第1話 8節



 ロークゥ一行が怪物退治をした後、帰宅しおえたその頃、村の入り口付近の民家と民家の間の曲がり角。ジャックがその角にたち、こっそりと街の中の何かを覗いているようだった。そこへ通りかかったアーメィ、先ほどの依頼を報告して、少し一人になりたいという事で町をぶらついていたところちょうどこのジャックに遭遇したのだった。

『よ、何をしてんの?ジャックー!』

『ウワッびっくりした』

『あ、村長ってつけたほうがよかった?』

『いえ、そんなことより、何かおこまりごとですか?私に御用でも?』

『ん?今ロークゥたちと怪物退治の依頼を片付けてきたところよ、それよりあんたは……』

そういってアーメィがジャックの肩にてをのせたままその視線をさぐると、その先に

アズサの姿がみえた。

『ん?あんたの幼馴染じゃない、なんで話かけないの?』

『いえ、いろいろと複雑な事情が……こちらはもう村長の身ですしあまり勝手な事はできないんですよ』

『勝手って何が……』

落ち込むジャックをみて、アーメィはピンとくるものがあった。

『ははーん、あんたあの子のことが……』

 ジャックはとっさにアーメィの口をおさえる。アーメィがにやにやしてその口をどけて言葉を続ける。それから二人は何やら10分ほど言い合いをしていた。恋人だとかそうでないとか好きだとかそうでないとかたわいのない言い合いだった。



 視線の先のアズサは少し村の出店で買い物をしたあと、老婆の家にはいった。しばらくして、一緒に針仕事をしはじめる。昔からアズサにとってこの老婆の家は、近所であり、なじみのある場所だった。家に入り何かごそごそと準備をして、老婆の手伝いをするといって、針仕事を始めた。しばらくするとアズサが不意に小さく叫んだ。

 『キャッ』

 『あ、針をさしてけがをしたね、いいんだよ、いま絆創膏をとってくるからね』

 『すみません、せっかく手伝いにきたのに』

 老婆が奥へ行って救急箱をとって帰ると、指をみつめながらアズサが申し訳なさそうな顔をしている。

 『すみません、いつもよくしていただいているのに私は失敗ばかり』

 変に気を使われているのをさとったように、老婆デミドはアズサに話しかける。

『ありがとうね、旅人たちに例の事を秘密にしてくれて、助かるよ、いろいろとややこしい話になるからね』

『いえ、答えていないだけです、いずれ、聞かれたら嘘がばれてしまうかも、なんといっても私は先代の時……』

『いいんだよ、もうそのことは』

 二人は夕暮れまで仕事をしていた。すでに先ほどアズサをみていたアーメィとジャックの姿はなく、彼らは立ち話もなんだといって近くの屋台で食事をしている最中だった。二人はラーメンをすすいながら言葉を交わす。

ジャック 『旅人さんって強いんですか?』

アーメィ 『アーメィでいいよ、弓ならパーティで一番強いよ』

ジャック 『一人で魔物退治できます?』

アーメィ 『もちろん、ある程度の魔物ならよゆー』

ジャック 『じゃあ、もし何かあったらお願いしますね、傭兵団もいるにはいるんですが、あれはロジーの管轄なので、平和な村なんですよね、基本的には』

 唐突にジャックが静かになり、食事の手を止めたので、アーメィが彼の顔を覗きこみ様子を探る。

アーメィ 『どうしたの?』

ジャック 『ええ、本当に正直に話すと、確かに私は“アズサ”の事をきにしています、でもただ気にしているだけではないんですよね』

 ジャックはそれからアズサの生まれについて話はじめた。かつて栄えたお金持ちの豪族の娘だったこと、それが先代村長時代の“復興派”騒動で居場所を奪われた家族と離れ離れになり今は寂しく、居場所がなく一人であること、それにジャックは最後一言をつけくわえた。

ジャック 『私は嫌われ者だって自虐的にいって、だからか同じような境遇の“魔女”といつも一緒にいるけれど、そんな自分を卑下にすることはないのになって僕は思います、昔は兄妹のように仲の良かった、あいつまで村をでていかれたら』

アーメィ 『ふーん』



 時間がたち、彼らが食事をおえようとしていたその頃、アズサはデミドの家で仕事を終えていた。デミドが近隣住民にたのまれた小さな帽子を二人であんだのだった。

デミド 『さ、完成したね』

アズサ 『それでは今日はこの辺でおいとまします』

デミド 『ああ、ありがとうね、きをつけてかえるんだよ』

アズサ 『ええ、でもすぐそこですから、大丈夫ですよ』

 そういってアズサは廊下をいき、廊下の先、突っ切った先にある玄関について、ふりかえり、少し遠く、直線上のデミドの座っている巨大なテーブルのあるリビングルームの方向をむいて手を振った。扉をしめて、歩いていく。

アズサ 『今日も楽しかったなー、お手伝い』

 そのとき彼女の前にふっと黒い影が現れたと思うと、彼女はその黒い影に背後から……木の棒をもった黒い影に抱き抱えられた。

 『キャーー!!』


 そのころ少し離れた屋台で食事をしていた二人は異変をすぐに察した。

アーメィ『ん?』

ジャック『……この声は……アズサじゃないか!?』

アーメィ『まずい、はやくいかないと』

 二人は席をたち急いで声のする方向にかけつけた。

ジャック『デミドの家のほうです、何かあったんだろうか?とても大きな声だったけど……』


 彼らが急いで走っているころ、デミドの家の前に人だかりができていた。何者かが声を放ち、その群衆を威嚇しているようだった。何者かの腕の中に、アズサがかかえられ、木の棒でくびもとを抑えられている。

何者か『ジャマモノ、ジャマモノ、ジャマモノ』

 声を放っているのは、さきほどロークゥらが依頼で倒したルサールカにそっくりの髪の毛がぼさぼさの青肌の女性。だが、湖でみたものとは少し違う形のルサールカだった。そのルサールカはいつものように無意味に人を襲っているようにも見えず、言葉をつかって何かを人々に要求しているようだった、それよりなにより黒い影の霧につつまれていた。


A『黒い影だ』

B『村長さんたちに報告しないと』

C『あ、村長さん!』


 丁度そこへ村長ジャックとアーメィがかけつけた。アーメィが現場をみる。ルサールカはアズサの首にかませた木の棒でアズサが身動きがとれないようにしている。

ジャック『怪物が、人質をとっている?』

 人質を取るからには何か目的があるかもしれないと思い、アーメィは怪物に話しかけた。

アーメィ『おい!!ルサールカ!!お前、何が目的だ、仲間に復讐しようとしているのか!!?』

怪物はグルルルとうめきながら、アーメィのほうをむき、大声でかえした。

ルサールカ 『グゥルルル!!!!われは“復興派”かつての復讐を果たす、これは、この村のためだ、村長をだせ、村長を、村長の命をモラウ』

 アーメィはとっさにきづいた。怪物の体から黒い霧がでていたからだ。

アーメィ『影にとりつかれている?それにあんなに饒舌にしゃべるほど、魔物は賢くないはず、“霧障ムショウがそこまで進んだの?”』

ジャック 『ムショウって何です?』

アーメィ『人々の思考を狂わせるもの“影憑き”の思想や欲求を人々に植え付けるものよ、あー-簡単にいえば“黒影”にあの魔物が取りつかれているのよ!!』

ジャック『そんな、村長と同じ……』

 それからアーメィは敵の狙いがジャックだとわかると、そばにあったリアカーの側面にジャックをかくしこういった。

アーメィ 『私が合図したら、この酒瓶をなげて、合図は私が右手を天高くのばしたらよ』

ジャック 『これは、どこのものです?』

アーメィ 『さっきその辺で拝借したものよ、緊急事態だから』

ジャック 『え、ちょっと、え?!』

 アーメィはロークゥの疑問に答えず、一人ではしっていく。合図といったがその合図は思わぬ速さでやってきた。アーメィが怪物と捕らわれたアズサの正面、数メートルほどの距離にたち、すぐさま、大声をだした。

『顔をださないでそこにいてね、大丈夫!ガールフレンドさんはまかせて!』

 そういいながらアーメィは右手を天高くのばした。

『ちょっと!!違いますよ!』

『違うの!?』

『ふざけてる場合じゃありませんって』

 そういいながら、ジャックは酒瓶を天高くなげたのだった。

『……ふざけてるつながりでいうけど、私の弾は百発百中』

 アーメィは目で酒瓶をおいながら、弓を弦を弾いて、矢をつがえてこぶしを頬で支えた。ジャックに話しかけながらも、ヒュンと一発上空の酒瓶に矢をあてた。酒瓶は上空で破裂し、酒の雨を流した。

『グ……グゥウ』

 標的の怪物は上空からの水に気をとられて、少しアズサを拘束していた手がゆるんだ。その瞬間、アーメィは叫んだ。

 『アズサ!!逃げて!』

 その目はまっすぐ標的をみた。人間をさらおうとする怪物ルサールカを。じれったいものいいにジャックがあきれて返事を返す。ジャックはアーメィに顔を出すなといわれていたので状況がわからずにいたのだった。

ジャック『なんで上空に酒瓶なんて投げさせたんです』

アーメィ『上空から何かふってきたら、人間ならばとっさによける、その瞬間が必要なの』

ジャック『なぜ』

アーメィ『そんじゃ、顔だしていいよー、見ていて!』

ジャック『え?』

 アズサがゆるんだルサールカの手のひらから逃げる、その瞬間をアーメィは見逃さなかった。鋭く光る彼女の目、ピンとはった弦。ルサールカはふたたびアズサをつかもうとするが時すでにおそく、ルサールカの腕は、アーメィの矢に音もなく射抜かれたのだった。

『私の弓は、“人間以外の標的”に100発百中なのよ』


地面にくずれるルサールカ。

『グゥルルルル!!』

 ルサールカは腕を抑えて起き上がり、アーメィを一瞥し上空にとびあがると、民家の屋根と屋根を飛び越え、一目散に退散していった。


 やがて安全だとしると人ごみあつまってきて、旅人であるアーメィを人込みが取り囲んだ。

A『すごいじゃないか』

B『よく助けてくれた』

C『あの魔物どうしてくれようか!』

 人々が喜ぶ中に、アーメィは自慢げにたっている。

アーメィ『へへへ、それほどでも~』

 ジャックとアズサも手を取り無事を確認しあった。

ジャック『大丈夫か』

アズサ 『ええ、なんとか大丈夫、ありがとう、すぐにきてくれて』

ジャック『いやあ、旅人さんが』

アズサ 『それでもうれしいわ』

 ジャックが照れつつ頭をかくと、それをみたあずさがうれしそうに笑った。だがその喜びも長くはつづかなかった。すぐに別の場所で声があがったのだ。ひとごみにむけて誰かが大声をだして叫んでいる。人込みはそれをみつけ、その人のくる方向に入口をつくった。その人が人込みをかきわけ、姿を現す、女性だ、こちらにむかって叫ぶ。


村の女『村長さん!!村長さん!!!……あの』

 こちらにかけてきて、何かいそいでまくしたてるようにしゃべっている。

村の女『村長さん!!ロジーさんがいないの、いくら探してもどこにもいなくて、半日もよ!!変わりにロジーさんの家来のヘックっていうやつが出張ってきて、傭兵団をこきつかってるのよ』

ジャック『どういう事です?』

村の女『ヘックってやつは噂では“復興派”で、もうその事を隠そうともしない、こきつかうっていうのはマナの木の地下坑道への道をこじあけようとしていて……』

アーメィ『!!?』

ジャック『まずい』

アーメィ『すぐにいかなきゃ、でもマナツリーはいまロークゥたちが調べに言ってるともうけど』

ジャック『え?』

 アーメィはここ数日の事をおもいだし、しまったことを口走ったと口を両手で抑えた。

アーメィ『や、やあねえ、別に変な事してないって、ちょっと観察しにいっただけ』

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