第18話 例え偽善であろうとも 1



「お前は、どうしたいんだ」


 俺は、なぜかそう口に出していた。


 ––––何を言い出すんですか⁉︎


 オウランが俺に話しかけてくるが一旦無視だ。


「どうする、とは?」


「お前は、納得していないんだろ。この魔法の実験とやらに」


「納得は、しているといえば嘘になりますが、必要だとは思います」


「必要……なんで必要なんだ」


「生きるために決まっているでしょう」


「お前が、生きるために、必要ってことか?」


「はい」


「なんでだ」


「私には、為さなければいけないことがあるのです」


「その、為さなければいけないことの為には必要だと」


「そうです」


「どんな事なんだ」


 中学生は口を噤み、熟考するように目を閉じる。


 そして口を開いた。


「それは、私の質問に答えてからにしてください」


「……何が聞きたい」


 俺は、高圧的にならないように配慮しながら答える。


「それを––––私がどうしたいかを聞いてあなたはどうするというのですか?」


「内容による」


「具体的に教えてください」


「今すぐ、この下らない魔法の実験の手伝いをやめたいならやめさせてやる。この魔法の実験を行なってる組織から抜けたいなら組織ごと解体させることもできる。全ては、お前が、どうしたいか、だ」


 今言ったことを実現できる力はある。


 ただ、それも上手く力を活用できた場合の話だが……。


 ––––そればかりは頑張ってくださいとしか言えませんよ。


「そんなことができるのですか」


「できる力は持っている」


「確実性には欠けると」


「あぁ、相手が分からなきゃ対処はできないからな」


「……」


 事実、自分の知らないことにまで勝手に力が及び、自分の都合のいいように傾くような能力なんて数ある超能力、魔法を探しても片手で………数えることは無理かもしれないがそんな多くはないはずだ。


「相手が誰であろうと、倒せると?」


「自信はあるよ」


 ––––まぁ、全能ですからね。けど、過信していると足元を掬われますよ。


 このくらいなら大丈夫だろ。


 ––––そうかもしれませんが慎重に行動してくださいよ。


 わかってるって。


「その自信はどこからくるんですか?」


「俺の能力だよ」


「能力? 超能力ですか?」


「いや、異能力だ」


 この世界において、魔法を起こす物質、魔元素で行使される先天的な特異能力が超能力、魔元素以外の物質で行使される特異能力を異能力とされている。


 先天的に使える魔法とも言われる超能力、魔法・超能力の原理でも説明の及びつかない異なる力の異能力というわけだ。


 実際、俺の力はこの世界外のエネルギーで発動するから異能力だ。


 ––––その論法でいけば確かにそうですね。


 オウランの保障付きだ。


 間違いないだろ。


「異能力……その力でこれまでの誘拐犯を倒してきたのですか」


「いや、母親がどうにかしてくれた」


 異能力は昨日手に入れたばっかだしまだ万全に扱えているとは言えず、超能力も持っているが日常的には一切、使い道がない。


 しかし、母親は違う。


 俺の超能力は”自分もしくは触れたものそ存在を限りなく感知されにくくする”などというものだが、母親は”一度、認知した相手の場所を知る事ができる”というものだ。


 雲泥の差と言ってもいいだろう。


「……それは」


「俺ができるだけ行動しない方が勝手に解決してくれたし」


「……言っても良かったんですか?」


「俺、よほどの事がない限り死なないし」


 昨日そうなったんだけどな。


 ––––そんなに手の内を明かしてもいいんですか?


 こっちの事を信頼してもらうには嘘をついちゃいけないだろ。


 ––––それでいいというならいいのですが……。


「死なない?」


「あぁ、死なない」


 胡散臭そうに中学生がこちらを見てくる。


「それより、お前はどんな力を持ってるんだ?」


「魔元素の超能力」


「魔元素?」


「魔法を使うときの魔元素の量を減らせる。珍しいわけじゃないけど、有用な力だって言ってた」


「へー。それで俺を飛ばしたの?」


「そう。転移の魔法を使った」


「転移の魔法……確かに魔元素をいっぱい使いそうな魔法だな」


「うん」


 『珍しいわけじゃない』と言っていたが、それはこの組織か、それとも世界中の人類の割合的にということだろうか?


 日本で、一般的にそのような能力を持っている人物は戸籍に書かれており、監視をされている。


 そこから推測するに彼女はのどちらかだ。


 前者でも後者でも今自分を誘拐した組織のヤバさがわかる。


 これは一筋縄ではいかないか?


 ––––ならさっさと逃げましょうよ。


 だけど……。


「それじゃあ、最後に質問だ」


「なに?」


「その為すべき事がなせれば、この組織から抜けると」


「はい」


 中学生は迷いなく答えた。


 そして、俺は口を開いた。


「その問題、俺が片付けてやる」


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