第21話 似者同士

暗い洞窟の中に1人の少女が目を閉じて、立っていた。外見は中学生か高校生くらいであろうか。しかし、闇をも飲み込む黒い空間が周りに広がっているというのに、特徴的な薄桃色の髪の毛は、その人のアイデンティティを主張していた。


「ボクは、生まれつき魔素の操作に長けていてね。魔素が風などで流されていかない閉鎖的な空間に関しては、共感覚で過去をさかのぼれることも容易に行うことができるのさ。隠れてないで出てきたらどうだい?先生…」


すると暗闇の中から、中年の男性が出てくる。相変わらず髪はボサボサで無精髭も剃られていない。


「なんだ、俺はなあ桜、お前が一人こんなところでいるのを心配してついてきてだな。」


桜は、閉じていた目をゆっくりと開いく、そのどこまでも碧い瞳が姿を現し始める。


そして二つの黄色い点が、猫の瞳のように暗い空間で鋭く相手を射抜た。


「ちっ…」


「いつから気づいてやがった…」


仮面をかぶることをやめたのか、桜に対して敵対心を見せる。


「いつからと聞かれれば、そうだね…つい先ほどといったところかな。」


「ボクは笑いすぎていて、つい見落としてしまったが、彼がいじめを訴えたときの対処の仕方が、教師としてあるまじき行為だったからね。」


「彼?…あ~。小鳥遊の事か。ほんとあいつはよくやってくれたよ。何度も、何度も邪魔をしやがって。」


先生は不愉快であることを隠そうともせず、顔をしかめる。


「桜、過去を見ることができるレベルまで魔素の操作を扱えるなら、わかるだろう? 小鳥遊が、無様に、いたぶられてる場面がよお。滑稽だろう?」


桜が無表情で見ているのにも関わらず、その教師は面白そうに、なお話を続ける。


「ほんと、教師という職業は俺にとっての天職だな。少し生徒同士の関係に手を出せば、拗れるんだからなあ。」


「まあ残念だが仕方がない。本当は桜おまえに、絶望を与えたかったんだがなあ。」


のうのうと話を続ける教師。


「天才と謳われるおまえが、恐怖で、屈辱に歪んだ顔を拝みたかったぜ。」


「そうかい、確かにこの濃度の魔晶体と敵対してしまったら、今までのボクでは死んでしまっていたかもしれないね………」


「ああ!!その通りだ.それをあいつが俺の計画を破綻させた。」


「だからよ桜、おまえ俺と一緒に組まねえか?おまえもうんざりしているんだろ?あの、出来損ないに。もし組んだら、おまえだけは、手出しさせねえと約束してy」


ここから話盛り上がっていくっと言ったところで、


チーン


正体のわからない金属音がまた、静かな水面へ水滴を落としたように広がっていく。


それと同時に、首の頸動脈、右手、左手、右足、左足、これらすべての頸動脈が一瞬にして、切り裂かれる。


「ごっぽ……な゛にを゛ずる。」


気管を切られたのか口から血を吐きながら教師は尋ねる。


「この空間は、ボクのお気に入りなんだ…」


地面で血だまりを作り上げている人には視線すら向けず、上の暗い暗い天井を見上げて言う。


「ここにあるのは、過去の戦闘の痕だけじゃないのさ。誰がどんな気持ちで魔法を施行したのかそんな情報も存在する」


「はあ゛?」


「分からないのかい?」


桜はやっと視線を、地べたに這いずっているもの教師へとおろす。


「ここには、彼が何を思って戦ったのか、彼の思い身勝手さがあふれているんだよ。」


そして、桜はいつの間にか表情を変えた。それは、相手を揶揄うような笑顔や、バカにしたような見下した顔ではなかった。


頬は上気させて、恥ずかしそうに口元を緩め悦んでいた。口がこれでもかというくらいだらしなく緩んで、目元は垂れ下がっている。


息は浅く上がっていて、妖艶な雰囲気を醸し出していた。


「は~、ボクはバカみたいじゃないか!身がボロボロになるまで守られていたことに勘違いで勝手に嫉妬までして…彼はこんなにボクのことを、いや僕しか考えていないのに勘違いをしてしまったよ。」


いきなり、テンションが高くなり、口早に話し始める桜に、教師は何を言っているのかが全く分からず、困惑してしまう。


「だめだ、彼のすべてが全部欲しい!こんな思いを向けられてしまった、知ってしまったボクは我慢することが出来ない。」


ハアハアと息を切らして、嬉しそうに自分の体を抱きしめる。


「この空間は、彼がボクだけを思って、ボクのためだけに命を賭してまで守ってくれた、ボクのための場所なんだよ。」


教師の理解を置き去りに、どんどんと勝手にヒートアップしていく。終いには、身をくねられながら―桜は自分の世界へと入り込んでいく。


「だから、別にお前なんて、ホントどうでもよかったんだ。この場所を、作ってくれたお礼として許してあげてもよかった……汚しさえしなければ…」


「ひっっ!!!!」


「このボクだけの場所を、彼の思いで溢れていたこの場所を、お前の汚い思いが不純物として混ざったんだ!!!!」


いきなり、怒りを向けられて、心臓が掴まれたようにキュッとしぼむ。


「こんなに思われることが気持ちのいいものだとは思わなかった。彼が傷つくことがこんなに許せなくなるなんて、いなくなることがこんな苦しいことなんてわからなかった。こんなに心地い気持ちを向けられるのは、僕だけがいい!!」


桜の周りに魔素が桜の花吹雪のように舞い始める。舞い上がった花吹雪はだんだんとその光度を増し、あたりを白く照らす


「だから、欲しい!もっとボクのとことだけを思って!彼の思いも過去も未来も全部ボクの物だから…先生…彼をボクから奪うあなたは、いらない」


そして、人の影ができないほどに光が増していき、世界が白く塗りつぶされた。



















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花は咲かず砕け散る 枝垂れ桜 @Sidarezakura3355

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