第19話 例え偽善であろうとも 2



「はい?」


「どんな事か知らないが、物によっては俺が解決する事ができるかもしれないって言ってるんだよ」


 俺は現在、力で解決できる事なら大抵は片付けられる自信がある。


 油断をしなければまず死ぬ事はない。


 なにより、俺はいつでもここを吹き飛ばすような事ができるのだ。


 ––––まぁ、確かにそうですね。


「どんな事かも知らないのに、よく言えますね」


「だから、物によるって言ってるだろ」


「だから教えろ、というわけですか?」


「あぁ」


「はぁ〜。まだ1時間ほどあるのでいいでしょう」


 なにが一時間あるのかは怖くて聞きたくないのだが。


 ––––あなたを贄に捧げるまでの時間では?


 言うな‼︎


 言わないでくれ、オウラン‼︎


「私は––––って聞いてますか?」


 俺がオウランとくだらない会話を始めようとしたのを察したのか中学生がすこし拗ねたような声を出してきた。


「もちろん聞いてます」


「……それじゃあ話を続けますよ」


 胡散げだとでもいうような目をしてこちらを見ながら中学生は話を始めた。


「私の目的は、この組織の壊滅です」


 お〜、いきなりヘビーなのがきたよ。


「5歳で両親の借金のかたとしてこの組織に連れてこられたのです。もちろん最初からこの組織に連れられてきたわけではありません。偶然、この組織が隠れ蓑として経営している借金取りの会社の一つに今の私の上司が来て、私の才能を見抜き、連れてこられたのです」


 重い重い重い。


「それをどこからか聞きつけたのか、うちの子をそっちで預かるのなら金をよこしたら売ってやる。そう父親が言ったそうです。それに怒ったのでしょう。父親と母は肉片どころか、細胞一つ残らず燃やし尽くされました」


 いやいやいやいや。


 聞いてるこっちが辛くなってきたんですけど。


「許せないのです。母を殺したのが」


 父親はどうでもいいのか?


「父親が荒れていても、殴られても、母は私に優しく接してくれました。あの日、母が父親と一緒に死んだと聞いた時から、私はこの組織への復讐しか考えられないのです」


 ––––これは、死ぬ予定の人だからなにを言っても大丈夫だと思っているみたいだね。


 おい、不吉な事を言うな。


「先ほど言った通り、私は魔法を使えます。あなたが私が今喋った事を他人に言った場合、死にます」


 いつやられた?


「口頭でも契約は行われるのですよ」


 言ってもいないのに俺の疑問に中学生は答えてくれた。


「それなら、簡単だな」


「なにがですか?」


「この組織を壊滅させればいいんだろ」


「はい?」


「俺ならできる」


「しかし、私にはまだ父親の残した借金を返していません。それに、この契約が放棄されれば私は命を落としてしまいます」


「なにをしたら契約は履行されたことになるんだ」


「あなたを今日実験に参加させる。これが私に命じられた最後の命令です」


「それが終われば借金がなくなると」


「はい。ですので、あなたが私にできることはこのまま贄としての役目を果たすことです」


 そう言って彼女は口を噤んだ。


 もう、なにも言うまいというように目を閉じ、眠りについたように動かなくなった。


「そう、か」


 これ以上はなにを言っても無駄なようだ。


 だけど、言われた通りにやるとは言っていない。


 まぁ、今の所は表面上、従っておくことにしよう。


 俺がやるのは偽善だ。


 だが、組織から女の子を助けることは正義のヒーローみたいだな。


 ––––どちらかというと、言うことは言ったけど結果は残せなかった物語の登場人物Aさんみたい……。


 オウラン、煩い。


 そんなこんなで俺と中学生の会話は終了してしまった。


 ……オウランとくだらない話でもするか。


 ––––くだらなくないですよ。


 あぁ、わかったわかった。


 俺はそう投げやりに言葉を返して、オウランと話す新しい話題を考えるのであった。


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