第一話 14節

 朝方、ロークゥはそそくさと今日の投票の準備をしていた。アズサと、デミド、村長がいないかわりに、この前日から元村長補佐でありかつて側近だったカーサが準備の案内と手伝いをしてくれた。カーサは、ツーブロックにオールバックの老紳士で、今回の村長補佐選挙の委員会の委員長をしてくれる予定だ。今回の件のおかしさをロークゥ達に話してくれた。村長が不明であることもおかしいと言ってくれたし、昨日は他に村長補佐を務めたことのある人間は村にいないため、もし必要ならば自分も立候補するという話を持ち掛けてくれた。投票はここだけの話としてこっそりと耳打ちで村長の推薦するロークゥ側を応援してくれた。


 その朝午前7時半のこと、ロークゥと二人きりのアズサは、委員会の人間や野次馬などが外にあつまっている村長宅で、リビングにてソファーに腰かけ周囲を見渡し人が聞いてないことを確認すると、隣にすわるロークゥにこっそり話しかけた。アドはロークゥの傍で眠っていた。

アズサ『ロークウさん、この投票の事をどう思っていますか』

ロークゥ『どうって、拙速ですがヘックさんにまかせていたら、きっとまずいことになるでしょうね、ほぼ確実に彼の背後には黒魔術師がいるでしょうし』

アズサ『お願いがあるのです、ジャックは着任してから日が浅くあまり人々から信頼を得てもおらず、あまり頼りがいがあるとはいえませんが、でもやるときはやる子ですし、ただ、消極的なだけで……きっとジャックは自信がないだけなんです、だからアーメィさんの救出にも従わなかったのです、でももし彼が自信をとりもどし、あるいは救出が成功した時には、もしチャンスさえあれば彼に自信を持たせてあげてください、そんな機会があればの話ですが』

 ロークゥは少し目を丸くしてアズサの方をみた。アズサはきっと、この村の村長が彼でなくなるような事態を恐れているのだろう。ロークゥは何としても、たとえ彼女の隠したい本性を村人の前でさらけ出そうとも、初めからその事態を防ごうと思っていた。寓話使いとしてのポリシーとして。

『ええ、わかりました、きっとそれがこの村の今後のためにもなるでしょうし私はこの事件の背後にある黒幕にさえ接触し、彼の目的をしる事ができればそれで大丈夫です、単なる寓話使いの旅人ですから』

『ありがとうございます』

 眼鏡をつけ、少し事務仕事をつづけていたロークゥだったが、しばらくしてアズサに今度はロークゥの側から話しかけた。

ロークゥ『私からもお願いがあります、今回の投票ですが、アズサさんを推薦します』

アズサ 『え?てっきりほかに推薦する人でもいるのかと』

ロークゥ『カーサさんはいいひとですが、私たちが安全に“影”から守れるのはアズサさんとデミドさんです、常にといっていいほどそばにいますから、それにカーサさんは委員会の人ですから中立でなければならないので候補にするのは、少し現実的ではありません、大丈夫です、もし荷が重いというのなら、ジャックさんが帰ってきて、ヘックさんから地位をうばい返した暁にロジーさんに村長補佐側近の役目を戻せばいいだけですから』


 バタバタとしているうちに、その時はやってきた。投票の時間である10時だ。ロークゥはデミドとアズサに関する情報を集めきっており、少し作戦もあった。朝方、例によって手紙でこっそりとアーメィとやり取りも交わしていたのだった。


 会場は街の中央、マナの木のそばで行われ、マナの木の近くに候補者たちの席、観客席がその対面におかれた。投票はまず、各候補のと推薦人による紹介、候補者による自己アピール、討論、次に投票、開票の順に進むことになった。時間があまりにもなかったが、そのため候補と推薦による紹介も長く時間をとることになった。


 時間までに、候補者席側には左右にテーブルと椅子を向かい合うようにおき、中央に委員会の座席が少し後方に置かれ、その前に壇がおかれた。各陣営はあわただしく走り回ったり準備をしていたが、候補はどっしりと、向かい合ってすわっており、ロークゥも時間ができ、準備をおえたので、アズサの横に座った。

ロークゥ『……やはりアズサさんが正式な立候補者という事でお願いしますね、土壇場ですみません、まさかデミドさんが土壇場で断るなんて』

アズサ『私、緊張してきました、まさか私が村長補佐なんて、確かに私はよい家系の出だと多くの人にしられてはいますが……その』

ロークゥ『“魔女”とよばれるデミドさんを助けているという負い目ですか?大丈夫、なんとかします、あなたは“すべて正直に”話せばいい、嘘をついてもあなたは“正直に嘘をついてしまう”それでいい、きっと相手は私の事を“偽物のマナ使い”とでも“ペテン”だとでもののしるのでしょうが、それでいい、あなたはきっと彼らに同じ印象をもっているでしょう』

アズサ『はい、彼らこそ、ロジーやジャックのいない間に好き勝手しようとしているだけだわ、きっと“黒霧”のせいで、村の人々もおかしいのよ』

ロークゥ『あなたにみせた“私の真の姿”を必ず相手は批判してくるでしょう、ですが彼らの背後には黒魔術師がいる、彼らもそのことを投票の際には隠すはずです、あなたは彼らが“ペテン”であり、術など使えないといいはり、私の事もそう突き放して大丈夫です』

 アズサが少しだまっていると、ロークゥはポンとあずさの肩をたたいていった。

ロークゥ『あなたがなぜデミドにあれほどつくすのか、私はしっていますよ、それをあなたがひた隠しにするのも“嘘”ですが、それはよいウソです、私が善いウソと悪いウソとの区別をつけてみせますよ』

アズサ 『わかりました、あなたの事を信じます』


 壇を隔てて対面に座ったのは、憎たらしく微笑むオールバックに長髪の男。ヘックである。傲慢な態度でうでをくみ人を見下すように背もたれにもたれかかりふんぞり返っている。

ヘック 『やあ、ロークゥさん、まだこの村にいたのか』

ロークゥ『私の友人を誘拐しておいて、そんなことをいうのですか』

ヘック 『まあ、だが友人というには、ジャックとは日が浅いのではないのでは、あなたは……ペテンなのに、寓話使いではないのに、この村のためになんでそこまでするんだ』

ロークゥ『旅人としてほおってはおけません、あなたの背景にいるものに用があるのです』




 初めにヘックの部下のドイドという短髪でせの低い男がでてきて、推薦者をなのった。彼がヘックの紹介を始める。彼がかつて先代に仕えたとか、どれだけ村につくしたとか、家系が由緒正しいものだとか村人なら知っているようなことばかりだった。だが問題は今彼が過激な“復興派”になっていること、それが問題だと誰もが知っているはずだ。彼の立場は明確でありつつも、そのことには極力触れず、無機質な紹介だった。そんなことより誰もが彼の背後に立っている部下たちにつきまとっている“黒霧”をみておかしいと思っていたはずだったが、雰囲気として誰もくちにしはしなかった。アズサもそのことをロークゥに尋ねたが“闇影”が障りを起こす“霧障ムショウ”が浸食している証拠だというばかりだった。


 次にロークゥがアズサを紹介する。

『彼女は貴族の出でありながら、村長、緊張すると嘘をいうのだという噂もありますが、逆にいえば、嘘をつけない性格であり……ジャック村長の幼馴染である彼女はジャック村長からも特別な信頼をえております、彼女が嘘をつくようになった理由は、彼女は自分で明かすことをしませんが、彼女の身に起こった不幸のせいです、それから彼女は自分がある人の事を“復興派の疑い”からかばえなかった事をずっときにして、許しをこうでもなく、ずっとその人に尽くしてきました、こんなに実直で素直な人はいません』

 ロークゥの紹介もあまりに簡潔だったがユーモアにとみ、少し笑いをかった。そしてアズサの紹介が終わった後のことだった。


 飛び入りで、ロークゥ達の背後からある人が現れた。

『ちょっとまって、この私も立候補するよ』

 デミドだった。彼女は杖をつき、大勢のかつてシャーマンを信仰していた村人たちをゾロゾロとひきつれて、壇の後ろに椅子をはこび、腰をおろした。人々の中からどよめきがうまれる。カーサだけが何かを了承していたかのように、じーっとその様子をみていた。会場のその場所、つまり委員会の背後は、たしかにその事情をあらかじめわかっていたかのように、すっぽりと開いていた。

デミド『かまわないよね?カーサ、私も大勢の人間から推薦があったんだ』

カーサ『ええ、処理はすませてあります、ですがあなたは本気で……』

デミド『本気の本気だよ、もし二人の討論がきにくわなければ、二人がふさわしくないと思ったときは全力で私もアピールするよ』

 デミドはアズサのほうに目をやる。

アズサ『デミドさん?』

 デミドは言葉をはなたなかったが、変わりにしぐさでアズサを安心させようとした。

ロークゥ(ウィンクをした?)

 ロークゥとアズサにアイコンタクトをとったあと、デミドも自分の紹介をした。古くからこの村に仕えたシャーマンであり、“現状維持派”であることを宣言して。


 続いて候補者の自己アピールの段になった。各候補が自己アピールと、側近(村長補佐)としての目標を訴え始める。まずカーサは先と同じ順にヘックを指名する。


ヘック『私は、私の一族はこの村をまとめてきた、先代は過去にふたをし、ある時から復興派を邪見にしてきたが、その後、この村はいつも影の教会にも光明教会にもへりくだるだけだった、シャーマンにもへりくだり、外から来るものを恐れてばかり、そのせいで一般的な村人や、村の我々の地位は見下されるばかりで、村も貧乏になる一方……そこでだ、私たちには抵抗する力が必要だ。それは地下に眠る、旧文明の資源だ、採掘自体が危険で、闇のマナに飲まれる危険もあるが……相応のものに任せれば問題はない、そういえば最近外からきたものが“盗み”を疑われるようなことがあったそうだが……どこぞの旅人だっただろうか、彼らもきっとその“力”の莫大さに気づいているだろう、村長もこの村の地下には莫大な資源が、旧文明の遺産が埋まっているといっていた、そもそも村や都市のほとんどは地下から“マナツリー”をほりあげ、その上に都市を築きあげてきたのだ』

 観客の村びとはヘックの言葉に笑いとどよめきを生じさせた。

ヘック『それはともかく、地下深層の採掘には危険が伴うことは承知している、だから私は無理強いをしない、ただもう一つの方向性を示したいだけだ、地下には私たちを自由にする資源が眠っている』


デミドが誰に言うともなしにつぶやく。

『よくいうよ、あんなに部下を“黒霧”にそめちまって』


アズサが指名され、アズサの番になった。壇上にゆっくりとあるいていく、緊張しながらもその目は、まっすぐ前をむいて、檀上へ向かい、姿勢を整え一呼吸をした。そして深く息をすうと観客の一人ひとりに話かけるようにして訴えた。

『私は誰より村長のそばにいて、一緒に育ってきました、ジャックには、きっと、優柔不断さはあったけれど、彼はみんなの意見に耳をかたむけ、少数者の話もよくきくところがあった、たしかに先代のいうことを真剣にききすぎて、頑固なときもあったけれど、だけど批判があるとそのたびに人の忠告を聞きいれてくれた、頼りない彼だけれどだからこそ、間違えながら正しいことを探っていく力があある、そんな彼をサポートしていきたい』


次にデミドが訴えをする、彼女は長話を語らず、シンプルに話をおえた。

『私は少しでも、シャーマンの地位が良くなればいい、それだけだ』

 立ったひとこと、そうとだけ訴え席に戻った。がやがやと観衆がさわぐ、本当に当選する気はないのはみえみえだった。ロークゥはデミドはきっと、彼女の信奉者や彼女に協力的な信奉者や関係者にどちらに肩入れさせるべきか見極めようとしているのではないかとアズサに語る。アズサはそれにうなずき笑った。


 席についたデミドは、振り返り彼女の背後にいる信者や協力者に呼びかける。

デミド 『さあ、どちらがふさわしいか見極めようじゃないか、私たちはほとんどが古来からのシャーマンの関係者だ、私がロークゥの話に肩入れしたのは、ジャックが人を見極める能力があるかどうか見定めるためでもあった!なんといっても旅人たちが早朝勝手に地下を探ろうとしたとき、一番かばったのは彼だったからね』

 デミドの信者たちが、彼女の言葉にうなずくのだった。だが彼女はどこか、わざとらしく笑うのだった。きっと彼女自身が、彼女の信奉者を大げさに一つの目的に導いているように。


 次に、推薦者も交えての討論になる。決まりはほとんどなく、対話形式でお互いの批判をしてもよし、自分のアピールをしてもいい。

カーサ『では、討論開始』

 まずヘックが攻勢にでる。

ヘック『旅人、彼女は突然あらわれ、この村の政治に介入しはじめた、これ自体おかしいこととは思いませんか、皆さん、それに、彼女には隠し事がある』

 次に部下のドイドが加勢する。

ドイド『彼らは盗人です、少なくともそう疑われている、村長との関係も疑わしい』

ロークゥ『村長といえば、気になることが、村長はさらわれた、きっとあなた方の関係者に』

ヘック『!!』

 ロークゥは負けじと彼らのほうを指さしていった。

ロークゥ『あなた方の背後にいる、顔がはれた人は、だれですか?あなた方は不当に権力を奪取するために村長をさらい、村長に危害を加えたのでは?』

 ざわめく会場。討論の段になるまでだまってはいたが、候補者紹介の時に正面のヘックの陣営の中央に顔をはらした人(男か女かわからないほどに)がつれてこられて、どう見ても拘束されているようで、ボロ衣を何重にもきせられ、人の群れに押し込むようにがさつに扱われていた。

ヘック『何を馬鹿な事を、私から言おうと思っていたがこれはあなた方の仲間である

アーメィという弓使いだ、彼女は私の仲間を攻撃したので仕方なく私は彼女をとりおさえた、乱暴な女性だった、仕方のないことで、正当防衛だ』

ロークゥ『男か女か、布をはいでみないとわからないではないですか、なぜそんなに厳重に厚着をさせているのですか』

ヘック 『くっ……人にケチをつけるばかりで、あなたは本当にこの村のために何かをやろうと思っているのか?もしこれが村長だとして、どうするというのだ、あなたは寓話使いなどではない、ただのペテンだ!』

ロークゥ『ではその人が私たちの旅仲間のアーメィではないことを証明してみせます、その人は村長です、私は本当に寓話使いですから、寓話使いの力を使い、本当の姿を映し出してみせます』

 ロークゥは、呪文を唱えた。すると、不思議な事に、ジャックのとなりに白い霧がたちこめ、そこに陰影が生まれ、白黒の絵画が描かれるように、傷だらけの人の隣にジャックの素顔がうかびあがった。

会場のざわめきはより一層大きくなった。ヘックが大げさに叫んだ。

『ペテンだ!』

 ロークゥがその言葉に応える。

『あなたたちだって、デミドだって、多くの人を立場によって少なからず、魅了している、そのすべてはペテンだとでもいうのですか?それに、ペテンだトリックだというのなら、本当の世界をみせましょうか?あなたの黒霧があなたの部下を洗脳しているということと、あなたが私たちを脅しているという証拠を』

ヘック『ハッ、ただの張ったりだ、黒霧が何だ、彼らは自らの意思で、お前は本当に正式な寓話使いなのか怪しい、術が使えるのなら、もっと使ってみるがいい、どうせ口だけで私は真実をしっている、お前がペテンを働いたあとにでも、その証拠を差し出してやろう』

ロークゥは、ヘックの足元に目をやり指さした。

『その小型の籠は?』

『これは、何でもない』

 ロークゥは何のためらいもなく、隠すでもなく置かれたその籠の中に、捕らわれたキングとクイーンの姿をみていた。

『その箱の中に人を“影憑き”たらしめる証拠がある、それを人々の前で披露します、それでで私の能力の正しさと、私の身の潔白を知ることができるはずです、それでも村人たちが私をペテンだというのなら、私は寓話使いでも何ものでもないことをみとめます』

 ロークゥは、観衆に向かって、ジャックに説明したように、、手短に妖精の欠片の説明をした。その途中にもヘックがまたからかうように口をはさむ。

ヘック『妖精の欠片なんてものはいない』

 ロークゥはヘックと観衆に交互によびかける。

ロークゥ『では、マジックと同じ要領です、私が何をいっても“はい”と心の中で念じてください、会場の皆さんも同様にしてください』

 ロークゥは何をおもったか、会場にむけても大げさにみぶりてぶりで呼びかける。

ロークゥ『あなたは、あなたたち村人は嘘つきではないですね?』

ヘック 『ああ、嘘つきではない』

 そういっても、観客の村人たちがそう念じても何もおこらなかった。しばらくして一呼吸おき、ロークゥは別の質問をする。

ロークゥ『では、次に……第二の問いです、彼女は、アズサはある時期から、緊張すると“嘘”ばかり話すようになってしまった、それは家族が疑われてしまったときからだと私に話してくれました、彼女の一族は、かつて“復興派”であることを疑われた、あなたたち村人、ほぼすべての人には罪悪感があるのではないのですか?彼女の家族を村から追い出したことに、だから彼女のクセ緊張すると嘘をつくくせをみんなで許している』

ヘック『そ、それがどうしたんだ、彼女はよい血筋の子でそうした配慮もあるだろうよ、それにシャーマンだって被害を被った、復興派と現状維持派の分断は多くの不幸をもたらしたよ』

ロークゥ『いいえヘック、そうでしょう、ですから念じてください“はい”と』

 人々もヘックも少しうつむき加減になり、心の中に念じていた。その中の村人たちが前をみると、驚くべきものを目撃した、そして、会場の中でちらほらざわめきが生まれた。ロークゥはヘックに向けてだけ小声でこの催しの目的を話す。

ロークゥ『この妖精の欠片、嘘つきにしか見えないのですよ、後ろめたい隠し事がある人々にしか、彼女いわく、彼女の家系に恩を持つものも多かったが、この村では水面下では常に権力闘争がおこなわれていた、“わざと嘘をついた人々”が彼女の家族を罠にはめたのだと、それはこの村の過半数を占めていたと、だとすると過半数は“後ろめたいウソ”をもっているはず、そのことを自覚するとき、妖精の欠片が見えてくるはずです』

観衆の中のA『妖精だ!!妖精を見た!』

観衆の中のB『ああ、確かに、何かいるぞ!』

観衆の中のC『籠の中に何かをとらえている!先代で“黒霧”はこりごりなのに』

 どよどよとざわめきがうまれ、ついにはそれは会場の観衆全体を埋め尽くさんばかりの大きさになった。ロークゥはそれに勢いを合わせるようにして観衆に訴える。


ロークゥ『ペテンだペテンだと私に向かっていいますが、あなたの応援者に黒影がつきまとっているのはどういう事ですか?それにこのことにもはや村人も慣れ切ってしまっている、この術が使えるのは、黒魔術師だけ、あなたの背後に“黒魔術師”がいる事は明らかです、これがわかるのは私がペテンではないからですよ、それともマナを使い、魔術を使うものがペテンだというのなら、私たち双方ともペテンです』

 またもやどよめきが沸き起こる。

 


カーサ『そこまでです』

 会場の熱気とどよめきを察して、危ないと思ってかカーサがとめに入る。

カーサ『討論を続けてください、この村についての話を』


 その頃別の場所、村はずれの湖畔にて。水辺に手かせ足かせをつけた小さな妖精が飛ぶ、呼吸を荒くしていた。その後を同じく息切れしたアーメィが追いかけていた。ある行き止まりにつくとスレイヴは飛ぶ力を失ったのか、焦りながら、地面に腰をかけた。

アーメィ『スレイヴ!ああスレイヴ!すばしっこい!!ついにおいつめたぞ!!これで決着をつける』

スレイヴ『アキラメロ』

アーメィ『ふん、ヘックってやつによく似ている顔つきだわ』

 妖精は確かにあのオールバック長髪のへそ曲がりな顔つきをしたヘックにそっくりだ。誰に言うとでもなく、演説のような口調で語り始める。

スレイヴ『フッコウハ、チカシゲンの採掘、一世一代の改革!!我々ノ村はさらに豊になるべきだ、人々の意思など関係ナイ、投票がドウなろうと、我々は地位を奪取する』

アーメィ『我々とはだれの事だ!』

スレイヴ『黒魔術師様だ、黒魔術師様に従い、この村は帝国の領地となる!!』

 そう叫びながらスレイヴは長い爪をのばし、アーメィにきりかかる。アーメィはそれをさけようとしつつ、矢をつがえた。二人の間に一瞬の緊張と、衝撃が走った。次の瞬間、何が起ころうとお互いが覚悟をきめたのだった。


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