エピローグ 非情で、無慈悲で、残酷な現実
既視感を覚えた。
どうやら、最近は光を使った攻撃が皆様お好きなようだ。
俺は視界が回復しないため、そんなくだらないことを考えた。
仕方がないので、扉に手をかけようとしてまるで通り抜けたようになんの感触も得られず、手を振るっただけだった。
ぼやけた視界が戻り、前を見れば本来であれば扉の取っ手があった場所には何もなかった。
周りを見渡せば満天の星空が広がっており、今いたはずの家は影も形もなかった。
足元には剥き出しになった土が顔を覗かせ、視線を周りの地面に向ければ、まるで刳り貫いたかのように、家があった場所だけが草一本たりとも生えていない地面になっていた。
そう、家がなくなったのだ。
あるのは、家があったという跡だけ。
全部なくなってしまった。
小宮ばあちゃんも、家も、大切にしていた何もかもが、塵一つ残さず消えてしまった。
目の前の光景が信じられなかった。
目の前の光景を信じたくなかった。
目の前の光景を嘘だと一笑だにできたらどんなに良かったか。
目の前の光景を幻や夢だと断言だけ来たらどれだけ良かったか。
けれど、目の前の光景は紛れもない現実だ。
非情で、無慈悲で、残酷な現実。
今にも叫びだしたくなるような気持ちをぐっと抑える。
頭の中にはなぜ、どうやって、という問いが駆け巡り、全能の力をもっと有効に使えば、回避できたのでは? という考えが己の愚かさを肥大化させる。
変わらぬ過去を思い、それでもなお納得できない自分がいる。
ふと、前方に気配がした。
視線を前を向ければ、桐沼とオウランが立っていた。
「……これは現実か?」
一縷の望みをかけて問うてみる。
「……現実よ」
「何がいけなかったんだ?」
「何も」
「じゃあ」
「私のいた組織に関わったから。それが全ての答え」
「それだけで、か?」
「それだけでも、組織にとっては十分な理由だった」
「そう、か」
悲しみと無力感が怒りに変わる。
怒りは明確な殺意を自分に植え付ける。
全能の力を使えば、組織とやらも倒せるのでは?
とても楽に。
そこで、思いついた。
オウラン、全能の力があれば、なんでもできるんだよね?
––––できないことは同じ全能の力を持った存在が介入してきたときぐらいです。
過去に時間を戻せないかな?
––––今では無理です。
そう、だったらいつだったら?
––––全能の力を自らの一部と同化し、完全に制御可能となったときです。
どのくらいかかる?
––––あなた次第です。
そう。
希望が見え、心に余裕が生まれる。
周りを見渡す。
数分前と明らかに変わった風景。
非現実を欲したことがあった。
人生に彩りがあるようにと。
けれど、非現実は起きたが、自分の思ったこととは掛け離れた光景が今広がっている。
非現実が起こったとしても、これまでの生活に大きな影響なんてないと思っていた。
ちょっといつもとは違う日常が追加された感覚になるとばかり思っていた。
けれど、目の前にはちょっとどころか、修復不可能と思えるほど変わり果てた現実があった。
「どうするの?」
桐沼が不安そうに聞いてきた。
「桐沼はどうする?」
「……」
「一緒に来るか?」
「何をしに?」
「一先ずは……」
八つ当たりをしに行こう。
俺の現実を壊した組織とやらに。
「ここから移動してから考えるよ」
嘘は言っていない。
組織に八つ当たりをする方法を考えうのは後だ。
「どうする?」
「……ついてくよ」
桐沼はそういった。
「そう、良かったよ」
これから始まるのは現実を取り戻すための戦い。
非現実に憧れた奴が、現実を取り戻す戦いをする。
いい皮肉が効いてるじゃないか。
俺は空を見上げながらそう考えながらここからどこに移動するかを考えることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます