第17話 俺を拉致った犯人は



 起きると、足錠が増えていた。


 ––––あの中学生が掛けていましたよ。


 俺の疑問に答えてくれるオウラン。


 ……なぜ止めてくれなかった。


 俺にそんな趣味はないというのに。


 ––––私の存在がバレて困るのはあなたでしょう?


 なぜだろう、そこはかとない悪意を感じたのだが……。


 ––––気のせいです。


 本当にそ––––気のせいです。


 思考を遮ってまで否定したかったらしい。


 –––– ……


 本人(鳥?)もなにも言わないのでそういうことなのだろう。


 それより、なんであいつは椅子に座って本を読んでいるんだ?


 ––––知りません。


 おい。


 ––––そんなことより、今晩あなたは”使われる”そうですよ。


 使われる?


 なにに?


 ––––それは知りません。


 ……不安になるからそんなことを言わないで欲しいんですが。


 ––––いきなり連れてかれるよりは気持ちが落ち着くのでは?


 それはそうかもしれないが……。


 ––––なら、感謝こそされど難癖つけないでほしいですね。


 納得がいかないが、事実でもあるので仕方がなくここは我慢しておこう。


 両手をうまく使い、手で体を起こし、壁にもたれる。


 足を伸ばし、疲れないような体制をとる。


「気がついた?」


 中学生(オウラン命名を採用)が声をかけてきた。


「あぁ、起きたよ」


「落ち着いていますね」


「攫われたのは今回で5回目になるはずだ」


「……よく生きていますね」


「運が良かったんだよ」


 本当にそう思う。


 なんで未だに生き延びているのか自分でも疑問だ。


 ––––運が良かったって言いましたよね。


 一言で運と片付けるのは嫌だし。


 ––––さっき片付けましたよね。


 心の中ではってことだよ。


 俺がオウランへ必死に弁解言い訳をしている間に、中学生が声をかけてきた。


「あなたはこれから死にます」


 ……普通話すか?


 オブラートに包めよ。


 ––––事前に教えてくれるなんていい人ではないですか。


 いい人?


 知らない方が幸せっていうものもあるんだよ。


「驚いているかもしれませんが、これは事実です」


 俺がオウランと脳内で話して思考に耽っているのを驚いた、または呆然としてしまったのだと勘違いしたのだろう。


 話を続けてくれる。


「これから、新月の時のみしか行えないという魔法を発動する予定です。その魔法を発動する時の贄としてそこに横たわっている4名の方を使用する予定でした。しかし、偶然か、はたまた天の采配か、昨日のせんであなたが見つかったのです。膨大なエネルギーを持つ肉体、汚れのない魂––––」


 なんか、心当たりがあるのだがオウラン。


 ––––奇遇ですね、私も心当たりがあります。


「この度の魔法の贄として持ってこいの人物。故に、指令が出たのです。あなたをここに連れて来いとの指令が。私を恨んでも構いません。ただ、これだけはわかっていただいて欲しいのです。少なくともあなたの命は無駄にならないのだと」


 無駄にならないって、俺の意志は?


 ––––あなたの意志はこの際、関係ないのでしょう。


 聞けば聞くほど、やばい匂いがプンプンしてくるんだが。


 ––––その前に逃げればいいでしょうに。


 そうかもしれない。


 ただ、俺の心に痼りのようにとれない感情が生まれた。


 なぜ、中学生は俺に向かって今にも泣きそうな顔をしているのだろうか。


 本当は嫌でやっているのだろうに。


 だから、俺の心の奥底でかどわかすような声が聞こえてきたのだ。


 ”俺は、全能の力を手に入れた。この力を少しは他人のために、偽善であろうとも使ってはみないか”


 と、俺が自らそう望んでいるような声が、聞こえてきたのだ。


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