第1話 11節
ロークゥ「どうしましたか!」
すぐにかけつける一同、老婆デミドの声がしたのは、リビングのふたつ隣の書斎だ。皆が叫び越えを追ってその入り口にたって中をのぞくと、ごく普通の机や椅子や本棚が立ち並ぶ部屋、書斎があったのだが、その部屋にひとつだけおかしな箇所がある。そこには呆然とする老婆の目の先に、ひとつの翻った本棚、その裏側がみえていた。老婆デミドがふりかえりこちらを一瞥してしみじみといった。
『まさかとは思ったんだよ、だが、私がかつて仕えた時代の隠し扉が残っているとは、私が仕えていたころには、マナを流し込むことで開くこの隠し扉があってね、先代村長“ドイド”の亡くなった奥方“ラリア”の作ったものだったが』
そこには、立ち並ぶ本棚の一つが180度回転し本棚そのものが扉となった隠し扉から隠れ部屋がのぞいていた。デミドは続ける。
『ここには彼の重要な書類や、大切にしていたものが眠っているんだ、ジャックさん、あんたもこれをしらなかったのだろうね、なにせ一部のシャーマンと側近にしかしられていなかった事だ』
ジャックは急いで一同をおしのけて、一番手に老婆のそば、そして隠し部屋の奥へと進んだ。
『これは……』
その場所には、書斎の半分ほどのスペースに小さなテーブルと棚などの家具、その上にセンジュのマナミスの像、家族写真、趣味と思われる葉巻、等々プライベートなものばかりが飾られていた。
ジャック『父の、遺産……それに、資料が』
一同『……』
ジャックがその光景に言葉を失って、個人的になつかしさと感傷にひたっていたようだった。そこでほかの皆は気を使いそれらしき資料だけを探そうという話になった、だが許可なく勝手に触るわけにもいかず、しばらくたって仲間が呼びかける。
ロークゥ『ジャックさん、資料おかりしますね』
アズサ『ジャック、これ怪しいから調べるわよ』
しかし一同が話しかけようとも、ジャックはあまりにその部屋のものに心を奪われ、反応しなくなるほどに一人の世界に入り込んでしまった。彼があまりに真剣に父の遺産をあさるので、だれも一同の中でそのジャックを邪魔する事はできなかった。そこはジャックにまかせることにして、それらしい資料をデミドに渡されたあとそれを運んで一同はリビングへもどった。そこではまた静かな調査が始まる。皆も真剣に隠し部屋の新しい資料に目を通す。その間ジャックはふと、部屋の隅の段ボールに整理された日記をみつけた。それをみつけて部屋の整理やほかのものをあさるのを忘れ、彼は座り込み、その日記を読みふけることにった。彼はふいに今の状況を思い出し、時に探し物をしていたことを思い出すのだったが、しばしばそれも忘れて、なつかしい父の隠された記録である日記に顔を緩ませた。彼の興味を引く日記はいくつもあったが、その中でも一番彼を喜ばせ驚かせたのは父が母にむけてのこした言葉たちだった。
『我妻“ラリア”よ、お前は偉大な存在だった、お前がいなくなってからワシは子供をつよくしつこくしつけすぎたのかもしれない、彼は自己主張がなくなった』
そこには彼が妻を亡くした後、どのようにして育児をしたのかが描かれていた。もう物心ついたときには母を亡くしていたジャックにとってこの日記は、父のもう一つの側面、弱い部分を始めてみたものだった。
『ワシはラリアがいなくなって人々を信用しなくなった、祖父のように、外から来るものに警戒心を抱くようになった、そこで気づいた、お前の知識と知性と懐のふかさに頼り切っておったのだ、できればお前に戻ってきてほしい、あるいはワシが……今でもワシは一人取り残されこの世にいる意味が分からぬことがある、だが、ワシの子ジャックにはにはワシのように、ダメな人間になってはならぬとおもっている、ヤツは優柔不断なことがあるが、ワシより賢く、純粋な優しい心をもっておる、いずれ自分で考え、決断するようになれば立派になれる、ワシのようにお前に与えられた力を振りかざすのではなく、賢く優しく強い立派な人間に』
ジャックは日記を何ページも読むうちに、知らず知らずに涙を流していた。
結局ジャックは、日記を最後まで読みふけっていたために、そのおかげで変わりにほかの人間たちが、権力移譲についての資料を調査しなければいけなくなった。だがそれはデミドが隠し部屋のある棚が心当たりがあるといったので、その棚の資料をまるごとリビングに移し一同でしらべていた。しばらくすると、例の側近の件についての資料がみつかった。アズサがそれを発見したのだった。
アズサ『あったわ、“村の補佐役、側近についての証書”白いノートに挟まっている』
ロークゥ『どれどれ?この文字は、マナによるものですね、投票をとり新しい補佐役を決めることも許す?使えそうではないですか、しかしこれは……ん?ノートの間に何か挟まっていますね』
ノートをぱらぱらとめくると、コロリとひらぺったな鍵がそこから零れ落ちた、そこへかけつけたジャックが、アズサとロークゥの後ろから顔をのぞかせた。
ジャック『カギだ』
デミド『どういうことじゃ?』
ロークゥ『どうやらこの資料は大事なものだったようです、この鍵からは魔力を感じます、それも何らかの結界を解く形式の魔法陣がねられている、この鍵もこのノートになにか説明があるかも?』
ジャックがペラペラとページをめくると、先ほどと同じ文体の文章がつらつらと並んでいた。ジャックが手に取り読み上げる。
ジャック『これは、また父の日記だ、どれどれ、―これが私が各最期の日記になるだろう、これを読んでいるのは側近のロジーか、ロジーに真実を聞かされたジャックお前だけだろう、心して聞いてくれ、と』
ジャックはそばに腰かけて日記を目で追った。
『私は、昔からこの村のおきてや教えにを先代のお前の祖父の頃から従っていたが、昔から苦手じゃった、じゃが血筋の濃いこの村で村長という重要な役職を代々務める家にあってそれは許されなかった、ワシが当初最も嫌って苦手としたのは、この閉鎖的な村で、外からくるものを信用するなという教えだった、そうはいっても年を取り権力の座に長く居座るとだんだんと掟や教えはしみついていくのだ、それがこの村にとって一番いい事だという事もわかった、この村は掟や教えによって、血筋間の紛争を避けてきたのだ、だがお前の祖父の死後、その期待を裏切り、私は外から来るものを一度だけ信用してしまった、それは女性だった、その上マナ使いであり、つまりはミュータントだった、ある時村の外から訪れ、彼女はあまりに熱心にマナのすばらしさを語るので、私はその知識や情熱にうたれ、この村に置くことにした、彼女も同意しはじめ彼女をシャーマンにしてそばにおいていたが、やがて人々が私たちの関係をいぶかしむと、その批判を防ぐつもりで私はその女を妻にめとった、それがお前の母だったのだ、代々シャーマンがほかの村でいう医者やマナ使いのような役割をもつのだというおきてや教えがあり、それを信じていた祖父だったが、私の代からは、私が結婚したお前の母の力も隠れてかりておった、老婆デミドもそれをしっている、お前の母は知的で、聡明なる母だった、母が来た時にもこの閉鎖的な村はもめごとや対立をかかえておったが、彼女は、それを解決する方法をあみだした、彼女は私の家に嫁いできて初めてしたことがこの閉鎖的で何かと派閥にわかれいがみ合う村にふたをすることだった。結界をつくったのだ、これはその封印の鍵だ』
ロークゥ『……結界はどこに?』
ジャック『マナの木のそばの地下とあります』
アズサ『聞いたことがあるわ、ある老人がかつて鍵をもって地下への扉をあけようとしたけれどマナの結界があり開かなかったと』
ジャック『ただ、これは……かくしておきます』
アズサ『いったい何の封印の鍵なの?』
ロークゥ『詳しく教えていただけます?地下に一体何があるというのです?』
ジャック『すみません、もう少し考えさせてください、この先は……今はいえません』
ジャックは一人また、書斎にとじこもってしまった。
アズサ『全く、これだけ手伝ってもらっておいて、すみません、また明日権力移譲についての“投票”について詳しくはなしあいましょう、これでヘック、彼の暴走をとめられるかもしれません、皆さん少し休まれてください』
そういわれて一行は資料をある程度片付けつつまた眠りについたのだった。その時時刻は午前3時、まだ深夜だった。
朝方、目を覚ましたのは、アドが一番最初だった。体を起こし周囲を見渡す、そしてぎょっとした。大勢の傭兵団が、リビングをかこっている。
アド『ちょ、あんたら何だ!!』
その声にアーメィ、アズサ、デミドが体を起こす。周囲を見渡しアーメィがすぐに気付く。
アーメィ『ロークゥと、ジャックはどこ?』
にやにやとする傭兵たち。だがそのにやにやとした傭兵をかきわけ、一人の人影がリビングに向かってきているのが一同のめにうつった。
女性の声『通してください』
そこには、服をぼろぼろにさせたロークゥがいた。ロークゥがぼろぼろになったのは、さかのぼる3時間前から起こった一連の出来事のせいだった。
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