第25話 ここはどこ?



 幸いというかなんというか、オウランに飛んでもらい、どこにいるか確認したところ、俺の家の近くの山だったことがわかった。


 歩いて数十分といったところだろう。


 俺は家に帰るため獣道を歩く。


 その間、オウランに疑問に思ったことなどを聞いている。


 ––––全能の力は使うほどに肉体との親和性が高くなり、全能の力の威力や応用性の幅は広くなっていきます。なので、全能の力で今でき無いことも使えば使うほど慣れていき、でき無いことはほぼなくなっていくでしょう。


 これだけ聞けばどこかの危ない人たちの宣伝文句と言えなくもないようなことを言っている。


 ––––怒りますよ?


 ……誠に申しわけございません。


 ––––ちょっと間が空いたのが気にかかりますがいいとしましょう。


 クッ、オウランの採点は厳しい。


 ––––話を続けようと思うのですが、いいですか?


 はい。


 –––今のあなたの持つ全能の能力は本来の2割ほどの力を引き出したくらいです。


 ……言われただけでは分かりにくいんだけど。


 ––––しょうがないですね。


 オウランがそう言うと、目の前に古ぼけた紙が突然現れた。


 それは、俺がゴミ箱に投げ入れたはずの全能の能力の詳細が書いてある紙だった。


 そこにはこう書かれていた。



___________________


創造

・非生物

 ––––純物質

 ––––混合物

 ––––原子

 (以下未開放)


干渉

・非生物

 ––––純物質

 ––––混合物

 ––––原子

・生物

 ––––『全能』能力を持つ存在

 ––––『全能』能力を持つ存在と同種族

 (以下未開放)


発動条件

・詠唱

 ––––創造 創造するもの 〈創造する場所〉

 ––––干渉 干渉する存在 干渉結果 〈補足〉

・思念

 ––––創造 創造するもの 〈創造する場所〉

 ––––干渉 干渉する存在 干渉結果 〈補足〉


範囲

・『全能』能力を持つ存在のいる惑星系全て


___________________



 ……なんかちょっと増えてるな。


 ––––これが現在のあなたの力です。


 随分強くなったというかなんというか……。


 ––––この程度で強くなったなど言っていては、この先本当にやっていけませんよ? 


 うへぇ。


 ガサッ


 草を掻き分けたような音がする。


 音のした方角––––左斜めの方角––––を見やればそこには中学生(オウラン命名)がいた。


 もう一度言う。


 中学生(オウラン命名)がいたのだ。


 手にはなぜか俺が行きに持っていた鞄を持って。


「どうしてここに?」


「……私は部屋の外で邪魔が入ら無いように扉の前で待機していました。そして数分後中から大きな物音がし始めました。怒鳴り声、岩が砕かれるような音。何が起こったのかは、あなたが一番わかっているでしょう? その後、私は命令どうり動きました。何か予想外のことが起こった時のマニュアルに沿って私は扉を閉じ、魔法をかけて厳重に密閉をして、騒ぎが収まるのを待っていました」


 そこまで一気に喋り切ったあと、中学生はこちらを見て大きく息を吸って再び話始めた。


「騒ぎが収まったあと、扉を開けてみれば天井が崩れ落ち夜空を一望することができるような状況になっていました。私は、崩れ落ちた瓦礫の上を歩き、真ん中のところまで来て、再び周りの光景を見て呆然としました。我に返ったあと、あなたを追いかけることにしました」


 そして今に至る。


 と、言うことらしい。


「それで、なんで鞄を持ってきてくれたの?」


「……必要かと思いまして。いらなかったですか?」


「いや、あったほうが嬉しいけど」


「でしょう?」


 そう言って中学生は俺に近づき鞄を押し付けた。


「これからどうするんだ?」


「どう、とは?」


 不思議そうにして中学生がこちらを向いてくる。


「どうやって今夜を乗り切るか、これからどう生きるか。決めないといけないだろ?」


 俺がそう言うと、中学生はまるで考えていなかったとばかりに驚きの表情をしたあと、青ざめ、何かを考えるかのように眉間にしわを寄せ、顔を明るくしたと思ったら再び暗い表情に戻るというように見ていて飽き無い顔芸を披露してくれた。


「困ってるなら、今日は俺の家に来るか?」


 俺がつい可哀想になり中学生に言うと。


 フリーズしてしまった中学生と、


 ––––うわー、中学生を家に連れ込もうとしている……。いや、これはお持ち帰りというべき?


 これでもかと非難してくるオウランが出来上がった。


 ……オウラン、人聞きの悪いことを言うな。


 ––––否定はしないと。


 なんか俺に恨みでもできたの?


 ––––いえ、逮捕されても知りませんよということを言いたかっただけです。


 ちょっ、怖いこと言うな。


 だいたい、こんな暗くて森の中に警官が来るわけないだろ‼︎


 ––––そうですね。警官はこないのでどんなことをしても許されると……。


 事実無根だ‼︎


「そっ、それはそういうことですか?」


 俺がオウランに(頭の中で)喚いていると、中学生の思考が動き出したのか、声をかけてきた。


 しかし、なにやら誤解があるようだ。


「うん?」


 と俺はつい聞き返してしまった。


「わっ、わかりました。こんな体で「わ––––––––––––––––」


 慌てて俺は中学生の声を遮る。


「俺は、夜中の森だと心配だから家に来たいならきていいよ、って言ってるの。OK?」


「はっ、はい。わかりました」


 ふ〜。


 これで誤解は解かれた。


 ––––それは微妙な気がしますが


 俺はオウランのコメントを黙殺して中学生に声をかける。


「そういえば、名前は?」


「き、桐沼きりぬま さきです。」


 なぜかとても怯えられたような声を返してきた。


 少し不満に思いながら会話を続ける。


「俺は鬼崎きざき 駿翠しゅんすい。まぁ、気軽に接して欲しいかな」


 こう言えば少しは緊張が和らぐはずだ。


 ––––それは逆効果な気がするのですが。


「はっ、はい」


 ––––やっぱり


 ……オウランに不本意な事を言われながらも俺は山を降りる獣道を歩き始めることにした。


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