第一話 13節

 ロークゥに連れ戻され、行方不明だったロジーが村長宅に戻ってきた。彼は皆に

『友人(ドグラ)が消息不明になり、彼をおっていたが、ヘックの部下と傭兵たちにつれさられた』 

 と話したので、ロークゥはロジーを連れ戻したことをヘック達に隠しとおすことにしていた。きっと行方不明のほうがいいはずだろう。傭兵たちも口さえも縛りつけていたために、ヘックにそれに話すこともなかった。それはロークゥの判断で、この村の問題を解決するために、傷ついてマナを失ったロジーをそのまま地位を与えては危ういと判断してのことだ。それよりも、投票によってロジーの地位を一時的に取返したほうがいいと考えた。ロジーも皆もそれに同意した。ロジーは村長の書斎の隠し部屋にしばらく隠れてもらう事にした。ロジーがついていた地位、新しい側近である村長補佐の村民投票は2日後におこなわれることに決まった。その間、各々準備をすることになる。ジャックの誘拐についてもみんなで話あったが、ロークゥのパーティに一任されることになった。

ロークゥ 『アズサさん、ジャックさんは必ず救出しだしますから』

 そういってヘックや傭兵たちの様子をさぐるべく、斥候にアーメィを送ることにきめた。アーメィが自分から名乗り出たのだった。

アーメィ『きっとロークゥの力を使うにはアドが必要になる場面もあるだろうから、あの子の“特殊な力”が魔術の使えないミュータント、亜人の力がね』

アズサ 『特殊な力?』

ロークゥ『いずれ話ますよ』


 各々が作戦をたて、投票にむけて準備をしていた。アズサは知り合いにかたっぱしから連絡をとり、デミドもそうしてくれた。彼女はかつて先代の村長の時のシャーマンだという事もあり顔も広い。魔女と言われ嫌ってくるもの以外にも、彼女と長い付き合いの人々がいるのだ。アドは、何か役に立つ情報はないかと村長宅を探しまわっていた。


 少したって、ロークゥはアズサの手が空いたのを確認して彼女を呼び止めた。

 『アズサさん、ちょっといいですか?あとで二人だけで話がしたくて、時間ができたら二階にきてください、少しあなたについて聞きたいことがあるんです』

 『?』

 アズサは何のことやら心あたりもない様子だったがそのことに了承した。しばらくして、アズサが二階にあがると、ロークゥが優しい顔で、本をよみながら壁にもたれたちつくし待ち構えていた。

ロークゥ『きてくれましたか、そんなに難しい話ではないので気を楽にしてください』

アズサ『はい』

 そういわれて、アズサは肩の力をぬいた。ロークゥが姿勢をただし、持たれていた背中をピンと壁から離してのばした。

ロークゥ『この村にきて初めの頃、魔法によってあなたの魔力を調べたことがありましたね』

アズサ 『ええ』

ロークゥ『その時のことをずっとだまっていたんです、あなたは魔法が使える、つまりミュータントでありマナ使いではないかと、周りに人がいたので隠しておくべきかとおもったのですが、あなたはこの事をしっていますか?』

 アズサは髪の毛をなで、舌をだしてわらった。

 『そのことですか、やっぱりわかってましたか、ええ、確かにそうです、ジャックにも秘密で、でも私が使えるのは、かつて本で読んで覚えた“プロテクト”の魔法だけで、子供の頃みよう見真似でやっていても発動できなかったのが、たった一度、一度だけ魔法が使えたんです、それも偶然のことでした、私はその時自分がマナ使いではないかと思ったのです、昔の話になりますが、長くなりますがいいですか?』

 ロークゥはコクリとうなづく。

 『かつて、先代の村長だったころ、村長宅が強硬な“復興派”に襲われたことがあったのです、そのとき私ははたまたま村長宅にたずねてきており、暴漢たちが警備をやぶって家にはいってくるのをハラハラ、おどおどと様子を探っていたのですが、目的が村長だとわかると村長は自分に隠れているようにいったんです、それで私はクローゼットにしばらくかくれていたのですが、暴漢たちが私たちが隠れていた二階になだれこんできて、暴漢が村長をとりかこみ、鉄パイプで彼の頭を襲おうとする瞬間に、私はいてもたってもおれず、クローゼットをあけて、とっさにその“プロテクト”の魔法をつかって村長をかばったんです、みようみまねでかつて練習した作法と呪文をとなえたのです、まさか本当に使えるとは思わず、暴漢に襲われる覚悟で守りに行ったのですが、偶然と奇跡のおかげで、村長は軽傷ですみました、村長は私にえらく感謝をし、後日礼をするためにと改めて自宅にくるようにとおっしゃり、後日、その時のお礼にとお菓子やら果物をもらったのですが、そこである真実を暴露されんです』

先代村長 『君に話しておかなければいけないことがある……』

アズサ 『実は私は捨て子だったとそこで聞かされました、それをひろい両親にあずけたのが先代村長だった、それも、村長の奥さんの勧めだったそうですが、それは事実らしいkとおは両親からも20歳になる頃にそのことをきかされわかりました、でも村長は私が魔法を使えるマナ使いであることをシャーマンや奥さんを通じてしっていたのにおかかわらず、両親にもいわず、私にだけその時話してくれたのです』


 その話をきき、ロークゥはごくりと生唾をのんで、また話をきりだすのだった。

ロークゥ『あなたにばかり秘密を話してはいけませんね、少しあなたの力もかりたいところですし、アズサさん、今から見せるものと私の真実をしっても、驚かないでください。そのことによって私が信頼を失おうともかまいません』

 次の瞬間、ロークゥが服をはだけさし、その一瞬だけ黒い闇がその一室を覆い。それは黒い翼のようにひろがった。一瞬

アズサ 『アッ』

 という小さな悲鳴が室内にこだました。


 それからしばらくたち、アーメィの出発する予定時刻。アーメィの斥候と偵察については皆にも話してあったのでアーメィは皆で見送ることにしていた。アズサが一人では危険だと反対したが、もし何かあるようなら全員で攻撃を仕掛けるというロークゥの言葉に納得した。しばらくしてアーメィがロークゥに声をかけた。そこで皆もそろそろでかけるのだろうと、さとってアーメィのそばに集まった。

アーメィ『いってくる』

ロークゥ『アーメィさん、くれぐれも気を付けてください、何かあったら必ず照明弾を……』

アーメィ『わかってるって、あんたもね』

 正午少し前、村長宅をでる。アーメィは隠密行動をとりながらジャックの捜索を始める。旧村長宅が怪しいという事をアズサにきいたので、その場所にはりつき、その日は夕方までずっと監視をしていた。だが異変はおきず、怪しいところもわからずにいた。ただ入口には確かに人が多く傭兵の姿もあったが、近づくにも傭兵の数が多すぎた。ひとつでも有益な情報をもってかえろうと、旧村長宅を遠目に監視しつつ、時に口元を隠し村人に変装し、こそこそと村を散策してまわっていた。夜になれば、チャンスさえあれば忍び込もうと考えたのだった。


 昼過ぎごろ、デミドは皆にことわり家一度帰ることにした。シャーマンの道具をとりにいくといい皆も納得した。デミドが家に近づくと、何やら家の周囲がさわがしい。

 (何だあれは、人だかりができているわ)

 まるでデミドの家を取り囲むように、よくみると、それも見知った顔がならぶ。

デミド 『どうしたんだい、あんたら』

人々 『ああ、デミドさん!投票だかなんだかやるという話じゃないか、だが旅人も、ヘックも信用できない』

ある男『デミド、あんたの権力をとり戻す時期だ、あんたも立候補しなよ』

デミド『!!』

人々 『シャーマン復活、シャーマン復活、現状維持派は我々のもとに』

(こりゃまいったね、無理やりにでも統制をとらないと、でもまあ、ワシの腕の見せどころかね)

 そういって、デミドはにやりと笑った。



 夕暮れ時、アーメィは偵察を続けてが、その頃までジャックの情報などはまったく集まらなかったものの、夕暮れどきに傭兵たちに無理やり近づき、その時彼らたちから盗み聞きした会話があり、その内容がきになっていた。

A『村のはずれにアレはある』

B『北のはずれだな、まったく同じように地下に隔離すればいいものの』

アーメィ(地下と村のはずれに何かがある、もしかするとジャックがどちらかに隔離されているのか)

 その時間帯になるとなかからぞろぞろと人がでてきたので、まず、外側の監視役の前に石をなげて注意をひいて、少しそとにおびきよせたあと、少人数なら相手にできるだろうと、アーメィはひっそり屋根裏にしのびこんだ。


 こっそりと様子をうかがうと一階に人はいない。二階の様子もみたが人がいない。まさかおもい、屋根裏から二階におり、一階をさぐりながら、地下への入りぐちを探すと意外にもわかりやすいところにそれはあった。ある物置の扉があいていて、その地面に地下へとつづくとびらがひらかれていた。

 『こんなわかりやすいところに』

 アーメィは、人がいないのを確認して、静かにその奥へしのびこんだ。階段は長くつづく一本道で、地下はかつて閉鎖されたと思われる重い扉と、厳重なカギとチェーンがやぶられていた、下へ降りるとその先も狭い道がつづき、一本道の先、最奥に牢のようなものがみえた。

 『なんだ、あれは……』

 そこにあったのはひしゃげた牢屋と、その隣の牢に入った体中を拘束された男、ドグラだった。黒い霧につつまれていて、目が光っており、人間としての意識が混濁しているようにみえる。

アーメィ 『おい、おい』

 近づいて行って小声で話かけても、反応はない。そのうちさらに奥から人の足音がきこえ、すぐに旧村長宅をでた。

 (北の村はずれか村の外にいってみよう、嫌な予感がする、ジャックはきっとそこにいるかも)

 しばらく走り、息を切らして急いだ、意外にも簡単にその場所は見つかった。鬱蒼とした茂みの先に開けた場所があり、明かりがともっている。焚火を取り囲み傭兵たちが大勢集まって宴を開いている。遠くからでもその様子がみえたので茂みの中から彼らの動向をさぐりつつ近づいていった。

 (ん?)

 様子を探っていると、楽しそうに宴会がひらかれているのだが、皆それ以外の事に目を向けていないようだ。夕方しいれた情報ではここにもう一つ牢でもありそうなものだったが。そのうち宴会をひらいていた広場をぬけて裏手に歩いていく少人数の人間たちの姿がみえた。裏手に何かあるのだろうか、物音をたてないようにこっそりと、彼らを追いその裏手にまわりこむことにした。

アーメィ『……』

A『いま何か音がしたか?』

B『気のせいだろ、俺たちみんなよっぱらってるし』

 何度か危ない場面はあったが、そこはアーメィ、冷静にその場をきりぬける。裏手にたどりつき、そこを探ると、鬱蒼とした茂みの中に草木がなぎたおされた場所があり、そこに大きな鉄籠がならべられていた。そのなかに見慣れた姿をみた。思わず小声で叫んでしまった。

アーメィ(ジャック!!)

 ジャックはその声に気づかなかった。そこには牢に入って殴られたのだろうか、顔を晴らしているがまぎれもなくジャックだ。アーメィは数人の人が監視しているのを見てすぐに近づかず、夜を待つことにした。警備の傭兵が、入れ替わりに一人二人ついてジャックをみまもっているため近づけない。アーメィは木の上にのぼり、ジャックの様子をみることにした、木の実をたべながら、空腹を紛らわせる。アーメィが数時間そちらを見守るうちも、手前の場所では大勢の傭兵たちがひらけた場所に集い、宴会を続けていた。

アーメィ『よくもまあ、明後日に大きな行事があるってのに』

 酔っぱらった傭兵が大半だったため、アーメィはいずれ間抜けな人間がドジを踏むだろうと様子をうかがっていたら、やはり、一人で監視していた傭兵が、おもむろにチャックを下ろし、トイレにたちあがった。

男『あーのみすぎた、しょんべんしょんべん』

 周囲にめをむけ、安全を確認すると、アーメィはすぐに牢にかけよりった。ジャックはしたを向いている、諦めていたのだろうか?ジャックの牢やの前に彼女はたち言い放った。

アーメィ『よ!助けに来たよ』

 静かに、うつろな目で上をみあげるジャック。その顔は離れてみたときよりも少し腫れていた。

ジャック『あれ?アーメィさん』

アーメィ『どうしたのよ、その顔』

ジャック『それは、えーっと』

 アーメィが急いで牢の鍵を破壊しようとしているとジャックが無関係なことを延々話しかけてくる。

ジャック『みんな元気ですか?ロークゥさんは親切で、アズサは弱い人に同情しやすく優しい、昔からそうだから、魔女なんかにも優しくして、でもまあ、あんなにいい子が幼馴染でよかった』

アーメィ『何とぼけてるのジャック、そんなことより監視の目を盗んできたの、無駄話はしていられないわ、それにあんたも何か手伝いなさいよ』

 ジャックは鼻で笑う。

ジャック『僕は村人から村長として尊敬も信用もされてないから、結局もどっても大して意味はありません、あなたたちにまかせます、もしものときはロジーさんを、皆の前にだしヘックの罪を暴露してください』

アーメィ『この村の命運を外の人間にまかせるというの!?』

ジャック『いえ、この村は閉鎖的すぎたんです、それに村長の日記をみました、私の母は外からきたもの、そればかりじゃなくて、ロジーさんだって実は』

アーメィ『!?』

ジャック『これも作戦です、どうか私をこのままにしておいてください』

 アーメィは手を止めてジャックを真正面から見つめた。

ジャック『ロークゥさんのあの目、あの純粋な目を信じています』

アーメィ『ッツ!』

 もたもたしている間に監視役の傭兵が返ってきたため、アーメィは再びその場をはなれた。

アーメィ『また来る』

 木の上にのぼって様子をみていたが、ジャックが傭兵と仲良さそうに話しているのをみて、その場を離れることをきめた。

アーメィ(村の命運だなんて、あの子(ロークゥ)にも荷が重いっつうの)

 そんなことを思いつつアーメィはその場をあとにした。


 その夜、ジャックは一人寂しい目、うつろな目をして月をみていた。牢にてをあて、つかみ揺さぶる。逃げるつもりなどなかった。傭兵がうつらうつらと眠りはじめると、しばらくして、ジャックは一人涙を流す。そして深夜になると、静かに自分の顔を殴りはじめた。

ジャック『俺がいなくなれば、俺の顔がわからなくなれば、少しでも助けに……』


 ジャックの元をはなれたアーメィだったが、木の上にのぼりしばらくその場の宴会を見守っていると、思わぬ人間の情報がきこえてきた。

A『北のはずれの湖のそばに黒魔術師先生が一人でいる……』

B『ああ、あの先生な、ついには団長さえも実験台に……これから俺たちはどうなるんだか、スレイブが逃げ出したらしいぞ』

C『いくとこまでいくしかないだろう、ヘックさんが金を出してくれるさ、』

 ぼそぼそと情報が聞こえる。

アーメィ『スレイブ?妖精の欠片の事かしら?水辺をしらべよう』


 翌日、早朝に村長宅に泊まっていたロークゥ、アド、アズサのもとに、アーメィから連絡がきた。といっても本人はおらず、玄関の先に手紙がおいてあった最初にそれにきづいたのは、ロークゥだった。

ロークゥ『手紙、アーメィの字だわ』

 ロークゥは拾い上げ、皆の元へかえりそれを朗読する。アドが眠っていたのでその時おこした。眠い目をこすりながらも彼はソファーベッドの上でおきあがり、真面目に話をきいてくれた。

ロークゥ 『ジャックは自ら捕らわれの身を続けるらしい、自分は役立たずだと落ち込んでいる、それから私たちに村長補佐の再選挙はまかせると、私たちを信じてのことだ、私はスレイブの行方を追う、スレイブが逃げ出したらしい』


 その日、ロークゥとアズサはロジーをまじえ一日中マナの特訓をすることにしていた。書斎に入り、ロークゥはアズサにいう。

ロークゥ『あなたの力を少しでもかりたい、あなたの“純粋なマナ”を』

アズサ 『純粋なマナ?』

ロークゥ『マナの純粋さは順に子供が清く、次に自然、次にマナ使いの順に純粋で無害であり人間に有益なものといわれているわ、そして、“黒魔術”が最も汚れている』

アズサ 『自然のマナが害がないのは、学校でならいました、でも、じゃあ、あなたは……』

ロークゥ『そうね、あなたも私の正体をみたのだし、本当のことをいうと、私のマナは、“グレー”ね、あなたの力が必要になることもあるの、私のマナは暴走することだってあるのだから』


 その日の夕暮れ時、旧村長宅に人があつまっていた。皆、その家をとりかこみ、黒い霧をと気味の悪い興奮した集団がその周囲をつつみこんでいた。ヘックがその集まりの中心にいて、演説台にみたてた箱の上にたち何事かをさけんでいる。おおげさに身振り手振りで観衆をあおるように語り掛けているようだった。

ヘック『私が地下をほり、マナニアの遺産を手に入れ、この村を豊かにしてみせる、代よりももっと今の村長だってあてにはならんだろう!そもそも!!マナツリーだって、地下からほりあげたものだ、この世界の人々はみな、過去の遺産を悪いものと思いすぎる!!我々は掘り起こそう、かつての文明を掘り起こし、その恩恵にあずかるべきだ、危険が何だ影が何だ影付きが何だ!!』

気味の悪い集団のA『そうだー、ヘック万歳!!』

気味の悪い集団のB『ヘック様万歳!!掘り起こせー』

 気味の悪い集団は普通の村民のようだったが、彼らが奇妙にみえるのは、唯一おかしい部分はその誰もが黒い霧につつまれ、その目がうつろに力なく正面を見つめていることだった。


 そこへ通りがかった人々が口々に噂する。

A『新しい補佐さん、やっぱり黒影と関係しているみたいね、あの人の周囲にいるひと全員黒い影をまとっているわ』

B『黒影は人に幻覚をみせるといわれている、この人たちは霧にあてられて、きっとおかしくなってしまったんだろう、もうこの村も“影憑き”が蔓延してもおかしくないわね』


 同じく村はずれのヘックのボロ拠点でも同じように不気味な集会がおこなわれていた。

はずれの傭兵A 『ヘック万歳!』

村はずれの傭兵B『ヘックさんが次の村長になっちまえばいい!』

 同じく傭兵たちも黒い霧につつまれ、うつろな目をして、まるで自我を失った人間のようにふらふらと危うい足取りをしているのだった。


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