第13話 紅葉散乱

次の授業が体育であるとすっかり忘れていたため、ちゃんと授業に遅刻した亮。


体育の先生には、記憶喪失を言い訳に何とかお許しを頂けた。


(使えるものはなんでもつかってやるぜ。教師ちょろ(笑))


このように世の中を舐めて、いつも手ひどいしっぺ返しを食らうことを全然学ばない亮であった。


ふと、亮は女子がやっている方向を見てみると、なぜか桜と目が合った。


何だろうと思う亮であったが、しかし直ぐに視線を外したため、気のせいだと片付け、男子の準備運動に参加することにした。


(まあ、今度揶揄う材料がそろったとでも思っているんだろうな。

桜のあの煽り顔は少しムカつくが、原作のような、怯えたような表情よりはマシだろう)


男女合同での、準備体操が終わり、生徒たちが授業の準備をし始める。


今回の体育は夏休みボケ解消のために、男女混合のドッチボールが行われることになった。クラスの特に野球部が大活躍するのを横目に、亮も大衆が動くにに合わせてコートの中を動き回る。


こんな虚無の授業時間が終わり、後かたずけの時間の最中に皐月が話しかけてきた。


「どうした、今度は校舎の中で迷ったのか?お前が出ていった後、まったく帰ってこなかったから心配したぞ?」


珍しく言葉の中に毒が含まれていないことから、皐月が本当に心配したことが伝わってくる。


「わりーな…。心配かけて。」


少しこっぱづかしかったが、感謝を伝える亮であった。


体育で使ったボールを持ちながら、実際は迷ったのではなく、次が移動教室であることを失念していたことを伝えると、


「は~、心配した私が馬鹿みたいじゃないか…。」


「え~!皐月が心配するなんて…明日は、槍でも降るんじゃないのか?」


「そうだな、私は槍よりも日本刀の方が投げるのが得意でな、そして喜ばしいことに私は創造系統の魔法が得意なのだ。」


「あ~おれ、今日ケーキが食べたくなってきた。今日ならケーキを献上したい気分なんだよね。どうです、いかがですか?」


そう軽口をたたき合いながら、体育で使用したボールをバウンドさせて歩いていく。


「よーし俺らので最後かな?皐月、皆んながもう整列してんじゃん早く戻ろうぜ。」


そして、体育倉庫の中にあるボール籠にボールを入れ振り向いた瞬間、こちら側に倒れてくるバレーボールの支柱が目に入り込んできた。


「危ない!!!」という誰かの声が聞こえてくるが回避行動をとるにはもうすでに遅すぎるし、何より、複数の支柱をよけきることは不可能だろう。


亮の目には、またもや魔法の術式が施行されているのが見られた。


そして、丁寧な事に重力の方向性を亮達に設定しているため、回避行動を取ることは更に難易度が上がるだろう。


(うわ~あいつら、もうなりふり構わず直接的な手段を取り始めたなあ。また体育倉庫かよ…)


そんな呑気な事を考えながら、実行されている術式を破壊せず、上書をすることで倒れてくる方向性を変える。


ガン!!と支柱が床にぶつかる音と、支柱同士がお互いにぶつかることで発する甲高い音が周りで反響する。


「キャーっっ!!」


いきなりの音と近くに倒れてきた支柱に驚いた皐月は悲鳴を上げて、そしてよろめき亮の腰へしがみついていた。


腰を抜かしたんだろうか?そして、そのままペタンと地面に膝をついた。


そして、周りに散らばったバレーボールの支柱の残骸を見渡しながら、茫然としている。


そのあと、自身が置かれている状況を理解したのか、ゆっくりと顔をあげてくる。


「り、亮……」


若干涙目になった瞳が、ウルウルと揺らいでいる。


真っ赤な瞳が頼りなさそうに歪んで見上げてくる様子に保護欲が刺激される。


漏れ出しそうな涙が、真っ赤なルビーに霧吹きで水をかけたようにきらきらと、光が反射されているかのように幻想的であった。


そして溜まった涙が、秋に綺麗に真っ赤に染まった紅葉を、映し出す湖の水面のように、より一層ゆらゆらと紅色の瞳をゆらめかした。


そして、まるで子供が泣きださないようにきりっと口を堅く結んでいるが、垂れに垂れ下がった八の字眉が今にも泣きだすサインのように見受けられた。


それに加えて、今まで聞いたことのないような、か弱く、細細しい声で、しかも初めての名前呼びに、これ以上なく胸が高鳴る。


「英梨、大丈夫かい?!!!」


倉庫の外から、桜が声を荒げているのが聞こえてきた。そして倉庫の中に入ってきて、


「英梨!!だいじょうb…」


そのまま急激に声の音量を下げたかとおもえば、そのまま大きく目を見開き固まってしまった。


そして、桜は震えた声で、とぎれとぎれで亮に尋ねた。


「き、君、も…だ、だっ、大丈夫か、かい??」


何故?、心配される要因が存在するのだろうかと不思議に思いながらも自身の身体へと目を落としてみる。


そう言われた亮は、自分の体を見てから、納得した。


(皐月をかばうのに必死でそういえば自分のことはあまり意識していなかったなあ。)


「皐月さん…」


亮は、今にも泣きだしそうな皐月に向って、年老いた優しいジェントルマンように、優しい声で、語り掛ける。亮の目は糸目になっていたに違いない。


「俺は、大丈夫だから。 大丈夫だから、あまり気にやまないで、だからさ…















俺のズボン返してちょうだい?」


瞬間、「ぷっっはああああああ、あはっ!あははははあああ!!」と堰を切ったように桜が笑い出す。


「す、すまない!わざとじゃないんだ!!」


「だったら早く返してくんない?!なんで今ズボン投げたの!」


皐月はきが動転したのだろう、手に持っていたズボンを、まるで手についた毛虫を払い落とすかの如くぱっと手を離した。


「あ!いや!違うんだ!!すまない!!!!わざとじゃない!わざとじゃないんだ!」


そう言って、アワアワし始め、意味のわからない行動をし始めたさつきを見て、もう事態の収拾がつかないことを悟った亮は、あきらめてぼんやりと倉庫の外に視線を向ける。


せめてこの痴態を誰にも見られないようにと希いながら。


入口付近で、ひいい!!ひいっ!!と苦しそうに笑い、蹲っている桜。倉庫の外には、俺を見てくだらないと言わんばかりに嘲笑する百合草。そんな様子を見て、


もう少しばかり自体が収集することはなさそうだと思う亮であった。

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