第1話 5節 規則
その日、人々がまだ寝静まっているような早朝から彼らロークゥのパーティは行動を開始した。ロークゥを先頭にこそこそと、宿から1キロも離れてない場所に村の中央、例のマナツリーの場所がある。そこにたどり着くと、ロークゥは他の二人に、祠の下にある地下への入り口らしきものを調べろといった。たしかに祠の前の空間には地下への入り口らしき扉がみえるが鉄柵が邪魔をする上に、扉には鍵がかかっている。二人がこそこそ様子をみたり、こじあける準備を続ける間、ロークゥは少し街の外を見た。地平線へ遠くかかる朝焼けの傍らに、“影の魔術師”と“カーゴレール”の姿がみえた。
ロークゥ『彼ら、やっぱり眠らないんだな』
アーメィ『ロークゥ、何してんの、見たけどこれ、鍵がかかってるわよ』
ロークゥは目の前の、夜間ですらぴかぴかと光る端末をもつマナツリーをみた。葉も微量ながら光をもっていて、樹液はマナと同じ黄緑色のキレイな光を放っていた。
その時、ロークゥは背後から視線と気配を感じた。何者か若い物のような気がした。
謎の人物『お、おはようございます』
一同『!?』
赤 い服装のオドオドとしたショートヘアーの下がり眉、たれ目の少女がそこにいた。彼女はびくびくとしながら、片手でもう片方のひじをつかみながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
少女『驚かせるつもりはありません、ずっとみていましたから、あなたたちの敵ではないですよ!!あなたたちは、“放浪者”の方々ですね、旅人ともいいますか、私はとてもあなたたちを尊敬していて、できうることならばこんな地味で何もいいことのない村はでて……』
ロークゥ『ちょっとまってください、あなた、どうして私たちがこそこそしている事を怒らないんです?あなたの村のツリーをこっそり調べてるんですよ?』
ロークゥは自分が逆切れのような状態で人に不満を言っていることにきづき、少し吹き出すと、つられてアドとアーメイが笑った。
アーメィ『ロークゥ……おちついて、っていうのも変か、ふふっ』
少女『いえ、違うんです、私は本当にあなた方を尊敬していて、おびえているとかそういうわけじゃないんです、いえ、おびえているのか?わかりませんが、ただ私は、私はこの村の人々からあまり好かれていないので、あなた方にヒントを授けようかと、私は、あるおばあさんにあなたたちにあってほしいんです、鍵のありかをしっていて、この村の秘密をあばくきっかけになるかも、そうすればきっと、今よりはいい村になるかも、ならないかもですが……』
発言が時折支離滅裂で奇妙な少女だと思ったが、ロークゥは彼女が嘘をついているようには思えなかった。ロークゥはひとまず彼女の話を聞いてみることにした。
『私が日頃からお世話になっていて、とても仲の良い、デミドというおばあさんが、“鍵”をもってます。私のような貧乏な嫌われ者は、彼女に世話になる事が多くて』
貧乏と少女はいったが言葉とは裏腹に、少女の服装はどこか高貴さを感じさせた。それに、しぐさからも気品を感じる。
『ところであなたのお名前は?』
そこでアドが気を利かせて少女に尋ねる。少女はまたもやおどおどしながら答える。
『アズサっていいます、よろしくです』
やがてアズサが一行をひきつれて、村の中央のひときわ目立つ、しかし奇妙な、まるで占い師の館のような場所に彼らを案内した。
『ここですか?』
『ええ、ここです、ここはかつて村のシャーマンが仕事をしていた場所ですが、先代の村長が病気になってから、一部の人々がシャーマンの仕事を疑うようになり、お役御免となり、いまでは“デミド婆”しかいません、シャーマンの中には自分たちの仕事を返してほしいというものも多く……』
ロークゥ『なるほど、それで……私たちに何か手助けしてほしいのですね』
アズサ『……』
入口にも奇妙な渦巻き状の詩集をぬった布がかかっており、扉の役割をしていた。中へ通されて、まっすぐつっきたところにリビングらしきものとまるいテーブルがみえ、安楽椅子があり、老婆がそこにこしかけている。少女がよびかける。
『おばあさん』
すると廊下をまっすぐいった中央の部屋らしき場所で、老婆がこちらをじっとにらんでいた。その顔はいつか見た気がした。たしか村人に“魔女”と呼ばれていた老婆ではなかったか。まるで彼らの来訪を待ち構えていたように。
『きたね、“放浪者”』
『あの……どうして?』
ロークゥが、質問をしようとするとその意図をさとったように老婆は答えた。
『ああ、なぜ私たちがあんたたちの手助けをしたり、指図をしたりするのかって?それはー、我々には我々の目的があるんだ、お嬢さんにも何かの目的があるんだろう?たまたま利害が一致するということはあるんだよ』
そこでロークゥは昨日“影の魔術師”に言われたことを思い出した。
【疑い合うもの同士でも、お互いの大事には争いは不要……互いに、利害の一致するときには助けあわねば……】
老婆は髪の毛を頭の上で何重にもあみこんだ奇妙な髪型をしており、それをすぐさま隠すようにフード付きの羽織と、頭巾をかぶっていた。
『さ、いこうね、皆が起きてこないうちに』
その後、一行は老婆と少女に再びマナツリーの場所に案内される。道中でアーメィが尋ねる。
『それにしてもどうしておばあさんがカギを?』
『この村は年寄りが力をもっているからね、緊急の時は地下を開ける権利をもってる、村長の決めたことだ、私たちといっても、今は私一人だけだがよ』
急いでとせかされるので、ロークゥとアーメィ、アドが急ぎ、祭壇に近づき、作業を始めようとする。老婆から鍵をうけとり、それをはめカチャリとまわした。その時だった。
《ピカッ》
そのとき後方からライトが照らされ、がやがやと人影があらわれた。ドサドサと足音をたて、ロークゥたちの背後ににならんでせまり、しばらくすると動きをとめた。自分たちを見下ろす大人たち。後方に村の傭兵団、前方に困った顔のジャックと、頭を抱えたロジーがそこにいた。
ジャック『旅人さん、盗みを働くつもりですか?困りますよ、こういうのはお互いの信頼関係がないと』
ロークゥは大げさに両手を振って否定した。
ロークゥ『い、いえ!!決してそんなつもりでは』
ロジー『はじめに、説明しておくべきでした。この村のおきてはひとつ、“悪いウソ”をついてはいけない、村にとって不利益をもたらす嘘を、自分ひとりのためについてはいけない、郷に入っては郷に従え、という言葉がありますね、ロークゥさん、あなたはもっと賢い人だと思っておりましたが……いったいどうして地下へ?』
そういいながら地下を掌を翻しながらさししめすロジー。
ロークゥ『はあ、困りましたね』
頭をかくロークゥのすぐ後ろで、ほらいったでしょといわんばかりのアドとアーメィが委縮していた。しかしロークゥは少しもひるまず、むしろ勢いがのったように逆に相手に質問を始めた。
ロークゥ『嘘、といえば隠し事をしているのは、私たちだけではありません、この村は地下にある“限界層”へふれたことがありますね?ただマナツリーの採掘のためにつくられた地下への扉とは思えません、村の人々が“闇影”を知っていて恐れる理由がそこにあるはずです、きっと何か過去に事件が起きたのでしょう、それで村人が“闇影”について詳しくなり、恐れるようになった、ごく一般の人は“闇影”イコール“影憑き”とは思い浮かびませんから……』
ロークゥはまっすぐ正面をむいていた。その手のひらは、いつでもとりだせるように、腰につけた寓話本にあてられていた。
ロジー一同『!?』
ロークゥ『嘘をついてはいけないのに、なんて責めるつもりはありません、限界層にふれなければ、“影の魔術師”の手助けなしに、一人でに“黒霧”が生じるわけはない、“黒霧”は、“影憑き”の前段階であり、“影憑き”は“影の魔術師”でないものが“影の魔力”にのまれ、自我を失うこと、この村には、もしや限界層の奥の“影の魔力”に、無理をして接触した過去がある、その可能性をさぐったんです、その結果何者かが“影憑き”になったのではないかと、少なくともそうしてかつて“影憑き”の事件はおきたたのではないですか』
ロジー『……自由にいわせておけば、おい、傭兵団』
ロジーがたじろいだようにみえたが、ロークゥの質問には分が悪いとおもったのか、傭兵団に彼らを捕まえて監視するようにと命じた。ロークゥたちはあらがわず、傭兵団がロークゥや老婆たちの手を後ろでに交差させつかんだ。
『あなたたちは少なくとも今日一日は外出を禁じます、それくらいの“罰”はあたえてもいいでしょう、なにせ人の家の敷地へ無断で入り、開かずの扉の鍵をあけたのですから』
『開かずの扉、ですか』
ロークゥの言葉にまたもやひるんだ様子をみせたロジーだったが、すぐ傭兵団にアゴで右を差し命令した。
『つれていけ』
ロジーは、すこし考え事をしたあと、戸惑いながら、老婆デミドをにらんでいった。
『その老婆は禁固1か月だ』
『!?』
ロークゥが驚いていると、ロジーは老婆を見下すような顔でいった。
『“魔女”め、村人から“魔女”と呼ばれる罪を忘れたか!先代を助けられなかった罪も忘れ、また罪を重ねようとは』
影で隠れていたアズサがそのとき、そばにすりよってきて、ロジーに哀れみをこうた。
アズサ 『あわわ、お願いします、私のせいなんです、どうかこの老婆の罪を私に半分わけてください、とてもいいひとなんです』
ロークゥはその様子に今度は自分が悪い事をしたという事をやっと理解したように困り顔になり、ため息をつきながら、ロジーの前で頭をさげた。
ロークゥ『私が二人を巻き込んだんです、シャーマンが嫌いでも、今回は私がこの村の秘密を知りたくてやったことです、別に彼女にたぶらかされたわけでもないですから』
ロジー『……』
ジャック『少し話し合いの時間をください』
そうしてロジーとジャックは二人で話し合いをして、数十分くらいもめていたが、やがて、ロジーがこう切り出した。
『決まりました、あなたたちを傭兵の監視下に置きます、村をでるまでずっと、それで手を打ちましょう』
そうして一行は開放されることになり、“魔女”とアリサは罪に問われなかった。そしてすぐに開放されてどこかへ帰っていった。ロークゥたちは傭兵団につかまれていた手をほどかれ、ただ監視されるだけになった。
アド『ったく、きつくしめすぎだっての』
ロークゥがロジー、傭兵団の一部があるいていくのをみていると、ジャックがこっそり背後からぬけだした。こちらに近づいてきてロークゥに耳打ちするように、しかしアドとアーメィに聞こえる声の大きさで彼はこういった。
『ロークゥ、彼女アズサの扱いにはきをつけて、私は幼馴染ですが、彼女のいうことはほとんど嘘ですから、彼女は“魔術”にかかって嘘しかいえなくなったんだ、きっとあの“魔女”が何かをして』
ロジーが振り返り、ジャックに叫んだ。
『ジャック、決めたことを忘れたんですか』
傭兵団のリーダーが咳払いをする。
『さあ、こい』
リーダードグラと傭兵団の一部がロークゥ一行を監視して、宿に戻るようにいうと、ロークゥたちはおとなしく従い、ただその道中でコソコソ話をしていた。
ロークゥ『おばあさんとアズサはうまく逃げたみたいですね、必要なときには彼女たちを頼りましょう』
アド『でも彼女はうそつきだって、ジャックが』
ロークゥ『さあ、ジャックはユーモアでそういったのかもしれませんよ、親しい間柄みたいでしたから』
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