肆の目
⚀
難しい字がたくさん書いてある本を、おじいちゃんの部屋で見つけた。
僕はその本がすごく気になって、おじいちゃんに本を読んでほしいとせがんだ。
「おじいちゃん、この本読んで」
おじいちゃんは少し驚いた顔をしたけど、すぐにニコリと笑った。
「これは物語じゃないから、読んであげられないなぁ~」
そう言って本をしまおうとするおじいちゃんを引き留めたくて、僕は早口で聞いた。
「これはどんな本なの? なんて書いてあるの?」
せっつくように聞く僕に、おじいちゃんは困ったように頭をポリポリとかいた。そして、少し考えてからおじいちゃんは口を開いた。
「これは、悪いことをした鬼を、やっつける呪文が書いてあるんだよ」
その言葉に、僕は飛び跳ねたくなるくらい嬉しくなった。
だって、これまで鬼は驚かせたり、転ばせたり、僕のことをイジメるから、鬼をやっつけられる呪文があるなら教えてほしいと思った。
だから、僕はおじいちゃんにねだった。
「僕に、その呪文を教えて!」
すると、おじいちゃんはすごく真剣な顔で聞いてきた。
「覚えてどうする?」
「僕をいじめる鬼をやっつける!」
「宗介は鬼が怖くないのかい?」
「怖いよ……、いっつも僕のことを見ているバケモノがいるんだ。そいつは僕のことを食べようと狙ってる」
おじいちゃんはひどく驚いた顔をした。
「どんなバケモノだい?」
「大きなクモみたいなバケモノだよ。きっと僕を食べようと狙ってるんだ。……それともう一匹、いつもあそこから家の中を覗いている着物をきた妖怪がいる。でも、そいつは怖くないよ。だっていっつも悲しそうな顔してるんだもん」
僕は庭の垣根のところから覗いている妖怪を指さした。
おじいちゃんは目を見開いて僕の顔をみた。
「あそこに何がいるって?」
確認するようにおじいちゃんが聞いてきた。
「着物を着た女の人が、いっつもこの家を覗いているんだ。鬼とかとは違うけど、でもあれは人間じゃないよ」
「今も覗いてる?」
僕がうなずくと、おじいちゃんは着物を着た女の人のところへ歩いていく。
「おじいちゃんッ!」
慌てて引き留める僕に、おじいちゃんは笑って言った。
「大丈夫。その妖怪は悪さはしないから。宗介、おじいちゃんをその妖怪の近くまで連れて行ってくれるかい?」
少しだけ怖かったけど、僕はおじいちゃんの手を引いてその妖怪のところまで連れて行った。
「最近姿を見せてくれなくなったと思ったら、私はもうお前の気配も感じられなくなってしまったようだ」
おじいちゃんはとても悲しそうに、その妖怪に向かって言った。
すると、その妖怪もとてもさみしそうな顔をした。
「人の命はほんに短いのう」
「お前に頼みがある。あいつがこの子を狙ってる。守ってほしい」
「わらわがお前の願いを聞くとでも?」
「頼めるのはお前しかいないんだ」
「わらわは気まぐれぞ。約束はせぬ」
それだけ言うと、その妖怪は消えてしまった。
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