第24話 神の力 3
どうやら俺は地中の岩を壁だと思っていたらしい。
壁に触れて、思う。
干渉 岩 串刺し
神の顔がよく見えるところまで行き、俺は足を止め全能の力を行使する。
その力は砂利や岩を自由自在に動かす。
天井から、足元から、壁から、あらゆるところから神を串刺しにせんと尖った土が乱舞するかのように飛び出す。
足元からくる攻撃は踏み砕き、天井から降る攻撃は器用に避け、斜めや横からくる攻撃は両手から放つ紫の光線を使って壊している。
––––魔法陣からのエネルギー供給はなくなり、防御に力を回すしかない。あとは時間の問題ですね。
オウラン、それはフラグってやつだと思うんだけど。
––––安心してください。ここまできたら起死回生の一手は使えません。良くて道連れ程度でしょう。
その『良くて道連れ』っていうのが全然安心できないんだけど。
––––いえ、あなたのことではなく……。
「アァァァァァ‼︎‼︎」
声のした方に目をやれば、神が幾人もの魔女を盾にして俺からの攻撃を防いでいた。
そして、その魔女の肉体は灰のように崩れて消えていく。
––––本格的になりふり構わ無いようになってきていますね。
何したかわかるの?
––––はい、魔女の肉体を自分のエネルギーに変換したようです。
えぇぇぇ……。
––––生まれたてでも上級位の神ということでしょう。慈悲のかけらも無いですね。
そっ、そうだね〜。
魔女のほとんどは抵抗もせず神の餌となっていく。
そして、全ての魔女が灰となって消えたとき、神は俺を見上げ、口元を歪ませた。
そして、右腕を前に突き出した。
ぞわり、と俺は背筋を何かが撫でるような何かを感じ、その瞬間、目の前に紫の光が迸った。
音が消え、視界が紫の光で視界が覆われる。
体の感覚が失われ、上下の違いもわからなくなる。
再び、視界が回復したとき、目の前には満天の星空が広がっていた。
––––随分遠くまで飛ばされましたね。
どんくらい経った?
––––15秒ほどです。
神は?
––––そろそろきますよ。
……そうか。
俺は地面に手をつく。
足を曲げて、手を膝に置き、からだを起こす。
顔を前に向け、立ち上がった。
周りには樹々が立ち並び、草木の匂いが漂い、虫がジージーと鳴いている。
そして、森の中に入るにはあまりに不自然な紫色の人型。
幽霊のほうがまだ可愛げがありそうだ、と思うのは自分だけでは無いだろう。
––––まだ生きているか。
「おかげさまでね」
––––貴様は理不尽だ。
「お前よりかはマシだと思うが?」
––––それは周囲に及ぶ影響の大きさの話か?
「よくわかってるじゃねぇか」
––––それならば我より貴様のほうが大きいと思うがな。
「はぁ?」
とても理解に苦しむ。
長き時を生きれば山さえ吹き飛ばす化け物と、ただ死な無いだけの俺とを比べ無いでほしい。
––––あの神が言ってるのは現状ではなく最終的な話です。
なにっ、オウランもあいつの肩を持つのか⁉︎
––––あちらは山を吹き飛ばす。あなたは最終的には銀河も吹き飛ばせる。どちらのほうが周りに影響を及ぼすかはいうまでもないでしょう?
えっ、全能って銀河を吹き飛ばせるの?
––––あなたが全能の力を御することができれば銀河団規模でも吹き飛ばすことが可能ですよ。それ以上となればさらなる努力が必要ですが。
俺があんぐりと口を開けていると、
––––理解したようだな。
神が偉そうに言ってきた。
「で、お前は何が言いたいんだ?」
––––貴様はその力を持っているということが周囲にどれだけの影響を与えるかよく考えるといい。そうすればわかるだろう? これから貴様がどのような態度で持って接せられるかということぐらいは。
「だから、何が言いたいんだって言ってるんだよ」
––––貴様はこれから抗おうとも今まで以上の理不尽にさらされるだろう。
「それは脅迫か?」
––––いや、死にゆく者の忠告だよ。
「何を言っているんだ?」
––––こういうことだよ。
神の体から紫色の光の粒が宙に舞っていく。
それはとても幻想的な風景であり、儚さを思わせる光景だ。
俺は絶句してしまった。
––––私はあと数分もしないうちに消えてなくなるだろう。
「俺より短い時間しか生きてい無い奴の忠告なんて意味無いと思うんだが?」
––––私がこの体を手にしたのは短い時間だが、私という意思を持つ存在が生まれたのはもっと遥か昔からだ。だから忠告をしておこうと言っているのだよ。この世界は貴様の思うよりも理不尽で、残酷で、無慈悲なのだ。私は自分に勝った存在が簡単に負けるなどというのは嫌なのだよ。どうせ負けるならば圧倒的強者か、負けることなき存在に負けたという方が鼻が高いだろ?
「だから忠告だって?」
––––あぁ
「必要ねぇよ。お前の忠告なんざ。俺は全能だからな」
––––ふっ、そうか。
神の姿はどんどん薄くなっていく。
宙に舞う光は蛍のように舞い。
儚く消えていく。
神はもはや原型をとどめず、手が、足が消えていき、最後には胴体さえ崩れて光となって散っていく。
最後に顔だけになった神は、それはそれは憎らしい笑顔で消えていった。
「嵐みたいな奴だな」
––––まぁ天災みたいな存在ではありますよね。
しばらく、俺とオウランは感慨に耽っていた。
そして、数分後、余韻が去ったあとに気づいた。
「ここはどこだ?」
と。
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