第1話 6節

 宿に向かう道中、通りかかると民家の家屋と家屋との間に人影がみえた。

アズサ 『皆さん、大丈夫でしたか?』

 その人影が話しかけてくる、そこには心配そうにこちらの様子をみているアズサがおり、アズサに支えられるようにして老婆デミドがいた。アズサが続けてはなしかけてくる。

ロークゥ 『大丈夫ですよ、あなたたちも無事でよかった』

 とロークゥとアズサしばらくが話をしている時に、老婆デミドが途中で話をさえぎった。

デミド『気をつけるのじゃ……この村を出るとき、おぬしたちかこの村の、どちらかが大きく変容すると出たぞ』

ロークゥ『なんです?』

アズサ『おばあちゃん、もう、混乱させないで、ごめんなさいロークゥさん、これは今でた占いの結果なんです、さっきちょっとここで簡易的に占いを……皆さんがあまりに心配だというので』

 たしかに老婆の手には水晶やら、小さな本やらがもたれていて、地面に魔法陣らしきものの痕跡がみえた。


 その後、傭兵団の一部が相変わらず監視しながらついてきたが、その後は得に問題もおこらず宿に帰ったあと、その夜ロークゥ一行は眠りについた。朝方になると、アズサが昨日のお詫びとお礼といって果物をもって訪ねてきた。ロークゥ一行は常に宿の内外にいる傭兵団の数人に監視されている、一行は昨日の行いを恥じて、反省の態度を示すために宿から一歩もそとにでなかった、アズサはそれに合わせその日つきっきりで宿にいてくれた。


 夕食はにぎやかだった。アズサもいたがジャックも訪ねてきたのだ。

ジャック『こんにちは!』

ロークゥ『あら、ジャックさん!昨日はどうもご迷惑をおかけしまして』

ジャック『いえいえ、旅の方々にも思うところがあったのでしょう』

 ジャックはなんとも昨日の出来事など忘れてしまったかのようにきさくに話かけてくれ、ロークゥがちょうどその時間だというので夕食に誘うと、是非という話にさえなった。


 皆は食堂へ集い、色々な話をしながら一か所のテーブルに固まった。そして夕食をしながら、昨日の話になった。

ジャック 『昨日の件の調査はおわりました、たしかに老婆の鍵をつかい地下を調査しようとした形跡はあったがそれだけなので、そのうちこの傭兵の監視はとけるでしょう、モノを盗まれたわけでもなく、ロジーさんは少し大げさだったかも」

ロークゥ 『勝手なことをしてすみませんでした、どうしても、影憑きについて気になることがあって、早めに対処しようと、信頼を裏切るような事をしてしまい』

アーメィ 『この子っていつもは頼りがいがあるんですけどたまに一つきめたら一人でつっぱしっちゃう事がありまして、ちょっとそういうときクレイジーなんです、今回の事はちょっと私たちからもきつくいっっておきましたので』

 丸いテーブルをかこんでお互いの誤解をとくような話し合いが行われた。しかし物々しい傭兵2人が、ロークゥ一行のテーブルを背後からずっと監視してはいたが、ジャックがきたことで少しその緊張感もとけて、やっとアーメィも、アドも肩の力をぬいて、いつも通り軽口をたたいたりしていた。

 『ここだけの話』

 といってジャックがきりだしたものは、かつて先代の村長がつくったという“二派閥”がこの村に存在するという事だった。それは地下の採掘を行おうとする“復興派”とそれを止めようとする“現状維持派”その“復興派”から父は恨みをかっていたので、いまだに水面下にうごめいているのではないかという恐怖があると話した。そう話した後ジャックは

 『もし何かあれば私に教えてください、昨日の件でその残党があなた方に接触するかも、もしかすると彼らが“黒霧”も復興派に関係あるかもしれませんから、もし彼らがでばってくるとするとその時にはもしかしたらあなた方の力を借りる事になるかも、復興派は、村長に恨みをもっていますから……何かの時には“寓話使い”の手助けが必要になるかもしれません、そのかわり私もあなた方がもとの生活に戻れるようにサポートしますよ』

 と付け加えたのだった。ただ、そこまできいても、ジャックはフランクに尋ねてきた理由にはならないし、ロークゥ達の疑問はひとつ。なぜ自分たちにそんなによくしてくれるのかということだった。盗みを働いてはいないとはいえ、あまり気持ちのいい事をしたわけでもない、それを訪ねるとジャックはこう答えた。 

 『ええ、私の幼馴染のアリサともよくしてくれましたし、あなたは信用できる、わかってましたよ、盗みなんてしないってこと、だって、初めあなたたちをみたとき村の周囲で、盗賊をおっぱらってましたからね』

 

 その夜、にぎやかな食事を終えると、ジャックは帰った。アズサと一行は食堂にのこりにぎやかに話をつづけた。そこでそれぞれの身の上話になった。アズサが一行に自分の過去をうちあけたのはその時だった。

アズサ 『ジャックのいうように、先代の時代、今では争いは身を潜めましたが、かつてこの村には、“旧文明の遺産”の採掘を行い、一儲けしようとする派閥“復興派”がいました、シャーマンはすべてそれに抵抗し、初めは採掘をやめるようにずっといっていました、しかし次第に、隠れた“復興派”が生まれると、あらぬ疑いをかけられるシャーマンも生まれ、魔女狩りのようになっていき、私はそのシャーマンの家系で両親は、あの時、あらぬ疑いをかけられた側でした』

ロークゥ『復興派、ですか、地下を国や光明教会の支援なく掘り下げようとするのは危険です、そもそも国や光明教ですら今は無理な採掘を行いませんから、“黒霧”や“影憑き”についてはいまだ解明されていない事も多いですからね』

アズサ 『ええ、ですから“影”にとりこまれる人々はその時も大勢うまれました、人々の憎悪は、その疑いをかけられた私の一族にもむけられ、私の一族は……本当は“復興派”ではないのに、そんな証拠もなしに人々からきらわれ』

ロークゥ『……』

 気を遣うみんなの視線を感じアズサは、急いで言葉をつづけた。

アズサ 『そうです、いま両親と兄はこの村から追放されました、先代の村長の決定ですから仕方がありません、事実あのころ、“復興派”の中には過激な暴力運動に走り、カルト化しているものたちもいましたから、疑いをかけられた人はかたっぱしから村から追放され、いまでは離れ離れに』

ロークゥ 『つらかったですね』

  アズサはその瞬間注目を浴びるのがつらくなったのか、あせあせとほかの周囲の人をみわたし、ロークゥが視線を送ってくれたので彼女にバトンをパスした

アズサ 『ロークゥさんは?どんな家の出身なんです?』

ロークゥ『私は……実はみなしごでして、物心ついたころには、光明教会にひきとられ、それから師匠のお世話になっていました、家族のように接してくれる温かい人で、寓話使いの師匠です、ただ、どうやら私にはいきわかれの姉がいるらしいことを大人になってから、光明信仰の人にきかされて……今は、旅のついでに、私は姉を探しています』

 何か、少し重い空気になったようでその場が静まり返ったので、今度はロークゥがアズサに、よびかけて空気を換えようとした。

ロークゥ『アズサさん手をだして』

アズサ 『?』

ロークゥ『簡易的な魔術です、あなたの魔力を調べます』

 ロークゥが寓話本をとりだすと、それをもつようにアズサにいう、手のひらから呪文が現れ、光が放たれる。

ロークゥ 『汝の魔力のありかをしめせ、汝の力の根源をしめせ』

アズサ 『これは……』

 光はいっそうつよくなり、しかし一瞬にして消えた。それをみていた傭兵たちもざわついたが光がきえたので、ふっと安心したような顔をみせた。

アズサ 『何かわかりました?』

ロークゥ 『!!アッ……いえ、なんでもありません、普通の魔力でした、少し勘違いしていたようで』

アズサ 『え、何か変ですよ?』

ロークゥ 『いえ、今は場所が悪いので、いずれ、それよりもうひとつ大事な話が』

 アーメィがロークゥの気持ちを察して、すぐにその話をひきとった。

アーメィ『影憑きの話よね、寓話使いや光明信仰は、あれを“払う”技術をもっている、でもこの村の傭兵はきっとそんなものないわよね』

 その時食事の席を背後からみまもっている傭兵たちは黙って下をむいてしまった。

ロークゥ『つきもので苦しむ人をたくさん見てきました。手遅れになると、一生代償を背負って生きることになります』

アド 『それは僕にも覚えがありますね』

アズサ『どういう事です?』

アーメィ『それは、のちのち……』

ロークゥ『わたしたちは一度村の人々の信用を損なってしまった、これから何ができるかはわかりませんが、ともかく全力をつくせるよう努力します』

 話が終わると、アズサは一行をじーっとみていて、しばらくしてまた、いつものようにもじもじ、きょどきょどとし始めた。

ジャック 『あのー、そのことなら』

アズサ 『えっと、昨日おばあさんをかばってくれたので何かお礼がしたくて、もし何か調査が必要なら、私をたよっていただければ』

ロークゥ一行 『!!』

 ロークゥはあまりに意外な申しでだったので驚いたが、ちょうど自分たちの味方が必要だと思っていたので、彼女にひとつ注文をすることにした。小声で、口で手を覆い隠し、すぐとなりのアズサに耳打ちをする。

ロークゥ 『ならば、“水辺”をよく監視していてください、少し匂うのです、それから水辺にいる傭兵団の人をよく監視しておいて、何かあれば必ず私たちの誰かがかけつけますので、すぐ大声で私の名前をよんでください』

アズサ 『それだけでいいんですか?』

ロークゥ 『ええ、“影憑き”は必ず、精霊と主従契約を結び、精霊を奴隷にします、光明魔術では禁止された“黒影魔術”を使い、精霊の魂を分離し、三つにわける、その三つを手はず通りに“儀式”を終えると、精霊の魂は影憑きの完全な奴隷となり、影憑きは“願い”を達成する代わりに自分の命の一部を差し出します、けれど直接人間の肉体と魔力を触媒とするので不安定なのです、必ず何度も契約が上書きされます』

 そしてその夜の集まりは解散となり、アズサは家に帰り、ロークゥたちはとこについた。


 その夕方、人々が寝静まること、人知れず水辺に一人の男の影があった。

 『水の精霊よ、私の奴隷となりたまえ、私の命と引き換えに、私に“黒影”の力を与えたまえ』

 するとみっつの光る玉が、水辺からうかべあがり薄い光を放ったのだった。男は両手をひろげ、もだえながらその光の放つ魔力をうけとっていた。しばらくするとくちから何か吐しゃ物をはいてその場をあとにするのだった。


 その後男はその場をあとにするが、背後から別の男がやってくる。暗闇の中月明りに照らされたその顔は、ロジーだった。ロジーは男の残した痕跡を消した。地面にべったりとついていた血反吐、それからとびちった水を上から砂をかけるのだった。

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