第20話 偏袒扼腕

亮が意識を手放しから数十秒語。


「やあ、君達はここにいたのか。随分と探したよ。」


そう言って、上空の隙間から薄いピンク色の髪の毛を持つ少女が降りてきた。


「桜 彩………」


「おや?君だったのかい百合草、災難だったね」


トンと華麗に着地を決めて、桜はびっくりしたように言った。


桜はそういって、百合草の近くへと歩いて行くと、横たわたっている人が視界に飛び込んでくる。


目を大きく見開いて、時が止まったかのように動かなくなった。


「っっっつ!!!!!!!!!!」


出した息の吐息が音にならず、口の外側へと広がっていく。



受け入れることができなかった、何で、どうして、そんな生産性の無い問いが何度も何度もハムスターの回し車のようにカラカラと回る。


顔は焼けただれて、全身も強い火傷を負っている。それでも十分な怪我であるというのに、極めつけは、右の胸に空いている穴。


現実感がなく体が、幽体離脱のようなふわふわとした感覚に陥る。


「小鳥遊は悪いけど……」


今でも亮の胸から血がどんどん広がって、黒色の地面と血が混ざり真っ暗な闇へと同化していく。


「百合草さあああ!!!!!てえええめめえええ!!!!!!!!!!」


桜は、爆発したように怒りを百合草へとぶつける。口調が崩れて、殺気を漲らせる。


それと同時に、周囲の魔素が桜の周りに竜巻のように周り始める。


周囲の魔素濃度が高密度になり、出来た魔結晶が、まるでダイヤモンドダストのように光を反射させる。


先程、亮が戦っていたがしゃどくろよりも膨大で、殺意が含まれている魔素操作に、百合草は声も出せずにその場で腰を抜かしてしまう。


「ま、まって!!違う!私じゃない!!」


周りは急激な魔素の密度変化で強風が吹き荒れる。百合草は、左右に吹き荒れる風から逃れるために手で顔をふさぐ。





それが、いきなり台風の目の中に入ったかのような、一瞬の静けさをもたらす。


百合草は勘違いと気付いてくれたという希望を抱いて目を開けて見ると、真っ赤に染まった太刀が桜の手に握られていた。


その太刀は何人も切り伏せたかのように、液体がポタリポタリと刀身を伝っている。


チーン


桜の持っている刀から発せられた金属音が不気味に周りへとこだますると、いきなり風を切り裂く空力音が百合草の耳を攻撃した。


「ひいいぃぃぃ」


その場に頭を手で抱えて地面にうずくまる。


桜の魔素操作は一級品であるがゆえに、魔素の変換をロスなく物理現象を引き起こす。


大抵は、変換しきれていない魔素を感知することで魔法攻撃を認識できるのだが、桜はもはや物理現象と見分けがつかないくらいまで魔法を昇華させている。


故に、相手が認識できないような不可視の攻撃を繰り出すことを可能にしていた。


「次は外さない!百合草、なんで…なんで!何で彼を!!」




楽しかった、うれしかった。彼は隠しているつもりであったのだろうが皐月を陰で支えていたことは


ボクの親友を助けてくれたそれだけでも感謝するべきことなのに…


ボクが気づくことができなかった嫌がらせのを防いでくれた彼を


何か困っていたら助けようと思っていた、ボクの傲慢さは親友のいじめで直したと思っていたのにも関わらず、全く治っていないことに腹が煮えくりかえる。


これが、ただの八つ当たりだとは理解をしている。それでも、怒りとして消化しなければ、今すぐにでも泣き出しそうであった。


自分が守っていたはずなのに、いつの間にか救われていた。この咲くに咲けないこの気持ちはどのようにすればいいのか。一体誰に見せればいいのか。


時間が経つにつれて、わざと怒りに変えていた感情がどんどん崩壊していって、涙で視界が滲み出す。


「なんで、くそおう……」


体に力が入らなくなって、太刀を地面に落としてしまう。体がガタガタと震えだしていく、歯がカチカチと震え、もはや百合草に対する八つ当たりの言葉すらも吐き出せそうにない。


「ぁっく、けっほ、ごほっっっ、はあっ、はあっ、はああぁ…」


一方、百合草は桜からの殺気がいきなり溶けたことで止まっていた呼吸を再開させる。


桜はゆらゆらとゾンビのような足取りで、亮に近づいていく。せめて、死に顔を看取ってあげようと、亮の顔を覗き込む。


すると、かすかではあるが、まだ息をしていることに気づく。顔は焼けただれて、骨すら見えている状態なのに、重症であるのに、生きていることがとてもうれしくて…


そこからの桜の行動は、早かった。最小限の応急措置を済ませた後に、百合草を置いて、すぐに地面の切れ目から飛び出して、救護室へと運んでいく。


こうして、重症者一名、軽症者一名を出した、魔物生息領域の探索は膜を閉じた。

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