第21話 神の降臨
魔女と思しき––––ってもう魔女で良いか––––人たちが呪文(多分)を唱え始める。
ドーム、もしくは丸天井と言われる天井に呪文が反響し、本来いるはずの人数を超える人が呪文を唱えているように聞こえる。
ある人は平坦に、ある人は流動的に、ある人は情熱的に、ある人は冷たく凍えるように、ある人は悲愴な風に、ある人は感情が抜け落ちたように、ある人は小さく囁くように、ある人は朗々と歌を歌うように、ある人は…………誰もが自らに与えられた役割を
その呪文につられるように魔法陣が輝きだす。
右手には赤の光が、左手には青の光が、そしてその光は次第に動き出し、色が混ざっていく。
そして、最後には濃い紫色の光になる。
それは、とても狂気的な雰囲気を醸し出し、見る人に一種の恐怖のようなものを植え付ける。
––––狂信的な人たちですね。
……確かに。
僕の前で呪文を詠唱している人の笑顔がとても怖いのだ。
––––それはちょっと違うような気が……。
それより、俺の体から何かが抜けてるような気がするのだが。
––––それは、贄だからでしょ。
えぇ、今どういう状況か理解してるの?
––––
教えてくれる?
––––あなたの記憶を見た限りですが、彼女たちがやろうとしているのは下級神の創造、もしくは顕現といったところでしょうか。
……ということはだ、俺はその下級神の贄ということになるのだが。
––––そうだと言ってるではないですか。
生きて帰れるの?
––––不老不死で不滅のあなたを殺せる存在なんてこの世界に簡単に顕現できるような神だけです。
下級神では無理だと?
––––はい。
あわてる必要はないと?
––––下級神を顕現させるのに必要なのはあなたの持つ3%ほどのエネルギーなのであなたが死ぬ可能性は0にほとんど等しいです。なので、あなたが死ぬというシチュエーションを考える方が難しいです。
……酷い言われようだ。
––––ただ、今回生まれる”神”が本当に下級神という括りで言って良いのかわからなくなっていた場合はあなたが死ぬ可能性が1%ぐらい上がるかもしれません。
どういうことだ?
––––あなたの全能の能力の影響で下級神が中級神ぐらいの位に上がっていた場合はわからいという話です。
それってやばいよね?
––––あなたもわかっているはずですよ。
会いたくない。
––––すぐに会えますよ。
えっ?
––––そろそろですよ。
まるで、その言葉が合図だったかのように魔法陣の紫の色がさらに強く輝く。
そして、光の粒が生まれ出す。
それらは次第に魔法陣の中心––––俺の目の前に集まり、ある輪郭を取っていく。
”それ”にはまるで人のような頭があった。
両手があった。
両足があった。
胴体があった。
衣のようなものがあった。
そして、紫の光の粒で作られた”それ”が世界に定着した。
もっとわかりやすく言えば、女のような容姿になり、衣服の光と影までが視認できる。
そう、この世界の”物”だと理解できるようになった。
これまでの超常的な何かではなく、理解の及ぶ何かに。
「お目通りいたします。我らが神よ」
となりで、魔女が跪き口上を述べている。
––––うむ
その声は、オウランとは似ても似つかない声だった。
若くも、老いているようにも、男性のにも、女性にも聞こえる声だった。
––––貴様が”私”を確定付けた者か
「はっ、はい」
魔女は緊張したように声を出す。
––––何を望む?
「わっ、我らの崇める神となることを」
––––良いだろう
神の声はここにいる全員に聞こえるのかそれとも俺が近くにいるから聞こえるのか、どちらでもいいが頭に響く声だ。
––––して、貴様は誰だ?
「この者は贄でございます」
––––ほう、”私”を確定付けてなお生き延びている贄か……
とても不本意なことを言われたのだが。
––––喜べ、貴様に”私”の依り代となることを許そう。
「……嫌だ」
––––なぜだ、嬉しいであろう、我の依り代となれるのだぞ?
……神って全部こんな身勝手で相手のことを考えないような感じなのだろうか。
––––少なくともこの神はこんな感じなのでしょう。
オウラン‼︎ 話しかけてこないからどうしたのかと思ったよ。
––––少し驚いていたのですよ。
何に?
––––まさか、下級神が中級神を飛び越して上級神になるというのは予想外でした。
マジ?
––––えぇ、気を付けてください。あなたが生き延びれる確率が5%ぐらいに上がりましたよ。
どっちにしろ低いんだけど。
とにかく、気をつけろってことです。
あぁ、わかった。
––––なぜ答えない。
「いやぁ、考えてたんだよ」
––––何をだ?
「お前をどう倒すかを」
––––……なんだと
「だから、お前をどう倒してやろうかって考えてたんだよ」
––––いい度胸だ人間。貴様に我の威光を示させてやる機会を与えよう。
「へ、言ってろ」
––––貴様は我に服従する未来にある。
「じゃあ俺も言ってやる。お前は俺に無様に負ける未来にあるってな」
––––貴様‼︎
「こいよ」
紫の光が”それ”の手に収束し、俺に向かって放たれた。
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