第26話 小宮ばあちゃんを説得(したと言って良いのだろうか?)



 獣道は畑の裏に繋がっていたため、畑の中に入ら無いように歩く。


 草が長ズボンの袖に触れてカサリと音を立てる。


 特に、歩道に入る為に通るべき場所には膝上まで伸びている草が生えている。


 ガサガサと音を立てながら歩く。


 歩道に出て、ズボンを叩いて汚れを取る。


 後ろを振り向いて、桐沼きりぬまが来ているかを確認する。


 すると、桐沼は無表情で空を見上げているのが目に入ってきた。


「どうした?」


 桐沼は空から視線をこちらに移動する。


「なんでもない」


「……そうか」


 俺はかける言葉が見つからず、歩き出す事にした。


 もちろん向かうのは家の方角だ。


 あと数分もすれば着くだろう。


 なんたってもう見えてるんだから。


 ––––周りが暗いとより一層雰囲気がありますね。


 なんだよ、より一層って。


 オウランは光の灯っている我が家を見てそう言ったのだが……。


 普段でも雰囲気があるのか?


 ––––えぇ、暖かい家庭のような雰囲気があります。


 そう、か。


 そう言われると嬉しい。


 生まれてからずっと住んでいた家だ。


 それなりの愛着を持っている。


 家の玄関前で立ち止まり自宅を見上げる。


 ––––どうかしたんですか?


 いや、俺は小宮ばあちゃんに桐沼のことを話してくるから、オウランは桐沼についてやっててくれないか?


 ––––それはこの透過しているものを解けということでいいですか?


 あぁ。


「桐沼」


「なに?」


 俺の右隣で一緒に家を見上げていた桐沼に声をかける。


「これから、小宮ばあちゃんにお前のことを話してくるからちょっと待っててくれないか?」


「……それはいいけど」


「オウランも付けておくから」


「オウラン?」


「これのこと」


 俺は自分の左肩に止まっていたオウランを指して答える。


「……変な鳥」


「変な鳥ってなんですか‼︎」


「し、喋った⁉︎」


 桐沼の変な鳥という評価にとても遺憾だというようにオウランが叫んだ。


 そして、その声に桐沼はもちろん驚くわけで……。


 オウランに喋るなって言った方が良かっただろうか? と一抹の後悔をしながら放置をすることにした。


「あとは二人で話してろ」


「ちょっと、変な「変じゃないです‼︎」


 桐沼とオウランがなにやら言っているが、俺は無視して鞄から鍵を取り出して扉を開ける。


 桐沼とオウランに手を振って家の扉を閉める。


 靴を脱いで洗面所に向かう。


 手を洗い、嗽をする。


 嗽のためのコップを仕舞った時、後ろに気配を感じたため振り向く。


「遅かったね」


 案の定、小宮ばあちゃんが立っていた。


「ちょっと誘拐されててね」


「……またかい」


「うん、まただね」


「大丈夫だったかい?」


「大丈夫だったけど、人を拾ったんだ。家に泊めていい?」


「……まぁ、いいけど、どこにいるんだい?」


「家の前で待ってもらってるんだよ」


「早く連れてきな」


「わかってるよ」


「本当かい?」


「本当さ」


「それなら、手洗い嗽をする前に話さなきゃ信憑性に欠けるよ」


「あ〜、はい」


「煮え切らない返事だね」


 はぁ〜、と呆れたように小宮ばあちゃんは溜め息を吐いて洗面所の扉から離れる。


 これ以上何かを文句を言われる前に俺はそそくさと洗面所から出て、玄関で靴を履いた。


 そして、扉に手をかけようとしたとき視界を眩く白い光が埋めつくした。


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