第23話 神の力 2



 神の右手には濃い紫色の球で、中にはとても淡い紫の光が輝いている。


 そして左手にはこれまでと似たような単色の紫。


 そして、右手から紫の波動が放たれる。


 浮遊する感覚で、後ろへと飛ばされていくことを理解する。


 俺はしたたかに背を壁に打ち付け、勢いで瞼を瞑る。


 体の平衡感覚を取り戻そうと目を開き体を動かし……神が俺の首を掴み、壁に押し付けながら持ち上げる。


 押し付けられた後には罅割れた壁があることだろう。


 ––––確かに罅割れてますね。


 律儀にオウランが教えてくれる。


 それに少し喜びながら神を見る。


 すると、神がゆっくりと口を開き、一言。


 ––––貴様には人では耐えられぬ痛みを与えよう。


 ––––なっ‼︎ 痛覚遮断を……


「カ………ッァ」


 身体中に叫び声すら出せぬほどの痛みが襲う。


 手に、足に、体に、首に、そして頭にこれまで一度たりとも経験したことのない痛みが駆け巡る。


 息ができない。


 視界の焦点が定まらない。


 身体中の感覚が消え、指一つ自由に動かす力が出ない。


 体を痙攣するのに任せ、なけなしの気力で、どうにか自分の意思を保つ。


「じ、ぶん」


 ––––どうした? 痛みで気でも失ったか?


「か……んしょっ……う」


 痛覚遮断


 最後はもはや声にすらならなかったそれを全能の能力は俺の意を汲んで実現する。


 すなわち、神のありえないほどの痛みを催すという攻撃を遮断したのだ。


「カハッ」


 口から息が吐き出される。


 ゼー ハー と必死で息を吸い込む。


「痛いじゃねぇか」


 俺は神を睨みつけ言う。


 ––––今度はどのような手品を使った?


 神は至って冷静にこちらを分析するような目で見てくる。


「お前に教えてやるかってんだ」


 というか、一体どうやってあそこまでの痛みを与えてくれたのかこっちが教えて欲しいぐらいなのだが。


 ––––おそらくですが、あの魔元素を神経に直接流し込んだのでしょう。


 エグくない?


 ––––戦にエグいもクソもないでしょう。


 しかもどうしてわかったの?


 ––––私には目の前にあるエネルギーがどういう特性を持っているのか、どういうふうに流動しているのかを把握できる目を持っているのです


 どことなく自慢げにオウランが話してくれる。


 ––––作戦会議は終わったか?


 ……オウラン、話してるのがバレてるのだが。


 ––––ここは作戦会議は終わったような雰囲気でいきましょう‼︎


 あぁ、オウランがついに思考を放棄し始めてしまった。


 ––––終わったのならこちらからゆくぞ。


 神が俺の首を掴んでいる手を振り上げ、地に振り下ろす。


 その時大量の魔元素が手に集まり、俺の体にそれを叩きつけた。


 地面が陥没し、巨大な穴が出来た。


「地面 干渉 引き摺り込め」


 陥没し、周りに散った砂が、地面から隆起した砂などと合わさり、神を包み込む。


 頭を、腕を、足を容赦なく砂利が絡みつき、地面に引き摺り込むようにして埋めていく。


 そして、俺の目の前の地面に埋もれ消えていく。


「地面 干渉 圧縮」


 そして、俺は土の中に閉じ込めた神に止めをかけにいく。


 土を圧縮し、神の体を磨り潰していく。


 あとには数段低くなった地面と、少しエネルギーの浸透率の高い土砂が出来上がるだけのはずだ。


 ––––そう簡単にはいかないと思いますが。


 その時はまた別の方法を考えるさ。


「あぁぁ、神よ‼︎」

「……あれはなんなんだ」

「あれでは贄ではなく階位の高い神を連れてきたようなものではないか……」


 後ろで魔女たちが声を上げている。


 しかし、彼女らは歯向かう気がないようで、こちらを化け物とでも言うような目で見つめてくるだけだ。


 ボコッ


 俺が魔女たちに注意を向け、これからどうするか考えている時、神を埋めた地面の下から土が少し盛り上がる。


 そして、盛り上がった土の下から紫の光が吹き出した。


 やっぱり土を入念に被して固めただけだったら無理か。


 ––––あれでも上級位の神ですからね。


 ––––許さぬぞ、貴様。


 あの神はそれしか言えないのか?


 ––––それはないと思いますが。それに、生まれたばかりでまともに力を使えていないように思えますし。


 えっ、あれで?


 神を注視しながら俺はオウランに問うた。


 ––––本当ならば山一つぐらいは簡単に壊せるはずなので。


 回答はとてもではないが直視したいと思えるようなものではなかった。


 ––––死ね。


 チョッ、


 今度こそやばいと思った。


 放たれた紫色の光線での攻撃は俺を壁に叩きつけ、砕いていく。


 とても厚い壁のようで、10秒ほど経った今でも壁を突き抜けていない。


 必死で思考をまとめ、考える。


 壁 干渉 多盾


 最初にこの状況を打ち破ろうと思い、言おうとした言葉が声に出せない。


 頭の中で言おうとする言葉を考えるがそれだけ………のはずが、壁が動き、俺に放たれていた光線を分断し、威力を半減どころかほぼ消滅させた。


 ––––なっ、


「……どういうことだ?」


 目の前で起こったことが信じられず、つい口から言葉が漏れ出た。


 ––––今、次の階位に進んだということです。


 次の階位?


 ––––今ならば口で言わず、『全能』の力を使うと意識し呪文を頭で唱えれば発動する。そういう能力まで力が上がったのです。正確を期すならば本来の『全能』の力に近づいたというのが正解かもしれませんが。


 これなら、いろいろできることが増えるな。


 ––––頑張ってください。


 おう、愛しのオウランたんに応援されたんだから頑張るさ。


 今、俺は不敵に笑っていることだろう。


 何せ、これでまともに戦えるようになったと言ってもいいのだから。


 俺は作り出した盾をなくす、空いた壁の穴からは神がこちらを見据えていた。


 どうやら神は攻撃を止めていたようだ。


 なら、今度は俺の番か、袖をまくって俺は壊れた壁の中を歩き出した。


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