深淵


心の中で、しゃがんで水を見ている。

真っ暗で、深くて、底の見えない海。


遠くで祭りの賑やかな音が聞こえている。

楽しげな笑い声が響いてくる。

夜の街は提灯がいくつも並んで、昼間のように明るい。


そんな景色に背を向けて、水を見ている。

この暗闇の先に行きたいと、手を伸ばして水面に触れる。


冷たくて、同時に怖くて、手を引っ込める。

けれどまた、その水面に手を伸ばす。

その繰り返し。


誰かに呼びにきてほしい。

あの祭りの中へ、それとも水の中へ。

でも、誰も来ないことをわかっている。

誰も来ないで欲しいとも思っている。


ずっと。

ここから動けないまま。

水を見ている。







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【詩集】水の音に耳を傾けて  雪よもぎ @YukiYomogi

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