第1話 1節

1.白髪で眼帯をつけた少女が整理された道をいく。前髪は姫カットのように短いがそれよりか幾分ぎざぎざした波がありサイドはすっと尖っており、後ろ髪はひじにかるほど長い。少し遅れて金髪、銀瞳に短めのポニーテール、金色の小手をつけ背中に弓を背負った少女がおいかける。さらに遅れて荷物持ちのように多くの荷物を抱えた馬と、くたびれた顔でふんばりながら杖をつく短髪で頬にキズを持つやさしそうなたれ目の茶髪の少年が続いた。横は鬱蒼と生い茂る林で、その横は平原だった。


そこへ、その背後から、鬱蒼と生い茂る森の中から声がかかる、黒い影がしのびよっていた。

『おい!!』

『お前ら、どこへいくんだ?』

黒い影が林をかきわけ姿をあらわす。

『ひ、ひい!!!盗賊、盗賊だあ』

一番に声をあげたのは少年だった。少年は武器をもっておらず、その代わりに荷物をもっていた。

『俺は、いや俺たちは、ただの旅人で、放浪人で!!』

『そんなのみりゃわかる、村のもんじゃねーだろ、いいから金目のモンだしな』

『金目のモンか命か、どっちかをだしな』

暗がりから現れた盗賊はところどころにちぐはぐな防具やら武器をもっており、悪い顔をしているし体は傷だらけ、それほど統率がとれたようにもみえずふらふらしていたが、たしかに筋骨隆々で並の人間ならば襲われて手も足もでず逃げ出すか、静かに金品を差し出すところだろう。


 金髪の弓をせおった少女が、背中にてをのばし、弓をもち、矢に手をかけようとする。

 『あんたら、私たちに手を出すとただじゃおかないよ』

 盗賊たちはまけじと応戦しようとする。

 『あんだあ!?子供3人、一体何ができるっていうんだ』

 『見たところ、ミュータントっぽくもないし、亜人も魔物もつれちゃいない』

 『はやいとこ金目のものだしな、ションベンちびるまえにな!!』

 その言葉で盗賊たちはゲラゲラ笑いはじめた。


 白髪の少女が、金髪の少女を制止して、矢にかかっていた手をとめる。

 『ここは私が』

 白髪の少女はおもむろに、せおっていたカバンから、本と人形の顔のようなものを取り出した。人形の顔を天につきあげ本をひらく。本のページをめくるとそこに四つの羽をもつ奇妙なカラスが描かれていた。

『寓話名(ウソツキ鳥)“ヨツバ”さん、よろしくお願いします』

本を開いたまま少女が言葉をはなつと黒い何かがとびだした。とびだしたソレは人形の顔のようなものにひっつくと、黒い何かは、姿をあらわす、それは立体的な影のようだった。それも先ほど本の中に描かれていた、影と同じもの、他のメンバーが本を開いたのを見ると、先ほどまであった影絵はなくなっていた。つまり本の中に影絵があって、そこから、四つの羽をもつカラスを取り出したようだった。


カラスの姿をみた盗賊たちは口々に、驚きやら、嘲笑やらをしていたが、カラスは思ったより、―人間の半身ほどの大きさがあり―盗賊たちはその羽ばたきに一瞬あっけにとられていると、カラスは盗賊たちにおそいかかった。盗賊たちは、ひるんだり武器をもちだしたりしたが、カラスはぶたれても、弓でうたれてもひるむことなく、あっという間に盗賊たちをついばみけちらした。

『や、やめてくれー』

『助けてくれー』

『“寓話使い”のミュータントなんて、聞いてないぞ!!』

盗賊たちはふたたび暗がりのほうへ隠れるようにしてにげていった。しばらくするとカラスはすさまじい雄たけびを天にむかってあげる。そして使用者である少女の元に戻ると、またもとの人形の頭と本の中の影絵の形にもどったのだった。


『何度みてもすごいな、それ』

少年が少女に近づく。

『いいえ、これは夢の残骸、いいえ、夢だったものが、復讐心を宿したものですから。浄化するまでそばにおいているだけです』

そうしてまたなにごともなかったかのように、三人は道をあゆみ、しばらくすると村が見えてきたので、先ほどまでの疲れがなかたったように、頬にキズのある茶髪の少年が我さきにと、その村へと入っていくのだった。





2.先ほどの少年少女たちはあるさびれた村についた、一行がそこへつくとざわめきが上がっている。村の中心にひとだかりができているようだ。

『黒霧が現れたぞー!!』

『恐ろしい、恐ろしい』

『誰だ、裏切りものは、“影の教会”の内通者は!』

『あぶりだせ、あぶりだせ』

 むらびとたちはある一角にあつまり、黒い影の塊をみていた、その影は、家の屋根の上にとりつき、うごうごとうごめいている。ソレは奇妙に、どこか人にも似た形状をして、村人たちを、―まるで意識があるかのように―みおろしているように首をふっていた。


 そこへざわめきの後方、ある人が少し距離のあるざわめきと同じ平地から屋根を見上げた、その人が背中から武器をだし、弓をしならせ矢をつがえ、標準をあわせると少しのためらいもなく片手の力をぬき弓を放った。たちまちその屋根の上の霧は晴れ、まるで断末魔のような“キィッ”という声が聞こえる。矢を撃ったのは金髪銀目のポニーテールの少女だった。

『アーメイさん、目立つことはあまり……』

『いいじゃないか、腕がなまるし、私はいつも人以外なら百発百中だよ』

弓を放ったのは金髪銀の目のポニーテールの少女アーメイだった。


ざわめきの観衆は、その一瞬のできごとにあっと目をとられたあと、弓を放った3人の、先ほどの少年少女たちの方を見た

『あんたら、何ものだ?』

『そうだ、村のものじゃねーだろ』

少年がざわめきに応える。

『見ての通り、ただの旅人ですよ』

ふと一瞬観衆がしずまりかえり、次にわっとわきたった。

『なんで余計なことしてくれたんだ』

『うちらには用心棒がいるっていうのに』

金髪の少女アーメイがうろたえ、白髪の少女の後ろにかくれた。

『ゲッ、ヤバッ』

『ふう……』

白髪の少女は、本をかかげ、ページをめくると、その中からキレイな黒い花をだし、人々にみせた。

『おー』

『おー、手品だ』

『すごいじゃないか』

人だかりは一応しずかになったようにみえた。茶髪の少年はそれをみて頭をかきながらわらっていた。

『はは、姉御が助けられるのは、ロークゥくらいだな』

『何わらってんだよ、アド!!』

アーメイは、アドとよばれた茶髪の少年の脇腹を弓でつついたのだった。


 ざわめきの向こうから、騎士と思しきものたちをひきつれている一団がやってくるのがみえた。その中央に長髪で右でみつあみを結んだ男がこちらをしっかりとみすえてやってくる。キリリとして憂いをもったような瞳、どこか中性的で丸みをおびた顔立ち、整った身なりや姿勢をみるにこの町の偉い立場の人間らしかった。ふと人込みの中に声をかける。

『影は?』

『今その旅人さんが処理しちまったよ、まったく、事情もしらないからしょうがないけどねえ』

ふと、その男は旅人たちの一団にめをやると、柏手を打って大きく音をならした。

『はいはい静かに』

『おお!ロジーさん』

『ロジーさんがきたぞ』

『おお、もう安心だ』

 村人たちは今度はそっちに人だかりをつくった。

『わかったよ、皆さん皆さん、今回の事は外からきた旅人が事情をしらずに誤って解決してしまったようだが』

そこで大勢の笑いが起きた。

『次また現れたら自分たちで解決しよう、何せ“黒影憑き”が現れたんじゃね、この村の事だ、この村で解決しなければならない』

人だかりの向こう側から、ロジーといわれる中性的男の背後にのしのしと割腹のいい男たちがあらわれた。村人と同じような、 ―今見れば、村人たちも全員― 紫の装束をきている。

『紹介がまだだったね、旅人さんたち、私の名はロジー、この村の村長の側近をしている、こちらは傭兵団、リーダーのドグラだ』

 口髭を整えた、スキンヘッドの男がリーダーらしい。割腹のいい男たちは、傭兵というわりにはきちんとした姿勢でお辞儀をしてみせるのだった。

『旅人さんたち、お名前を聞いていいですかな?』

『私はロークゥです、そしてこちらがアド、こちらがアーメイです』

順番に青年と少女を掌で指さした。

 その時、どこかから声が聞こえる。ざわめきがまたどっと上がった。

 『わわっまったまったー村長がここにいるだろー、客人に何をするつもりだいロージー』

 すると、人込みのなかからひときわ大きな声があらわれる。ひょうきんな顔と声で、眼鏡にシャツに短パンを着た短髪の男性だった。目がほそく、まるでピエロの人形ように愉快で角ばった顔立ちをしている。

 『ジャック、大丈夫ですよ、私はあなたのように“お調子者で慌て者”でもないので旅人に害を加えることなんてありませんよ、あなたも手伝ってくれますか?』

 『とかいっちゃってもー』

 『まったく、あなたの喋り方はどうにかなりませんかね』

 旅人たちはしばらくそうして喧嘩じみたことをしていると、ロジーがこちらに気づいたようで、ロークゥに目で謝罪をしてきた。

 『すみませんお見苦しいところを』

 『いえいえ、家にも双子みたいに似ているのに、いつも喧嘩する二人組がいます、でも実は、二人の嫉妬は嫉妬ではなく、遠目から見るとリスペクトなんですよね』

 そういうとその二人は、お互い見つめあい、吹き出すように笑った。


 『さて、今晩のお宿はおきまりですか?』

 先ほどの出来事の話をきくついでにと、ロジーと村長のジャックに食事をもてなされたあと、食事の席でそう質問された。

 『あ、どこでも、3人泊まれるやどならば』

 『そうですか、仲がよろしいようで』

 そこで、ロジーは気になったことを質問する。

 『あなたがたの三人の共通点はみたところ、あまりわかりませんが、あなた方の目的、旅の目的などをきいてもよろしいですか?』

 『旅は、私寓話使いで』

 『傭兵団のものに聞きました、巨大な鳥の影を使ったと、その腕は確かなようですね』

 『でしたら、お話は早いですね、どうにか“影の教会”の勢い、“帝国マナ・エンパイア”の勢いを止める事がこの度の目的です、それぞれこのパーティの人々にも目的がありますし、まがりなりにもギルドの端くれにも所属しておりますが』

 『……』

 ロジーはおしだまり、ジャックもおしだまる。笑われるかと思ったがそんなことはなく、シーンと静まったあとに、こうつけたした。

 『もし、今回の件を解決していただいたら、それなりの報酬をさしあげましょう』

 『ちょ、ちょっとロジー、あんたいつから村長より偉くなったんだ』

 思わずロークゥがふきだした。

 『本当に仲がよろしいですね』

 『お父様の側近であったころからそうでしたので、もちろんしっかりと彼にも責任と判断が任されておりますが、ややこしいことはまずわたくしが判断をし、そのあと彼に判断を仰ぐという形をとっております』

 ロークゥは聞きづらいと思いながら、ロジーに聞いておきたくて、父のことにふれた。

 『先代の村長さまは……?』

 『つい最近なくなりました、突然のことで、まだジャックは仕事になれておりませんので』

 それにジャックがつづけた。

 『お見苦しいことばかり、すみません』

 『明日、私がこの村を案内しますので、どうか今日のご無礼などをご容赦いただければ』

 ロークゥも気になっていたことがあった。もし、アーメイが手助けをしなければ今夜の“黒霧”はどうしたのか。しかし皆つかれていたようだったのでその話題はまた明日にとっておくことにした。食事と宴はおわり、ロークゥは一週間ほどこの村に滞在して必要な物資を買い集めることなどを知らせて、その晩村長たちに紹介された東の宿に泊まった。





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