第3話 越後の女龍

茶人宅


「茶器がないのに茶道は出来ません、私から買うか商家で買ってください」


絶賛絶望感漂う発言ですが、至極真っ当な正論を叩きつけられた十六夜月です。

ある人こと上杉謙信と仲良くなるために茶道を学ぼうとしたけど……茶器ないなら無理だよね。


「えーと、大名達と茶を飲むにはどれぐらいの価値があれば?」

「最低でも富士茄子ぐらいないと失礼に値するかと……」

「いま手元にある茶器で大名と茶会する価値のやつは?」

「早船ならありますが?」

「おいくら貫?」

「230貫です」


高すぎて手が出なかった。

現代価格にして軽く3000万である。

自力で稼ぐにしたとしても……


「利休さん、いつか買うからとっててくれ」

「いいですよ」

「金稼いでくる」


こうして、今ある125貫を手に入れ京の街まで行った。


京の街

流石は都とも言うべきでどこを見ても人だらけ、現代でいう東京も真っ青だ。

そんな中やっとの思いで座についた。


「いらっしゃい」

「釣り銭はいらん!125貫で買えるだけの茜くれ!行商人がしたい!」

「お前おもしれえ奴だな、気に入った、少しおまけしといてやる」


そういって茜を2kgほど買って、早速また堺の町に戻るのだった。

おまけしてくれたからか心なしか2kgより重たい気がした。


堺の町の座


「その量の茜なら331貫と500文だな」

「うりゅ!」

「ありがとよ、あんた多分また買う気だろ?地形に詳しいなら商家入って奉仕したほうが稼げるぜ?」

「鍛冶屋なもんでして、貫がなければ木炭が買えんもんでして……」

「あー鍛冶屋だったか、そいつぁ失礼したぜ」

「その針いいな、330貫で買えるだけ買うわ」

「いいとこ目をつけるな、今針が安く売られてんだよ」

「で、何個もらえる」

「あんた面白いから安くしといてやるよ、1荷物10貫でいいよ」

「買った!」


こうして買ったり売ったりしつつまた京の街、時刻は大体午後過ぎ。そしてまた座へと。


「今度は売る側で来たか」

「針売りに来た」

「京はたしかに針は欲しいけどよぉ」

「33荷物な」

「うーん、1荷物20貫でなら買ってやるよ」

「あ、茶を買うからもう少し高く売れない?この売り額全部を茶にぶっこむ!」

「……あんた、本当商人じゃないのが悔やまれるよ」

「後寄り道してあんたに良いもんくれてやるから高くして」

「何くれるんだい?」

「蜜柑」

「あーいいねぇ!よしわかった!勉強しよう!針を23貫で買って茶を安くしてやる!」

「じゃあ早速売って蜜柑買ってくるわ」

「約束だからな!5日以内だぞ!」

「おうよ!」


こうして茶の荷物受け取ること30個。

また堺へと。


さらに堺の町の座


「今度は茶かい」

「ええ、茶です。千利休辺りが使うでしょう」

「誰だよ」

「茶人さんです」

「あぁ、あの人か」

「で、おいくら貫」

「あんたが鍛冶屋じゃなければ競取り屋として嫌ってたよ、29貫と100文だ」

「売ったわ」

「ありがとよ、んであんたつぎはどこに?」

「雑賀の町いって蜜柑買う」

「なんでまた?」

「君らに世話になったからお礼に」

「……あんたほんっとうただの競取り屋じゃねえな!」

「じゃあいってくる」


そうこうして雑賀の町

銃とかの鍛冶屋に座もあるがやはり小さい町だった、用事があるのは座な訳だが。


「蜜柑荷物3個と硯を800貫文」

「おーよく買うねえ」

「時間がない、今日は泊まるか」

「明日までに硯は準備するよ、今日は暗くなるし山賊に襲われるかもしれんから寝な」

「うい」


こうして、1泊して山賊に襲われずにまた京の町、硯を持って座に。


「おーう約束の蜜柑やぞー」

「本当に持ってくるとは大した奴だ!」

「1箱蜜柑重いんだな!」

「これは座のみんなでありがたく食わせてもらうよ、であんたの事だ……なんか売りに来たんだろ?」

「硯を」

「需要あんのばかり持ってくるなあんた」

「おいくら貫?」

「936貫だな」

「売るわ、こんだけありゃ木炭買い放題だわ、鍛冶屋困らないしなんなら茶器も買えるわ」

「鍛冶屋がなんで茶器なんているんだ?」

「大名に売り込むにも茶器ないとダメなんすわ」

「大変だねえ」


こうして、おおよそ1000貫になったところで無事に堺に戻るのだった。

代金は後日支払いです、当時は一般的で現代がおかしいだけです。

但し230貫だけ手に持って。


「まさか1日で準備するとは……」

「約束だぞ」

「こちらが早船になります」


見事までに赤い茶碗、これが早船か。

しかし十六夜月は茶器には疎かった。

現代人に茶器は全くわからないのだ!


「割れやすいのでご注意を」

「えぇ…?」

「赤色茶碗は性質上割れやすいのです」

「そんな茶碗より割れにくいもんありゃよかったなー!」

「うーん、作るのを依頼しましょうか?」

「10日考えさせてくれ」

「いいですよ」


うーん?今手元には700貫近く、軍資金は使えない。

まだ、稼ぐ手段はあるとはいえど……。

まぁ、やるだけやろう。金がなければ給料も支払えない。

そうして船にのり1日寝る事、駿府(現代でいう静岡)に行ったのだった。目的はもちろん……静岡茶だ。


「おう、いらっしゃい」

「700貫で茶を買えるだけ、釣り銭はいらん」

「競取りか?競取りなら禁止だぜ?うちの座は」

「鍛冶屋だよ!」

「鍛冶屋なら証拠を見せてみろよ」

「今持ってる火縄銃が私が作ったやつだよ」

「あんた銃細工の鍛冶屋の新米か、そりゃ疑って悪かったよ……で、なんで金なんていんだよ?」

「大名に売り込むにも茶器なかったら相手してくんねーんだよ!切実なんだよ!生きるのに!」

「鍛冶屋も大変なんだな、おい」

「あ、陸路と海路なら石山いくならどっちが早い?」

「陸路だな、山賊に襲われたら泣け」

「ありがとさん、んじゃいくわ」

「気をつけてなー」


こんな話をして石山の町に行く道中、なんだか行き倒れに出会いました。


「誰か水と食料を……」

「誰やあんた」

「もう動けない……」

「ほんっとうしょうがねぇなあ!」


私はあもこ氏が前に作ってあった兵糧丸を渡した。食べたかったのに……。

まぁ人命には変えきれない、仕方なく渡すのだった。


「うめっ……うめっ……」

「しかし見知った顔に見えるが、まさかね?あんた現代人とは言わんな?」

「何故それを知ってる!?」

「認めたくなかったわ、あんたも現代人でスギネコ君か」

「その言動はまさか!?」

「そうだよ、十六夜月だよ」


はい月光会拉致確定したところで石山の町まて荷物運びをさせる事にした。


「何運んどるん?」

「静岡茶を今で言う大阪に、金がなければ大名に売り込むにも売りこめん」

「はぇー」


と、こんな感じに荷物が軽くなったのと、スギネコ君自体が宅配員な事もあり体力には自信があった。

そのおかげでなんとか座が閉まる前の午後3時には石山の町にはついた。

無論、緊急的に馬は借りた。1日費用1貫はかかった。


「いいかスギネコ君ちと黙って見ててな、もしくはすこしぶらついて」

「何で?」

「お主ここがいつかも分からなきゃ暮らしかたもわからんじゃろ」

「せやな」

「というわけで酒場いって飯食ってきな」


そう言って余った4貫をスギネコ君に渡して私は座に入っていった。


「酒場……ねえ」


スギネコ君は少し考え込み始めた。


石山の町の座


「あ、あんたか」

「静岡茶どうだい?」

「1荷物29貫と100文」

「あいよ、荷物、何個かったかわかんね」

「ずいぶん仕入れてきたな……30は超えるぞ?」

「せやかて」

「時間かかるから飯食ってきときな、2刻(約1時間)もありゃ金も準備できるからよ」

「あいよ」


石山の町の酒場


「どぶろくってうまいんやな」

「呑んでるみたいで何より」

「十六夜さんここどこなん?」

「戦国時代」

「は?」

「竜巻に飲み込まれたやつは過去未来問わず全員ここに来るらしい」

「ほな他の現代人も?」

「Vチューバーすら吹っ飛んでるからマジでランダム」

「で、そんな中うちどういきてきゃええん?」

「住む場所は与えるし仕事は与える、それが嫌なら独立しろ」

「まあ、行く宛ないからそれしかないよなぁ」


と、里芋と黒米を食べながら十六夜月は思った。

やっぱ薄口醤油の煮物はうまい。

金が吹っ飛ぶがやはり美味いもんは美味いのだ。


「おかみさん、強飯と里芋の煮付け、あと味噌汁追加」

「よく食べるねえ、まあうちとしたら儲かるからいいけど」

「あ、わたしにも同じやつ」

「あいよ」


こうして代金2貫を払い、腹ごしらえをして座に戻るのだった。


「出来てるぜ、金の準備」

「おいくら貫」

「運び金1100貫、あんたマジで辞めて商家に……」

「という訳にもいかん」

「ならしゃあねえな、言われたとこまで2日以内に持ってくぜ」

「うい」

「それと……ほら、800貫」

「これで全部か?」

「ああ、何に使うんだ?」

「お小遣い!」

「子供みてーな理由だなおい!」

「1900貫稼げるとは思わなかった、なんか茶が売れた要因でもあったんか?」

「それがよ、長尾景虎様が大茶会を開くために緊急で買ってったんだよ。だからあんたの茶が売れたってだけでこれはお礼込みだ」

「大茶会怖いなあ!」


長尾景虎、今で言う上杉謙信である。

越後の龍として恐れられ毘沙門天の化身だとか軍神だとか言われている。

十六夜さんはね、この人に月光会全員連れて仕官しようと思った。

恐らくだが、寿命とある問題さえ解決したら天下はとれる。

それが分かっていたからだ。

歴史書を見てるがやはり私達が行動した分過去がかわっており歴史の特異点になってるのは分かっていた。

だが特異点ならばこそ、未来に希望を持てる人に仕官しなければ長所は消されるのだ。


「……あんた、長尾景虎に会いに行くつもりだろ」

「うん!」

「名声もないのに行っても駄目だぜ」

「だよなあ」

「鍛冶屋なら鍛冶屋しときな」

「はいさい、ではでは」


そう言って座から出て私達は月光会拠点にへと戻った。


月光会拠点

「十六夜さん、いい報告があるで」

「何かねワトソン君」

「不知火な」


いい報告とは?

まぁ聞かねばわからないので聞くことにした。


「銃剣、出来るで」

「……材料は?」

「カブキさんが作ってくれた玉鋼だから木炭費用のみ」

「1日に作れる数は」

「ハールさん、カブキさん、うちの3人ホワイト労働で25本、一人でだから総合計で75本だが砂鉄が足りない」

「キャロル!あもこ!」

「十六夜君呼んだ?」

「なになにー?」

「キャロルは5000貫与えるから2倍に最低でもしてきて!あもこ氏は砂鉄掘って!ついでにキャロル!このメモのやつ買ってきて!」

「キャロル余ったお金で何かかっていい?」

「結果出せば許す」

「あもこにもお小遣いはー?」

「1日2貫な」

「現代価格だといくら?」

「30万、1ヶ月農民なら生活出来る」

「首輪つき氏!」

「ん?」

「キャロルの護衛、無駄遣い防止も」

「お弁当は?」

「白米くれてやる」

「やるわ」

「私は20日以内にある大名と仲良くなる!不知火?銃剣の試作品よこせ!」

「あいよー」

「十六夜さんスギネコは何すれば?」

「あもこ氏の護衛、1日2貫」

「わかったわ」


こうして、月光会の存亡がかかった大名納品作戦が始まった。

今いる現代人がフルになって活動をしたのだ!


10日後の越後国 春日山城


「何奴!」

「鍛冶屋じゃ!新武器が出来た!売り込みに来た!」

「そんな知らん鍛冶屋相手に相手してられるか!」

「いいから通せ!」

「駄目なもんは駄目だ!」

「……」


そういうと十六夜さん火縄銃を構え始めました、こいつ正気じゃねぇ!


「わかったわかった!早く行け!今回だけだし城をあまりジロジロと見るなよ?」

「君らの命にかかわる新武器なんに!」


ぐずぐすしても仕方がないから天守閣までいったら十六夜月ですら驚愕の事実を見てしまった!

上杉謙信の見た目がモロに女性なのである!

青いような綺麗な黒髪!青い瞳!バランスのいい胸!あからさまに女性なのだ!


「騒ぎは聞きました、鍛冶屋の方が何の用ですか?」

「えっ長尾景虎さん……?」

「ええ、私が長尾景虎です」

「まずは雑談かでらお茶を……いや騒がしくして申し訳ない、貴方たちの兵の装備の事でして」

「あら、意外にお茶の事がわかるのですね……?」


そう言って私は早船を取り出した、割れないように馬を使って走るのは大変だった。


「赤色茶碗ですか、これは……利休さんの所で仕入れた……?ただの鍛冶屋さんじゃないですね?実力がなければ買えないはずです」

「(転売した金で仕入れただなんていえねぇ!)」

「では、私からは駿府茶を……」

「(幼少期に学んでよかったボーイスカウトでの茶道技術!)」


この時だけは本当にボーイスカウト技能に助けられた。

茶道がこんな時に役立つなんてな!


「……茶が、甘い?」

「あら?それは珍しいですね」

「結構なお点前でして……では、私も茶と茶菓子を」


そう言って私は緑魔キャロラインさんに頼んで買ってきてもらったメモに書いたカステラと烏龍茶を準備した。

今できる最大限のおもてなしだった。


「んー!甘いです!何ですかこの茶菓子は!」

「南蛮由来のカステラですね、それにお茶も違う味がしますよ」

「しっかり味があるのに飲みやすいですね……」

「では、そろそろ本題に」

「あっ、夢中になってカステラを食べる姿を見せるだなんて申し訳ない……」


私は試作品の銃剣を見せた。

実際は刀の刃なため正しくいうなら銃刀が正しいだろう。


「これは……刀?いや刀にしては刃だけ?」

「今、私の手元には火縄銃があります……これを、こうすると?」

「……中々に面白いですね、鉄砲隊が擬似足軽になると」

「ええ、しかも遠方なら鉄砲隊のまま運用できます」


技術としては、リング型銃剣と同じ理論だ。

それを火縄銃用に改良しただけの話だ。

そのため、10日近くで開発も間に合ったのだ。

しかも刀の質は現代よりもいいため、普通に第一線に使えるのだ。


「面白い、買いましょう」

「幾らで買います?」

「鉄砲つきで1000丁、4万貫で半年以内に」

「わかりました、お引き受けしました」

「ありがとうございます」

「また茶を飲みに来ますよ、現状報告ついでに」

「(この鍛冶屋は利用できますね……)」

「つかぬ事をお聞きしますが……生まれはいつで?」

「天分9年(1540年)ですが?」


なんて事だ、歴史学的に狂い始めてる。

今の上杉謙信は20歳そこらじゃないか!

しかも女性となってかなりイレギュラーな状態だ!

こうなりゃとことんまで壊す覚悟だ、やってやろうじゃないか。


「ありがとうございます、カステラどうでした?」

「とっても甘かったです!また持ってきてくださいね?」

「甘いの、お好きなんですね」

「お恥ずかしい限りで……」

「おっ、誰だ?」

「鍛冶屋です」

「鍛冶屋か、俺は甘粕景持ってんだ」

「今新しい鉄砲の装備を見てもらいましてな」

「ほお、鉄砲に刀をつけて近接もいけるようにしてんのか。賢いなあ」


甘粕景持、上杉家でも相当な武将で確か騎馬がメインだったはずだ。

しかしなんかイケメンに見える。

何でなのか?


「おおどのー、そろそろ飯の時間だぜ?どうせ毒味あるから後1刻ぐれーは来ないだろうが」

「それなら私はお暇します、では半年ですね?」

「お願いしましたよ?」


約束は果たせた、あとは作るのみだ。

こうして十六夜月こと私は帰路についたのだった。


「……景持、あの鍛冶屋うまく使えば関東平定ができるかもしれません。忍者衆を彼の元に」

「なんでまた?」

「ほかの大名家に行くことがあるなら気絶させて連れてきてください。野放しに出来ません」

「たかが鍛冶屋一人だろ?そこまでするか?」

「あの者、おそらく裏に何かがあります」

「……」

「いましたか、ゼル」

「はい」

「隠密しつつあの鍛冶屋の護衛を、バレたら素直に護衛と言い切ってください」

「わかりました」


暗躍する影も、また有り。

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