10 落ち着かない給食


 給食の時間。


 先生の指示で生徒たちは班に分かれた。六人程で一班(ひとはん)になり、教室には一班(いっぱん)から六班までできた。私はその内の二班。机をくっつけて準備する。


 でき上がった二班では私の右隣が沢野君、左隣が龍君、向かいが志崎君で左斜め前が咲月ちゃん。右斜め前が川北さんという眼鏡の女の子だった。


 うっ……。咲月ちゃんがニヤニヤした何か言いたげな視線を送ってくるので苦笑いしてしまう。


 こんな皆のいる前でさっき彼女が言っていたような事を聞かれても困るので、そそくさと給食を取りに行く。




 お盆を持って行って給食当番の人によそい分けてもらう。列で順番に待っていると私の後ろに志崎君が並んだ。


 その時、一度目の人生のいつだったかは忘れたんだけど、彼に給食に出たフルーツヨーグルトが欲しいと言われた事があったなと思い出す。


 当時の私は今より痩せていて、それをあげたら量が足りなくてまた貧血になりそうだったので結局断ってしまったんだ。


 本当はあげたかったんだけどね。その時は既に彼の事が好きだったから。



「ごめんね……」


 彼を見て呟いてしまい「あっ!」と口を手で塞ぐ。


 「笹木さん、何?」と聞き返され、慌てて誤魔化した。


「ううん? ごめん独り言」


 あはは……と笑いながら心の中で言っておく。




 今度はちゃんとあげるからね!




 一人こぶしを握って誓う。


 二度目の今回は好きとか嫌いとか関係なく、心残りを解消したかった。リベンジとでも言えばいいのか。もう「あの時、倒れてもいいからあげればよかった」とか後悔しない為に。



「笹木さんって何か変だね」


 私の様子を見ていたらしい。志崎君に笑われた。


 私は少し心外に思いながらも、彼の笑顔が見れてほっこり胸が温かくなった。

 また同じ時を過ごせるなんて夢みたいだ。



「ちょっとそこの人……笹木さん? 前に詰めて」


「あっ……ごめんね」


 給食当番の人に注意され、手に持っていたお盆におかずをもらう。


 ……って、あなたは雪絵ちゃん!


 給食当番用の白い割烹着に白い帽子を身に着けている。彼女は小さいおかず係!


 おかずの入った食器をもらう時、彼女の視線は冷たかったが私は思わず微笑んでしまった。

 だって長年の大親友だもん。三十七歳になってもしぶとく私に付き合ってくれる数少ない友人。


 二度目の人生でも、ぜひ友達になりたい! いや絶対なる!


 私の大好きオーラが伝わったのか……雪絵ちゃんは未知の生物に遭遇した人のように顔をしかめた。

 きっと今「何この人!」と思ったに違いない。大体分かるのは親友だから。




 全員準備が整ったところで食事が始まる。


 この席の配置、何だか落ち着かないな。

 前方の志崎君は私が食べているのをじーっと見てくるし、左斜め前の咲月ちゃんもキラキラした瞳で何か言いたげだし。

 とにかく今は無心だ。無心で食べよう。


 コッペパンと牛乳の組み合わせ好きだな……と黙々と食べていると、咲月ちゃんが堰(せき)を切ったように話しかけてきた。


「由利花ちゃん……、放課後ちょっとお話しよ! 二人だけで」


 ああああ……。何の話かは分かっている。志崎君の事でしょう。

 最近、咲月ちゃんは少女漫画にはまっているらしく同じ学年の誰と誰が怪しいとか誰が誰の事を好きだとか噂話にも敏感だった。



 何て説明すればいいんだろう。

 心中(しんちゅう)で大量の汗をかきながら断る事もできずに了承した。


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