第11話 予定調和
朝教室に足を踏み入れてみると何度も目にした変哲のない朝のホームルーム前。
違うのは夏休みの出来事について話していることだろうか?それともなぜか距離が近い男女の数か?
そんな色がついているクラスを、亮はまるで花道を歩く歌舞伎役者ように堂々と自分の席へ向かう。
ワイワイと話しているクラスメイトを横目に、途中で誰にも話されることもなく無事自分の席に到着する。席は窓側の後ろから3番目である。
夏休みの課題で重くなったカバンを机の上に置き、椅子の背もたれの上に腰掛ける。
窓から見える空は、雲がところどころ散見されるだけの晴天である。教室の中に渦巻いている
ルンルンとスキップをしたい気持ちを抑えて、先生が教室の中に入って来るのをぼんやりと待つ。
夏休み明け、生徒に伝える連絡事項は多いため早く来るだろうと読んでいた通り、開始10分くらい前に先生が現れた。
(よし……!! 準備はOK、さっそくやろうか……)
意気込み机の中に入っていた教科書を取りだす。
机の中から取り出した教科書はボロボロに破けていた。それに加えてその教科書の上に土も盛られている。
「わあぁぁああ、なんだあこれえええええ!!!」
教科書の上に盛ってあった土をぶちまけながらできるだけ大声で、驚いたように叫ぶ。
演技とみられないように、教科書の投げ方に工夫を凝らす。
放した手は、降参と言わんばかりに顔の横まで上げ、たららを踏みながら後ろに下がる。
そうこれこそが昨日準備していた工作である。
何故こんな奇行に走ったのか説明すると、いじめが進行するのには大きな特徴があると考えているからだ。
その、いじめの特徴が、不可逆に進行するというものである。
最初が誰にも目につかずグループ内で行われるこそこそとしたいじめの時期。
そしてこれの範囲が広がって、みんなが知る状態になる。
そして次にみんな公認でいじめを行うというものである。ここに至るまで、一人一人と増加していくため、いじめることに対する抵抗が少なく、容易に広まってしまう。
一人がいじめられていると知れば皆、防衛目的でその人を無視し、関わらないようにし始めたり、便乗してしまったりする人がいきなり増加するのがこの時期である。
しかし、当然のことだが前者から後者にに移行
することが普通であり逆に進行することは少ない。
つまり、過半数以上がいじめを認知していない状態で露見すればどうなるのか。
当然、いじめに対する抵抗が大きくなり大多数の人が道徳的倫理に基づきそれをやめさせるだろう。
被害者が普通の特段おかしな行動をしていない人であればなおさら…
亮はこの状況を作り上げることで、クラス内の大規模ないじめに発展させないように、布石を打ったのだった。
これで今後は、表立って皐月へいじめを行うのは難しくなっただろう。
クラスが一瞬で静かになり、驚いたように亮の方へ視線を向ける。
桜と皐月も廊下側の席で談笑していたようだったが、クラスでいきなり声を荒げたやつが気になるようで、こちらを見ている。
そして皆の視線は亮から、投げられた教科書へ向く。
それもそうだろう、臭いがする土が盛られており、なおかつ教科書が見るにも耐えないくらいボロボロにされているのだから。
もしくは、狙った相手が異なっていたことにも対して驚いていることだろう。
みじめな思いで、汚された机を片づけることを待ち望んでいた相手を間違え、違う人に危害が及び、なおかつ、いじめが存在することが露見したのだから。
実行犯を睨みつけるのも無理はない。
(やっぱり、実行犯と、指図したやつは違ったか……。)
皆が、顔を見合わせて状況を確認している中、顔を真っ青にして茫然としている人と、そんな奴をにらみつけている人物は目立ち、すぐに見つけることができた。
(とりあえず、やったやつの大体の見当はついた。もうこの状況を収束させるために動くか……)
「先生! 机の中に土が詰まっていて、教科書も……」
亮は、状況を呑み込めず、うろたえる演技をし、言葉を所々ひっかけながら先生に状況を伝える。
しかし、当の教師は、
「あ~~~。うん。 後で片付けろ~今はホームルームを先にやる」
面倒くさそうに、頭を掻きながら、連絡事項が書かれた帳簿に視線を落としてホームルームを始めようとした。
外見から40後半と見受けられる男性教師。頭はぼさぼさで、無精ひげも剃ってない。服もよれよれで不潔感を増加させるのに一役買っている。
(うわ!マジかこいつ。何もなしかよ!
まあ確かに原作でもいじめを放置しているようなやつがまともな対応をするはずがねえわな!)
ここで教師による注意喚起を装丁していた亮は面を喰らい、唖然としてしまう。
しかし、計画がずれ始めたと感じた亮は、いやでも教師が聞き流されないように、教卓の近くまで移動しながら、とりあえず最低限のことはしようと再び質問を投げかける。周りを見渡しながら、手を胸に当て弱々しい感じを演じるというおまけ付きで。
(恐ろしく女々しい行動、俺ならイラついちゃうね)
「僕は記憶を無くしてしまってわからないんですが、僕はいじめられていたんですか?」
一人称も弱々しく見えるように変えて、ヒステリックを起こしたような感じで話す。
他の教室に聞こえるくらいの声量で話されたためか、教師は顔を思いっきりしかめた。
(流石俺、人が嫌がることを率先してやってきたかいがあったぜ!)
と教師の真正面に移動し終えたとき教卓の座席表がちらりと見えた。
そこには、今座っている座席順ではなく名簿順に並べられていたことに気づく。
これでは先生など見ずらくてしょうがないのではないだろうか、とそのことに疑問を感じるが、すぐに理由が思い浮かんだ。
(そっか!夏休み明けテストか!)
生徒が最も嫌悪しているであろう、夏休み明けテストが今日行われるのである。
テストを受けるにあたって席を移動させるために、座席表が異なっていたことに気づいたのである。
そして偶然にも僕の席に座る予定である人物は、いじめの主犯の可能性が高い女子ではないか。
夏休み中に女子の顔を名簿票を暗記するまで読み込むという普通に気持ち悪いことをしていた亮は、その事実にテンションが上がり、つい調子に乗ってしまう。
「先生!この名簿票を見ると本来の席の人は
そう言って、あたりを見回すことを装って
百合草の周りには、クラスの中でも中心に位置するいわゆるクラス内カーストが高い人たちが集まっている。
その中心にいる百合草と視線がぶつかる。
彼女にしてみれば、いきなり被害者になったのだから、状況はいまいちつかめないのだろう。
そして周りに視線をさまよわせて、状況を確認しようと、誰かに助けを求めようとしている。
しかし、このクラスの中で、このような事態に発展した、答えを知っているものは、亮を除いていない。
ただ、彼女を被害者に仕立て上げれば面白そうという好奇心で動いたため計画性は全くのゼロ。
この短絡的な行動でどんな結果をもたらすのか考慮もせず、先を読むこともせず、練りに練った計画をおじゃんにするのだから手に負えない。
教室が痛い位静かなり、やっと亮は自分がやったミスに気付いた。
プライドが高いやつに喧嘩を売ったことにやっと気づいたのだ。
明らかにいじめがにあっているのは亮であるのに、それをあろうことか、クラスのマドンナに擦り付けたことは彼らからしてみれば、とても不愉快であろう。
「うわーマジで必死じゃん。いじめをちゃんと目をそらさず見た方がいいよ。葵に擦り付けないでよ。」
「きもーい」と隣にいる女子と同調しながら笑い始めた。
こうして、自分が自分のいじめの被害者になるという何とも滑稽な状況が出来上がったのだった。
百合草グループに喧嘩を売るというオプション付きで.....
こんにちは、枝垂れ桜です。
近況報告の方に桜 彩のイラストを載っけてみました!是非見てください!(そんな時間があるなら執筆しろ!)
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