第一話 12節
数時間前、旧村長宅。ここは、先代長老の若い時期つかわれた邸宅だったが、今はそれを改築した以後侍従や、側近、家来が使う。一室一室を一人ひとりにあてがわれた家だ。その二階の一室にある男が居座っていた。現在村長補佐となったヘックだった。部屋にはシンプルな家具やら、本棚やらが並ぶが、先代に使えた時代の写真も底に並んでいた。そこにあわただしく男の部下がやってくる。扉をノックして、続けざまに叫ぶように呼び掛けた。
部下 『ヘ、ヘックさま、緊急事態です』
ヘック『どうした?』
部下 『地下牢の彼が、ヘックさまが、確かに閉じ込めておいたはずですが』
ヘック『誰だ』
部下が近づいてきて彼に耳打ちをした。
『ちっ、ロジーか』
早速そそくさとヘックと部下二人は部屋をでて階段をぬけ地下へ、地下への鍵はごく一部の侍従にしか渡されていない。それこそ先代村長の第に彼の補佐役であった人々だ。その奥に地下牢がある、地下牢は厳重に閉鎖されていたがつい最近こっそりと使い始め、そこにヘックはある連中をとじこめはじめたばかりだった。
ヘック 『チッ、あいつめ』
移動中のヘックの頭には、つい数日前まで反抗的な態度だったロジーの記憶が頭をよぎる。彼をさらに牢に閉じ込めておいたのはヘックだったが彼はずっと反抗的で、挑戦的な態度をくずさなかった。魔術をかけるときにさえ。牢の中から彼を見上げ、いつもこういっていた。
ロジー 『ヘック、お前には“カギ”は見つけられないぞ、俺をどうしようとな、それにお前の地位などすぐに消え去る事だろう』
ヘック 『黙れ、拷問でもしてやろうか』
ヘックにとって、ロジーは自分の地位には邪魔だった。生かしておくのは、黒魔術師による余興に突き合わせるため。そう考えていたし、あわよくば魔術によりロジーと旅人たちを戦わせようと考えていた。だから怪しい実験に彼を突き合せたのだ。黒魔術師に要求された実験に。だから黒魔術師に頼み込んだ
ヘック 『どうか生意気なあいつを、洗脳して私の駒にしてくれませんか』
黒魔術師『……いいでしょう、あなたは私の話をよく聞いてくれますからね』
牢はほとんどががらあきだったが、奥のつきあたりの二つ牢があり左の牢に男がはいっていて頭を抱え込んですわっている。右の牢には、ぼろぼろにひしゃげた鉄格子があるだけだった。そこがロジーのいた牢だった。
ヘック 『何があった』
ヘックが左の牢の男に尋ねる、男はうなるばかり。男は薄暗い部屋の中でさらにこい“黒霧”に包まれていた。
謎の男 『グルルル』
ヘック 『チッ、知性まで失いかけているか、ジャックより進行が速い、これが“魔影憑き”という事か』
その少し後、村長宅。ロークゥは睡眠をとっていたが、痛みに目が覚めて外の空気をすいに立ち上がり、リビングから外にでて、廊下を歩き外にでようとした。だが、玄関付近までいくと少し痛みが強くなり、外に出るのがためらわれた。
『少し外にでるくらいで、“魔影憑き”や“黒影”なんかとは遭遇しないよね、でも』
と、この村にきてマナツリーをさぐったあと、夜中に一人で調査にでかけようとした時にアーメィに止められた事をおもいだした。その時それを思い出すと同時に腰に手を当てさぐると、いつも抱えているブックホルダーに寓話魔法本がないのに気づく、家の中に忘れたのだとわかり取りに帰ったのだった。そしてもう一度万全の準備をして、そとにでた。
『すうぅ、ハァー』
外のにでると空気は新鮮でここちよく、しばらくそこでストレッチをしていた。
ロークゥ『ん?』
妙な気配がする、少しすると目の前の暗闇の中、村にある緑の茂みの中から光る二つの点がこちらをじっとにらんでいることに気づいた。野生動物のものとも思わせたが、痛みがさらに強くなるのを感じて、ロークゥはその光をおった。相手はこちらが追っているの気づくと振り返り億へとすすんだ。
ロークゥ『まって、何ものですか!』
《ガサガサ》
相手はこちらを時たま振り返るが、反応もなく、草木をかきわける、追えば追うほどそれは遠ざかり、村の中の整理されていない雑草ばかりの畑の中へ迷いこんだ。
光る二つの目『グルルゥルル』
ロークゥ『ん?あれは、人の顔?』
動物かと思われたそれは、四つん這いになり四つ足の獣のような姿勢でこちらに威嚇をしている奇妙な人間の姿だった。だが体が左半分、獣の体にのっとられているようだった。その半分の顔は、見覚えがあった。ロジーである。ロジーの姿が半分獣のようになり、黒い影を身にまとっていた。
ロークゥ『なるほど、痛みの原因は“影憑き”が傍にいたからですか、ロジーさん』
半身ロジーの姿をしたそれはしばらく返事もせずにこちらをじっと睨んでいた。
ロジー『ロークゥ……ウウゥ』
一瞬ロジーは頭をかかえた。鋭くとがったツメと牙。よくみると顔の半分が狼のように変化している、コートにいつもの制服に黒いコート、そのどちらもボロボロだった。顔中にしわをよせ、獣の顔半分を怒りにゆがめると、そのままとびあがりロークゥに襲い掛かった。
ロジー 『グルゥルル!!ウアア!!痛みが、頭に痛みが!』
《ビリッ》
鋭いつめがロークゥの上腕をきりつけた。浅くきりつけられ、血が滴る。
ロークゥ『くっロジーさん、意識をしっかりもって!!これくらいの魔術なら、私が何とかします!きっと《仮影憑き》でしょうから!』
ロークゥを襲い、三度ほど奇襲をかけるロジー。するどいつめでロークゥをつかもうとするが、ロークゥはすばやくそれを交わして三度後退した。幾度となくすきをうかがいつかみかかろうとするロジー。
ロークゥ『ロジーさん!!あなたはロジーさんでしょう!?』
一瞬、ほうけたように立ち止まり、ロークゥのほうをみた。獣の顔から怒りが消え、人間の顔から、声がもれた。
ロジー『ロークゥ、ロークゥウ、ウボアオ、た、助けて……くれ、魔術をかけ、られタ』
ロークゥ『!?ロジーさん!?意識があるんですね、がんばってください、獣にのっとられないで!』
ロジー『ウぐう…スマナイ……すまない』
ロジーはけもののようになった半身、左手を人間の右手でおさえつける、左手はじたばたとあばれ、ついには彼の半身の顔さえとがったツメできりつけようとするのだがロジーはそれをかわしつつ、横たわり、のしかかるようにして自分の半身の動きをふうじた。
ロジー『ロークゥ!!ロークゥなのか、ロークゥさん、グルゥルル、今の俺は意識が、半分こいつに、獣にのっとられているみたいなんだ!!!抑えつけ、グゥウ、俺の意識が失われる前に……逃げてくれ、ロジー、お前だけでも、狙いは村長だけだ、逃げないと爆破に巻き込まれる』
ロークゥ『何の事です?巻き込まれる』
ロジー『脅せと言われたんだ!!!黒魔術師に!!“カギ”のありかを白状しなければ殺してしまえと、でなければ私の頭痛はひどくなり、いずれ頭ごと爆発するのだと』
ロジーは羽織っているコートをぬいだ。
ロークゥ『爆弾?いえ、そんな魔術はありません、脳を爆破するなんて』
ロジーがコートをぬぐと、びっしりとコートの中に、体中に爆弾らしきものがまきつけられていた。
ロジー 『これだ、グルゥルゥ』
ロークゥ『ロジーさん、誰かに命令されているか、操られているんですね、それに“偏執衝動”からいって水の魔物の“仮影憑き”にされた、私と出会った段階で、水を極端に嫌うそぶりをみせていましたから、あれが“偏執衝動”の初期と思い、まさかとは思っていましたが』
ロジー 『ヘンシツゥ?何ノことだ、頭ガ』
ロークゥ『あなたの半身が獣で人間なのは“仮影憑き”の魔術にかかっている証拠です!今のあなたにいってもわからないでしょうが、最近急に嫌いになったものと、急に好きになったものがあるはずです、どちらも同じ、それは犠牲になった“精霊”の好きだったものです』
(偏執衝動を与えられる理由は2パターンに分けられる、一つは“黒影”のそばに居続けた事で、“黒影”にあてられるか、もう一つは今回のように“仮影憑き”になるか、仮影憑きは“逆贄狩り”を行わずに“精霊”をいけにえに“黒影”を使い、直接黒魔術師と主従関係をつくる魔術、“魔影憑き”より短期的だが一時的に“魔影憑き”と同等の力を持つ、間違いない、“黒魔術師”の仕業)
ロークゥが、バックからライターをとりだし、少しロジーに近づけるしぐさをみせた。
ロジー『や、やめろ、火は!!』
ロークゥ 『大丈夫ですよ、あなたが犠牲にしたのは水の魔物ですから、“仮影憑き”になったあなたも常に水のマナをまとう、爆弾はフェイクか、しけってつかいものにならないでしょう、すみません、ちょっとカマをかけたんです、やはりあなたは何かの実験にされたのですね、あなたに私への敵意がないことがわかり安心しました、その爆弾をはずしましょう』
ロークゥは急いで彼のそばにちかよる。
ロジー『ス、すまない、牢に閉じ込められてやつらに魔術をかけられてから何がなんだカァ』
ロークゥ『落ちついて私の指示に従ってください、私のそばにきて』
ロジー『ウウゥ、ウウ』
ロジーは半身を抑えつつ素直に従うのだったが、ロークゥのそばに来て、ロークゥがなだめようと彼の手に頭をよせると、唐突に牙をむけ、体にツメをたてた。
ロジー『ブルルル、グルウアア!』
ロークゥ 『うわあ!!』
そのときロークゥの服は、ひっかかれビリビリにやぶけた。あやうくロークゥは体自身はよけたので、つめで引っかかれることはなかったが、服だけがぼろぼろになったのだ。
ロークゥ『ちょっとおっかないな、格闘は得意じゃないんだ』
ロジーは突然獣のようになったり、人間の意識を取り戻したりする。ロークゥは扱いづらそうで、ついに魔法寓話本を取り出した。
ロークゥ『カラス、寓話名(ウソツキ鳥)“ヨツバ”さん!!よろしくお願いします』
巨大な影のカラスが、本の中から現れると、夜の闇をとびあがり、そのまま雲の影に隠れて見えなくなった。
ロジー『グゥル……俺は、どうなる、ロークゥ、何をするつもりだ、ガウッウウ』
ロークゥ『爆弾をはずし、主従関係の魔術ををとくために、一度おとなしくしておいてもらいます』
ロジー『ガルルルル』
ロジーは一瞬彼女にとびかかったが、そこで一瞬人間の半身は意識を失っていた。その瞬間にも獣の半身は素早くうごき、ロークゥと格闘をし、何をおもったかロークゥは一瞬獣の間合いにはいり、かれにくみついた。ふともう一度人間の半身が意識をとりもどし、気づいたときにはロークゥの肩につめをはてていた。その肩から血がしたたるものの、何らかの魔術で肩には結界がはられているようだった。しかし痛みはあるはずで、ロークゥはそれでも微動だにせず、ひとことだけいい放った。
ロークゥ『大丈夫ですから、ね?』
《ドンッ》
その瞬間、後頭部に痛みを感じたロジーはその場に意識を失って倒れこんだ。巨大なカラスの影“ヨツバ”が彼の背後からしのびより、頭突きをしたのだった。しばらくすると目が覚め、ロークゥの膝の上で彼女におこされた。ロークゥを顎の下からのぞくような格好になって、あおむけに寝ている自分に気づく。介抱されているようだった。
ロークゥ『目覚めましたか、何があったんです?』
ロジーはここ数日の事を思い出し、できうる限りで彼女に伝えようとした
ロジー 『あ、ああ、あなたには悪いが親友の様子をさぐっていてね、どうも彼が、この件に関係していることはあたりをつけていたんだ、ヘックのやつの怪しい行動も部下から報告をうけていたんだが、結局つかまって牢屋にいれられ、このような妙な魔術にかかってしまった』
ロークゥ 『親友の名は』
ロジー 『傭兵団のリーダー、ドグラ、かつての親友だ』
その瞬間、ロークゥは背後で物音と気配がしたようなきがしてふりかえる。しかしそこに人影はなく、ただ影がすさまじい速度でどこかに飛び去ったような気がした。
ロジー 『どうしたんだ』
ロークゥ いえ、黒い影を見た気がしたんです』
数時間たち村長宅の一行が起きるころになって、ロークゥは傭兵たちが、家の中に入っていくをみていた。傭兵たちに話かける。すると傭兵たちがいうには、ヘックにいわれて監視をするという事らしい。それをかき分け、ロークゥが中へ入る。みんなは驚いていた。
アーメィ『傭兵たちに何かされたの?』
ロークゥ『いえ、違うんです』
その後ろからロジーが、人間の姿のロジーが同じくぼろぼろの体で、ついてきた。傭兵たちも驚いた様子だったが、ロークゥが一同に合流して今あった出来事を話した。その後、傭兵たちの監視をどうするか一同と相談をしていると、傭兵の一人が傭兵の集団の中央をかきわけてのしのしとはいってくる。恰幅のいい男だった。
男『これをヘックさんから預かった』
ロークゥがそれを預かる、一枚の手紙だ。ロークゥがその手紙をひらき、中身を確認する。思わず声がでる。
ロークゥ『え?ジャックさんを?』
一同『なんてかかれていたんだ?』
ロークゥは皆に手紙の内容を簡潔に知らせる事にした。
ロークゥ 『ジャックさんを誘拐し預かったと、これは人質だと、ロジーをそちらに向かわせたのはこちらの手違いだったが、いずれコマにするつもりではいたのだ、ひとまず話し合いがしたいのでマナツリーのそばで明日明朝集まろう、もしことわれば、次こそ本物の“影憑き”をそちらに送り込む、本日午前10時にそちらに出向かい返答をうかがう』
アズサ『!!ジャックの姿が見えなかったのはそういう、彼は人質にとられたのね、早く助けないと、何をされるか……』
ジャックのことでアズサは気が動転していたが、ロークゥが静かに落ち着くように促す。そうして一同と何かを相談したかと思うと、傭兵の前に一列にならんだ。
ロークゥ『かまえて』
唐突に背中から各々何かをてにとった。それは各々が得意とする武器だった。
ロークゥ『傭兵さんたち、ごめんなさい』
傭兵一同『え?』
ゴツン、ガツンとところどころで音がすると、ドタドタと人の倒れる音が村長のリビングに響いた。
午前10時になる。村長宅にずけずけと玄関の扉もたたかずにはいってきたのはあの目のとんがった男、ヘックだった。
『やあ、皆さん、傭兵たちに囲まれておびえてはいなかったかね?すまないね、手荒な事をされてないといいのだが』
ロークゥ『これはこれは、ヘックさん。こちらは傭兵10人をしばりつけましたよ』
ヘックがリビングに入ると、傭兵たちは後ろ手をロープでしばりつけられて身動きが取れない様子で床にすわらされていた。
ヘック『何をやってる!無能な傭兵どもめ!!くっ、貴様らどうやって……ただじゃおかないぞ!!』
ロークゥ『ヘックさん落ち着いて下さい、お互いにこれで人質をとりましたし、傭兵のほとんどはこちらの手の中、まあ、交渉しましょう、この証書にあるとおち投票によって地位を決めましょう、まだ旧側近の候補はいたはずです』
ヘック『証書?』
ヘックが静かに目を通す。しばらくすると彼は、こう言い残してその場をあとにした。
ヘック『いいだろう、だがこちらには黒魔術師がついている!それに村の人間の大半がこのヘックの顔をしっている、先代村長補佐だった頃の事もな!!こんなのは私が勝つに決まっている』
帰り際もズケズケとわざとらしい音をたて、帰っていくのだった。
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