第3話 回想 全能



 小宮ばあちゃんの作った晩御飯は食べ易い。


 脂っこ過ぎるわけでもなく、野菜だけでもない。


 まぁ、俺が好き嫌いがないというのも食べ易いと感じる理由の一つかもしれない。


 一応言っておくが、好き嫌いがないと言っても苦手なものはある。


 例えば、とろろ(*山芋、長芋を摩り下ろしたもの)なんてその筆頭だ。


 口の周りは痒くなるし、それが持続する。


 食べられるけど食べたくないもの。


 なので、小宮ばあちゃんはとろろを使った食べ物は作らない。


 何が言いたいかというとだ。


 小宮ばあちゃんの料理は世界一美味しいということだ。


 母の味(祖母の味かもしれないが)を感じさせるその料理の前に勝てる人はいない。


 閑話休題


 その、とても美味しい料理を食べた後、自分の分の食器は綺麗に片付ける。


 とは言っても、食器を洗うのは小宮ばあちゃんだ。


 俺は小宮ばあちゃんから手渡された台布巾で食卓を拭く。


「出来たよ」


 拭き終えると、その台布巾を台所に置いておく。


「あいよ」


 こちらを見もせずに答えたのは、食器を洗っているからだろう。


 俺は無言でダイニングルームを出る。


 二階に上がり、自室に入る。


 勉強机の前で立ち止まり、先ほど置いた古びた紙を見る。


 椅子を引いて、座る。


 折り畳まれていた紙を開くと箇条書きに言葉が書かれていた。


 初めて見た字であるのに、なぜかその言葉を俺は読むことができた。


 どのような理論でそうなっているのかはわからないがそういうものだと思い文を読む。


___________________


 能力名:全能


 この能力を極めれば貴方は全能に等しい力を手に入れることになるだろう。


___________________


 と、書いて有った。


 この時点で胡散臭さが満載だ。


 この世界に、数多あまたある超能力(異能力とも言うことも)、魔法、そして神と言った存在、それらの力を振るう者達であっても全能というには無理なものばかりだ。


 どのような力にも法則があり、その法則を曲げることは出来ない。


 故に、この世界に全能の力は存在しない。


 そう、結論づけられている。


 ……あぁ、だから『全能に等しい』って書いてるのか。


 一先ず理解したところで胡散臭さは抜けないが、続きを読むことにした。


___________________


創造

・非生物

 ––––純物質

 ––––混合物

 (以下未開放)


干渉

・非生物

 ––––純物質

 ––––混合物

・生物

 ––––『全能』能力を持つ存在

 (以下未開放)


発動条件

・詠唱

 ––––創造 創造するもの 〈創造する場所〉

 ––––干渉 干渉する存在 干渉結果 〈補足〉


範囲

・『全能』能力を持つ存在のいる惑星系全て


___________________


 ……以下未開放ってなんだ。


 未開放でも書いとけよ。


 紙なんだからって、更新されていくのかこれは?


 まぁ、そんなことは置いておいてだ、分かったことがある。


 これは悪戯だ。


 なんだよ、『『全能』能力を持つ存在のいる惑星系全て』って……。


 どこに、こんな都合のいい能力があるって言うんだ。


 えっ、ここにあるじゃないかって?


 どうせそんな都合よくいくわけないじゃないか。


 どうせならもっと現実味を帯びた悪戯でもしろってんだ。


「……干渉 自分 不老不死」


 ……何も起こらない。


 ふっ、やはりそうか。


 なら、日々の恨みつらみを学校にぶつけてやろうじゃないか……なんせ言うだけならタダだ。


「創造 隕石 創造場所 宇宙。干渉 創造した隕石 地球に落とす対象  私立野浦高校」


 ふふふ…


 ははは!


 ふはははははは!!


 まぁ、どうせそう簡単にはいかないだろうけど。


 はぁ、ため息をつきその紙を丸めて勉強机の隣に置いてあるゴミ箱に投げ捨てる。


 そして、学校で書き取ったルーズリーフのメモをノートに書き写す作業を始める。


 書き写す作業が終わり、俺が寝る頃には先ほどの古ぼけた紙の存在など頭の外へ追いやられていたのだった。


 この時のことを俺は後悔するとも知らずに呑気に歯磨きをして、蒸し暑いからと布団を被らずに寝ようなどと考えていたのだった……。

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