね」
「はい」
「オウランが俺に冷たいの」
「寝る場所を探しに行きます」
「待って、待って! 無視しないで」
『泣きたくなるから』という言葉は声に出さないが、必死にアピールをする。
「どこか夜勤のためにタオルケットぐらいは用意してありますかね?」
徹底的に話題回避されてるんだけど……。
「多分」
「そうですか、探してきます」
……逃げられた。
––––犬も食わないってやつですか?
自分で言うなよ。
––––事実じゃないですか。
「素晴らしいですね〜」
唐突に声が部屋に響いた。
見れば、窓の近くに一人の男が立っていた。
男は長袖のTシャツにジーンズというラフな格好をしていた。
「…誰だ」
「いえ、ここの監視を任されていた者ですよ」
月明かりで見える男の顔は慇懃な言葉とは違い、嘲笑を浮かべていた。
それは、俺に対してというよりも周りの死骸の様を見たためのようだった。
「地方支部とは言え、ここにはそれなりに強い部類に入る人もいたはずなのですが……。それに、噂に聞く、魔法結社オトルスの地方支部を破壊している謎の男女というのはあなたたちのことでは? そう推論しまして、お目通りしようと思ったのですよ」
男は長々と口上を述べている。
「それで?」
「それだけですが?」
気まずい沈黙が流れる。
「はぁ〜。強いて言えば、上から見つけた場合、可能なら連れてくるように言われていますが…」
男はおもわせぶりな言い回しをし、口をつぐむ。
「可能なら、ということなので決定権はあなたにあるのですよ。どうしますか?」
とてもいい笑顔で男はそういった。
オウラン、どう思う?
––––損はないと思いますが?
そう、か。
「時間があるときに伺おう」
「それならば、明日にでも大丈夫ですが」
「……一応、話し合ってから決める」
「そうですか、明日までに返事をお待ちしています」
そう言って男は周りの景色に溶けるように消えていった。
ふと、近くにあったカレンダーを見る。
日付を見れば、11月30日と表示されている。
それは、小宮ばあちゃんが亡くなってから半年も月日が経っていたことを教えてくれた。
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