第12話 暗躍開始
不幸中の幸いにもクラスの中でいじめがクラス内で存在していることは明らかにすることができた。
しかし、クラスのマドンナに喧嘩を売ったのはかなりまずかった。
亮が記憶喪失であることも相まって亮に近寄る人はほとんどいなかった。
(いや、元々こいつに友達がいなかったんじゃないのか?)
あろうことか、避けられている理由を持ち主にせいにし始めた亮。
しかし、そんな亮にも声を掛けてくる物好きがいるらしく…
「まさか、寄りにもよって百合草にいじめをなすりつけるとは、ボクはまた予想がつかなかった。このようになるとは予想つかなかったのかい?」
次の日の昼休み、亮は隣の席に座ってきた桜に昨日のことをぶり返され、揶揄われていた。
「うるせえなあ。俺だって、ちゃんと気づいていたわ!……やったあとに…」
そう聞いた桜は、机に顔を伏せて、肩を震わせていた。
「夏休みの最中に、クラスの名簿が欲しいと言われたのがこのために使われることになるとは、本当に傑作だよ。あんなに必死に覚えていたのに、残念じゃないのかい?」
「………」
このように、遠慮なく煽られているにもかかわらず、強い態度をとることができない亮であった。
先の件でクラスからは結構浮き気味な亮、桜が話しかけてくれなければ、晴れてボッチデビューである。
それは何とか回避したいと思っている亮、このウザイ絡みに対して耐えなければならなかった。
このように、明確な上下関係が構築されている中、横から近づいてくる人影があった。
「おい彩、それはさすがに煽りすぎだぞ。」
そう言ってきたのはあの毒舌少女、皐月 英梨であった。
やはり、根は優しい娘であったらしい。亮の痴態に対しても寛容な態度とってくれる。
「だって英梨、『僕はいじめられているんですか?』だってよ?これは笑わずにいられるかい?このボクでも、そんなド直球な質問投げかけることはできないよ。恐ろしくてね」
「いや、それは本人も気が動転していただろうし、もともと頭がおかしいから、ありえなくはないだろう。そのような行動をとっていしまう予兆はあった。」
(…ん?…なんかナチュラルに毒吐かなかった、この子、怖いんですけど…)
心を許した途端いきなり、懐に隠していたナイフで刺してきた皐月に、亮は恐怖を抱いた。
「しかし、なんで『僕』なんて一人称を変えて、あんな弱々しい感じを醸し出していたんだ?あれを聞いていた時、腹が立っていや、イライラして仕方なかったぞ。こうも煮え切らない態度がこんなにも私を腹立てるのかと私自身驚いている。」
「いや、言い換えなくていいから!どっちも同じ意味だから、ていうかダメージ2倍だから!ていうかなんでそんなにイライラしているの?鉄分が足りてないんじゃない?ほら魚食えよ、野良猫のように咥えてさ!」
亮は皐月と煽りあっていた。しかし、いくら中学生で大人びていると言え、皐月はまだ中坊、大人の大きな器と語彙能力には勝てるはずもない。
しかし心の器に関しては幼稚園児に引けを取らない小ささである。
(これは勝つる。今度は勝てるぞ。)
煽り合いで優越感を感じていると、
「きっしょ……」
(なぜだろう、中学生や高校生のさげすむ目は、なぜこんなにも心に来るのだろう)
「あ、俺少し用事思い出したわ」
敗北の予感を感じた亮は、そそくさと勝ち逃げをすることに決めた。
「負け犬……」
桜がなんかボソッと言っていたが亮は聞こえないことにした。
桜は頬を付きながらニヤニヤとことらを見ながら流し目で亮を見送る。
(僕は、鈍感難聴主人公、人の悪意や自分に都合の悪い言葉は聞こえないのだ。だから、僕は負けてない。)
ただの会話に、勝ちも負けも存在しないのだが、心の平穏を保つには自己を正当化する何か必要であった。
(なぜこんなにも俺の周りの女子は僕の心をえぐってくるのだろうか?)
教室を出るとともにクラスのマドンナである百合草 葵とその愉快な仲間たちがロッカーから物を取り出して、どこかへ歩いていく姿が見えた。
周りから見れば友達と仲良く談笑している姿にしか見えない。
しかし、とりだしたロッカーの位置が名簿の比較的早い位置の場所であること、友達と会話をするときは、教室に響き渡る位の音量で話す彼女らがこそこそと会話していることでツーアウト。
亮のひっそりと後をつけている不審行為も含めればスリーアウトという状況が出来上がった。
果たして彼女たちが向かっていたのは校舎裏にある池のある場所だった。
校舎の影に隠れながら様子を見守る。少し距離が離れているため会話の内容が聞こえてこないのが残念で仕方なかった。
(ここで、収音魔法を使用すれば魔法制御の拙い俺のことだ場所を気づかれるか…)
すると、いきなり、悲鳴のような笑い声が聞こえて来た。遠くからはあまり確認することができなかったがどうやら物を燃やしているらしい。
そして燃えているものを池へと投げ込んだ。笑い合いながら、百合草たちがその場を離れていったあと、池に近づいてみる。
池の周りには木が生い茂っていて暗い空間を醸し出している。今日は昨日の心地よい晴天は一変してどんよりとした雲である。
木の枝が水面へ手招きするように深く垂れさがっている。そして水面は、異界へと通じる境界のように暗い色をしていた。
注意深く水面を見回しているとその中に青い物体が浮いているのを発見した。
亮は、夏服のワイシャツをまくり、それを引き寄せる。
(やはり、体育のジャージか…名前は…まあしっかりと残してくれていること。)
想像するに、名前のついている部分をわざわざ残すことで、相手に心理的ダメージを残したかったのだろう。ジャージの左胸の部分に「皐月」と名前の刺繡が入っている。
多分、服を燃やしたのは魔法によるものだろう。魔素が服にまとわりついていた。
(まだ、魔法を使ってから時間が早かったのもあって、まだ魔法の施行術式が残っている……。これなら何とか修復できそうだ。)
ところどころ穴が開いて焦げ目がついた体操服に対して、実行された魔法を打ち消す魔法術式を使用する。
最後に苦手な乾燥魔法をかけてすっかりと体操服が元通りになったころには、次の授業が始まる15分前であった。
亮は、まずいと思い、早く教室に戻るために廊下を駆け足で進んでいく。
そこで、ふと頭の中にあることが思い浮ぶ。このまま皐月に返却したら面倒くさいことになるのではないかと。
どうすれば、百合草グループに気づかれず皐月のもとに返すことができるのかと考えを巡らせる。
(クラスの適当な女子に渡して、届けてもらうか?しかし、今度はその女子がいじめの対象になるかもしれないか……。さっき燃やして、水に沈めた体操服が元通りになって戻ってきたらさすがに不振に思うだろうしなあ。)
さすがに、関係ない人に渡してこれ以上いじめをややこしくしたくない亮は思考の海へと深く沈んでいく。
(まずいな…時間がない。このままいくと、体操服がないことに気づいて……あっ!)
焦り始めたとき、そこで亮にある考えが浮かんで来た。
体操服がなくなったときに、忘れてきたときに行く場所といえば、保健室である。じゃあ保健室に届けて、皐月が来たときに渡してもらえばいいのではないかと。
そこで、教室に向かっていた足を保健室に向けて走り出した。
保健室に入ると、定番の甘い匂いと、どこから持ってきたわからない、ゆったりとしたメロディーが流れている。
「あら?体調不良ですか?」
そう問いかけてきた、女性は夏休み前、亮を診察した先生よりも年齢が低く見受けられた。
「あれ、保健室の先生は変わられたのですか?」
「あ~、私は実習生です。夏休み明けから、この学校で実習を受けることになったんです。」
「へ~あ、そんなんですね。それは知りませんでした。」
亮は自分を知らない方が都合がいいやとそのまま話を続けようとした。
「あ、すみません。要件の方なんですけど、朝下駄箱にこの体操服が置いてありまして忘れものとして届けようとしたんですけど、たぶんこちらの方に体操服を借りに来るのではないかと思って、持ってきました。」
「はいは~い。そういうことなら預かっておきますね。幸い午前中借りに来た子はいませんから、行き違いが起こってはいないはずですしねー。」
言葉の要所要所を伸ばした、ゆったりとした口調で、情報を教えてくれる。
「そうですね。一応1年生の中でも探してみたんですけど、見当たらなくて、たぶん上級生だと思います。」
そのように、ウソの情報を相手に渡しながら、にこやかに話す。
「じゃあこれで、失礼します。」
亮は、そそくさと、間違っても保健室から出てきたこと見られないように出会わないように、遠回りをして教室へ戻った。
そして教室に戻るとそこには
誰もいなかった。
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