第16話 拉致られた
灰色のコンクリートで出来た壁。
窓ひとつなく、ネズミ一匹も入れないような換気扇が数個見える。
埃っぽく、淀んだ空気。
吸った空気が肺に絡まるように纏わり付く。
近くには何人かの人が横たわっている。
ほとんどの人が、
ジャラ ジャッ
気になり、動こうとした瞬間に鉄が擦り合わさったような音がし、手首に抵抗を感じた。
視線を手元に向ければ、手首には手錠がかけられていた。
「逃げないことをお勧めする」
声のした方––––後ろを向いてみれば中学生ほどの女子が立っていた。
着ている制服が近場の学校で使われている制服でないことは一目でわかる。
こちらを見上げるその目は感情の揺れ動きが一切感じられない冷たい視線をこちらに送ってきている。
そして、彼女は透けるようにして消えた。
後には、廃屋と言って差し支えない部屋のひとつに手首を鎖で繋がれた俺と、同じ部屋にいる横たわった人たちだけだ。
近くの壁に寄りかかり、座る。
オウラン。
––––なんですか?
どう思う。
––––干渉の力で手錠を破壊してみては?
そういう話じゃないっていうのはわかってるだろ。
––––あなたがしたいようにすればいいと思いますよ。
したいようにって……。
––––力でもって捩じ伏せたり、黙らせたりすればいいのでは?
それはちょっと……。
––––それより、こんな状況でなんで落ち着いてるのかどうかを聞きたいですよ。
そりゃ、ここまで手の込んだことは初めてだけど攫い攫われなんて日常茶飯事だろ。
––––攫ったことがあるんですか?
言葉の綾だよ。
––––そうですか。
「はぁ〜」
溜め息が出る。
––––結局、どうするんですか?
寝るよ。
–––– ……それはどうかと思うのですが(というかどれだけ寝るつもりなのでしょうか)。
こういう状況を楽しむのも一興だろ。
––––そういえば、この人は変人だったですね。
オウランの失礼な物言いは流して、壁から背を離し、寝そべる。
冷たいコンクリートの地面が頬に当たる。
意外と気持ち良いと思ってしまったのは言わないでおこう。
––––私にはバレてますけど。
そこは黙っておいてくれよ……。
––––つい反射で
まぁいいけど。
鎖で動けない手をどうにか動かして寝やすい体勢を取る。
そして、寝転ぶこと数分、俺の意識は闇に沈んでいった。
= = = = = =
Side:オウラン
本当にこの人寝ましたよ。
先ほど攫い攫われは日常茶飯事だと言っていましたがそこまで物騒な場所なのでしょうか。
彼の記憶を除いてみた限り、子供の頃4回攫われたようなことが起こったみたいですが、その程度です。
そして、彼から得た一般的常識を思い返しても、攫う、攫われるようなことはあまりよくあることではなさそうです。
総括して考えてみると、一般的には攫うことは犯罪であり珍しいようなことであるが、攫われるということ自体は多くあり珍しくないとうのが彼の見解のようです。
これ、合っているのでしょうか?
多分違いますよね……。
私がこの世界について考察をしていると……
地面に紋様のようなものが光って浮かび上がりました。
光が消えた後いたのはローブを着ており、フードで顔を隠した男性とも女性とも言えない人間と、先ほど私たちをここに無理やりさらってきた中学生ほどの女子です。
中学生ほどの女子––––面倒なので今後は中学生と呼びましょう––––が扉を閉めている間に性別不詳の人間は周りを見回して私の
そして、主の前で立ち止まり中学生に問いました。
「これが、ですか?」
「はい」
「ふむ、使えますね。今晩、使いましょう」
「わかりました」
「ちゃんと準備をしておくのですよ」
「承りました」
なにやら不穏な会話をしています。
今回の主は早々に命の危機にさらされているのですが、大丈夫でしょうか?
不安です。
叩き起こしたいですが、それでは私の存在がばれてしまいます。
ここは我慢するとしましょう。
「それでは励みなさい。これで最後ですので」
「はい」
私が熟考している間に話が終わったのでしょう。中学生の方が性別不詳の人間をどこかへ送り、こちらにやってきます。
彼女は私の主を見て一言。
「ごめんね」
そう言って主の足を足錠で固定していきます。
……なんなんですかこの人。
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