第1話 2節

 その夜、ロークゥは夢を見た、今日みたものとおなじ黒霧と呼ばれるものが自分の目の前にいて、何かを話そうしようとしている。これは“寓話使い”の見る暗示の夢。黒霧が直ぐ傍に現れるとこうした夢をみる。景色はあたり一面真っ白、人型になった黒霧はロークゥのそばまできて彼女の腰にてをあてるとこういった。

 

 『黒霧は、二人いる』


 翌日、昨日の夢をぼんやりと思い出しつつロークゥが目を覚ますと、おなかがすいたので食事をしようと、食堂へ向かう。そこで食堂でご飯をもらっている列に並んでいると、食堂の外が何やらがやがやと騒がしい。すぐにロークゥがその場所へ向かう。ざわめきの中でジャックが観衆を落ち着かせようとしている。

 『皆さん、おちついて、おちついて、大丈夫だから、黒霧は確かに不幸の予兆だが……必ず“傭兵”たちが“影憑き”をつきとめますから』

 ジャックのそば地面の傍らに、少年が鼻血を出して倒れている。そのすぐそばに黒霧があり、人型になったり球体になったりして不安定に浮遊している。しかし人々が突然、あっと叫ぶと、黒霧は思いもよらぬ形にかわった。

 『黒霧が……消えた、まだ傭兵たちもきてないのに、また昨日の旅人、放浪者たちじゃないのか?』 

 ロークゥは周囲を見渡す。

 (あのよそ者だ)

 (また何かしたのか)

 (いつも本を持ち歩いているようだし、“寓話使い”ならそれも可能か)

 人々は、人だかりの中から各々のギラギラと光る眼で好奇心や疑いに満ちたまなざしをむけてくる、そのときざわめきの中から一人の男がでてきて叫んだ。

 『彼(ジャック)が犯人だ、俺は見た』

 ざわめきがまた一つ大きくなった。ジャックはそのざわめきに対して驚きつつも声をあげた、オーバーに身振り手振りをまじえて、少し震える声だった。

 『何?僕はいまただここにいただけだ!第一発見者だよ!』


 その時、ロークゥの直ぐ傍に今起きてきたと思われる髪の毛がぼさぼさのアドと、綺麗に身なりをととのえたアーメィが現れた。

 アーメィ 『何事なの?』

 ロークゥ 『また黒霧が現れて、でも今度は“被害者”がいるみたい、それで目撃者も』

 アド『まずいですね、“犯人捜し”が始まると、黒霧の振りまく“不幸”よりもそれのほうが危険になることも』

 アーメィ『黒霧は本物なの?』

 ロークゥ『いまコンパスを……』

 

 ロークゥはコンパスといいつつゴソゴソと胸元のポケットから何かを取り出す。その“コンパス”は奇妙な形をしていた。中央に砂時計のようなものがはいっていて、そのほかには特殊な点はないようみみえるが、大きさは普通コンパスの倍はあるだろうか。

 《ジリリ・ジリ》

 コンパスが回転する。それを見下ろすアーメィとロークゥ。たしかにコンパスは黒霧の現れていた方向を指し示した。

 『おってみよう、ロークゥ』

 『ええ』

 彼女たちはかけだし、アドもその後を追う。

アド 『便利ですねえ、これで“影憑き”の姿を追えるんですから』

ロークゥ 『特殊な“マナ砂”を利用してます』

アーメイ 『“マナ砂”はごくこの世界の砂の中にごくわずかに含まれる砂礫で、“死したものの魂を宿す”とされる、その中でも特殊なものって“光明院や光明教”は何を研究しているのやら』

 彼女たちは人込みをかきわけ黒霧の直ぐ傍を通り、人込みをはなれ、コンパスの示す先をおった。ある路地にさしかかると頭巾をかぶり、杖をついた老婆がこちらをむいてたっており、しかし目がみえないのか両目をしっかりと閉じていた。

 『お嬢さんたち、探し物かい?』

 『おばあさん……あなたは』

 『ロークゥさん、ロークゥさん、ちょっと、その人とはあまり……』

 ふと老婆に接触しようとすると、すぐ後ろから声をかけられた、ふりむくとそこには昨日であったこの村の村長の側近ロジーがいた。


 『あの人は……』

 『ああ、魔女ばあさんだ』

 『魔女?』

 『この村の厄介ものさ』

 そのとき、ロークゥはアーメイにひじでつつかれ、振り向くとアーメイが少しむくれていた。アーメィはロークゥに小声でよびかける。

 『ちょっとロークゥ?あんまりおせっかいやかないでね、いつもみたいに、あなたのいいところではあるけど、私たちの目的は村の救済じゃなくて“影の教会”の影響を見て回る事なんだから、ギルドだって、私たちには“調査”しか求めてないんだから』

 

 そう話している間に、ロジーが観衆をちらして大きな声で叫んだ。

 『この件は私と村長にまかせてください、必ずなんとかしますし、傭兵もいます、なんなら旅人、放浪者さんたちにも手伝ってもらいます』

 その時、ロジーが半分目を閉じてこちらにウィンクをしてきた。

 『ね?』

 『え、ええ』

 ロークゥが断り切れずに答えると、アーメィが隣で頭をかき眉間にしわをよせていた。アドはその様子をみて困り顔で額に汗をかき笑っていた。

 『村長』

 ロジーが、あわてていて今ロジーに助けられたばかりのジャックに呼びかけた。

 『旅人にこの村を案内してもよろしいですか?』

 『あ、ああ、僕もいこう』

 

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