第1話 9節
村の女とともにジャックとアーメィがすぐさま呼ばれた方向へかけていく。
一部始終を自宅の玄関でこっそりみていた老婆デミドが彼らがさったあとに玄関の扉をしめリビングへ向かい腰かける、そして意味ありげにつぶやく。
『かくしておくべき謎、打ち明けるべき嘘、少しずつ話すべき嘘、嘘にもいろいろあるわいな』
マナツリーのすぐ真下には、傭兵団の姿がみえた。彼らはバーナーやら、工具やらをつかって、地下への道をこじ開けようとしていた。鍵だけでは地下への入り口はあかず、実は道は溶接され完全にふさがれていたのだった。周辺では人だかりができがやがやとその周囲をとりかこんでいた。
『ふむ……』
その傭兵団の少し後ろにみなれない、しかしロジーと同じような格好をした、顎髭をたくわえたオールバック長髪のつんとつりあがった目をした男がピンと背筋をのばし後ろ手を組んで作業をみまもっている。
ロークゥとアドが人込みをかきわけ、中にはいる。人込みの最前列にはいった。そしてその様子を目の当たりにみた。丁度そこへアーメィとジャックが駆けつけた。
ロークゥ『アーメィさん』
アーメィ『アド、ロークゥ、一体どうしたっていうの?』
ロークゥ『それは今から質問しようとしていたところです』
彼らが会話している間にジャックがずんずんとと人だかりをかきわけた。人だかりが円形に囲む中央にいる例の男によびかけながら進む。
ジャック『ヘックさん、一体これはどういう事です?』
ヘック『これはこれは、ジャックさんに、旅人さんご紹介がおくれましたな旅人様方、私はヘック、村長……私はただロジーさんのいう通りにしているだけのこと』
ジャック『ロジーさんは今どこに!?』
ヘック『さあ』
ジャック『さあって……』
困りはてたジャックは後ろに目をやる。ロークゥに助けをもとめたのだ。しかしロークゥは、こんなところで村人と正面衝突はさけたい。昼間の様子をみるに村人たちにあまり信用もされていないようだったし、“黒霧”の進み具合も気になったのだ。
するとむしろ相手のヘックのほうが手を後ろでにくんだままこちらにちかづいてきてロークゥのパーティは少しその勢いに後ずさりをした。しかしただロークゥのそばでおじぎをしたのだった。だがそのお辞儀をおこしたときにロークゥにだけ聞こえる声で彼はつぶやいた。
ヘック『教会に問い合わせたぞ、“ロークゥ・レトリケハート”お前のような“寓話使い”は在籍していないと、どういうことかね?君たちは、やはりただの詐欺師で能力者ではないのかね?街でもお前たちの存在はカルトとして噂がたっている、本物の“寓話使い”でも“魔術師でもマナ使い”でもないとな』
ロークゥ『そ、それにはいろいろ事情が』
ヘック『そんなことはこっちのしったことではない、お前たちは私の許可なく村を出ることを禁止するし、私たちの邪魔はさせないよ』
ロークゥ『そんなばかな、何の権限が』
ヘック『寓話使い“もどき”なんて恐るるにたらんのだよ、お前たちの魔術などみたものは少ない、きっと何かの見間違いだったのだろう』
ロークゥは、円の中央にいるジャックに視線をおくり、顔を横に振った。
ヘック『ジャック、ロジーは確かにこういっていたし書類にもある、ほら』
ヘックは胸元からかみをとりだしかたてを上空にのばしヒラヒラとふってみせた。
ヘック『彼が行方不明になったときは私に権力を移譲するとな、ほらこれはお前もよくみしったサインだろう』
ロークゥ『ジャック、今は引き下がりましょう、すぐにあなたの権力で彼らをとめる方法を探らなくては』
ジャック『すみません!ロジーさんにまかせきりだったから、こういう場合、ロジーさんの権力が彼らにうつるとは知らなかったんだ』
その後ろ、人込みの最前列で、アドとアーメィとジャックはたちつくしていた。ふとアドが何かにきづき、アーメィに話かけた。
アド『アーメィ、彼らの足元に何かいる』
目をこらすアド。それは小さな、小人のように思えた。アドにはそれに心当たりがあった。その正体にきづいたときは彼は思わず叫んでいた。
アド『
アドの目には確かに、ツリーの根元で作業する傭兵たちの足元に、小さな小人、水色の妖精が見えた。それはルサールカにもにていた。ただ少し違うのは彼は王冠をつけていたことだった。
アーメィ 『本当だわ』
傍で荷物を運ぶ作業をしていた傭兵の数人がそのアドの声にふりむいて、一人がこちらに指をさして話しかけてきた。
傭兵A『ははは、なにいってやがる旅人!妖精なんていないじゃないか、人の目をばかにしているのか?それとも幻覚をみてやがるのか?』
どっとそばにいた傭兵の中で笑いがおこる、ロークゥが誰にいうともなしにつぶやいた。
ロークゥ『やはりこの村には“正直者”が多いみたいですね』
ヘックはそれをいぶかしんでみていた。
(この“もどき”め、いつまで“寓話使い”を演じるつもりだ)
傭兵A『おい、何ぼそぼそいってやがる、さっきから作業の邪魔をして、早くはなれていってくれ!』
傭兵の一人がロークゥにつかみかかろうとしたが、アドがすぐさま人込みのそばを離れ、ロークゥとヘックのいる中央にかけつけたそれをかばった。
アド『僕らのリーダーにふれないでください』
傭兵A『おう?やんのか?』
その後ろで今度はアーメィが何かにおどろいたように小さく悲鳴をあげた。
アーメィ『ロ、ロークゥちょっと!!このひとたち体から……』
アド『体から黒い霧が!』
まぎれもない。この村に来た時に見たのと同じ、闇魔術師の痕跡をあらわす“黒霧”を傭兵たちが纏っている。
ジャック『うっ』
ロークゥ『どうしました?』
ジャック『この人、ひどいにおいだ、いっちゃわるいが』
黒い霧を纏う男たちから腐敗臭がただよってきたのだ。.鼻を服の襟で覆いながら答える。
アーメィ『もう早くなんとかしてあげないと!』
ロークゥ『ええ、そうでるねアーメィさん、“
アーメィ『だったら、とりかこまれたら分が悪いわよ、こんな街中で、あんたたちの“すさまじい能力”をぶっ放すわけにもいかないし』
ロークゥ『そうですね、いったん宿にもどりましょう、作戦会議です』
ジャック『ええ、そうしましょう』
宿では、一階食堂を貸し切り円形のテーブルにそれぞれが座った。ロークゥが中央にすわり、正面にジャック、ロークゥの右隣りにアド、左にアーメィ、ロークゥが初めにきりだした。
ロークゥ『私はあることでヘックさんに脅しをうけました、そのせいでうまく動けません、今はそのことはいえませんが、そもそも彼らと正面衝突をすることは、敵を利するだけなのです』
ジャック『どういう事?』
ロークゥ『いま一番の問題は“黒霧”がすでにこの村を覆いつくさんばかりにひろがっていることです、まるで病原菌のように……』
その会議は次の日の朝までつづくのだった。
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