「あなたと過ごした時間のように、とても甘くちょっぴり切ないあすかルビーのショートケーキです」


 ひきつった笑顔で、男性客にショートケーキを差し出す俺の制服はフリフリラブラブのメイド風の服だ。


 阿紫が式神になったあの日から、俺は『テッセラ』でバイトをしている。


 そして、今日は月に一度のジェントルマンデイだ。

 窓ガラスに移った自分の姿を見て大仰にため息をついた。


 そんな俺の肩を甘楽が叩き、意地悪な笑みを浮かべる。


「諦めろ、これが現実だ。っぷ……、結構似合ってるぜ」


 言ってる傍から噴き出す甘楽の言葉なんぞ、屁の突っ張りにもなりはしない。


「なんでこうなるんだよッ!」


 体内に潜む阿紫に恨み言を漏らすが、阿紫は全く取り合おうとはしない。


『それはわらわの預かり知らぬところ』


「お前が俺の中にいるからじゃないのか?」


 阿紫は俺の式神になったが、めったなことでは姿を現さない。


 居心地がいいからと言って、檻の中に捕らわれていた時のように俺の『中』に居る。


 それに、俺の家には結界が張られていて、俺の『中』に入っていないと、阿紫は家に入れない。


 常に一緒に居なければならないわけではないけれど、妖である阿紫は人間の生気を吸うことで活力を得ている。


 俺が家にいる間、好き勝手に人間の生気を吸われても困る。


 俺の『中』に居れば、俺の生気を吸っていればいいので他の人に害が及ぶことはない。俺の『中』なら、阿紫は食事も寝床も確保できる。


 俺としても阿紫の監視ができるから、その方が都合がいい


 でも、俺の『中』に居ることで、ひとつだけ困っていることがある。


 それが、今、俺がメイド風の衣装を着ていることに直結しているのだが……。


 満月は怪しげな魅力を発する。

 その光は妖の力を強くする。


 阿紫も例に漏れず妖力を増す。俺の『中』に居る阿紫の影響を受け、俺の容姿に変化が生じるのだ。


 完全に男であるはずの俺が、満月の夜だけは女性へと変貌する。


 まるで狼男だ。


 それを知った母さんは、娘ができたようだと喜んだ。母親というものは何とたくましい事か。それに比べると男とは何と繊細な生き物なのだろう。


 父さんは俺の変貌を目にしたとたん、うろたえるばかりだった。

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