第9話 完全試合

「じゃあ今度は、実戦形式で練習をしてもいいか?」


亮は、桜に満足いくまでからかわれた後、食い気味にそう提案した。実戦形式での普通の魔素操作では得られない緊張感と、高揚感に包まるのが楽しいため、ここ最近の亮のブームでもあった。


「君の集中力も切れてきたみたいだしね…。まあボクは構わないよ。」


桜は色っぽく吐息を吐きながら、亮の提案を受け入れた。 


「よっしゃ!」


戦うために戦闘状態に入り、桜の様子を注意深く観察する。


しかし、桜は太ももまでしか長さがない半袖の黒のロングシャツのお腹に手を当ててカチャカチャと音を立て始めた。


お腹に巻いていたベルトを外し、ワイシャツのボタンをおもむろに一つ一つ上からほどいていく。


そして、ワイシャツがすとんと足に落ち、今までシャツに隠れていたショートパンツと、白いTシャツが現れた。


「??」


こちらを、ニヤニヤと見つめてくる桜に訳が分からず、亮は思わず眉をひそめてしまう。


桜は着やせするタイプであるのかTシャツの前の部分が大きく盛り上がってしまい、体の前の丈が足りていない。真っ白いおへそがチラチラと見え隠れしている。


大きく膨らんだ部分はTシャツの生地が引き延ばされており、下に来ている服の輪郭下着がうっすらと浮かび上がっていた。


「どうしたんだい?、ほらきたまえ。」


子供が抱っこをねだるように桜は手を大きく広げ、亮に向ける。


そう甘くささやく声は、亮の思考を奪うのに十分だった。


飛び込めば、ぷにぷにとした柔らかさに加え、天日干しをした布団よりいい香りが待ち受けているに違いない。


しかし、今は戦闘中である。余計な思考は排除しなければいけない。


「おぎゃああ桜ママー!!」


(何してんだよ、まったく…(呆れ顔))


自分が思い描いていた理想と異なり、言葉につられ体が、勝手に動いた。本能レベルの行動に違いなかった。


心情と発した言葉が異なるという、L〇NEで間違えて、A〇女優のサイトをクラスラインに張り付けてしまうような間違いを犯してしまう。


そんな時に限ってすぐにつく既読通知…。


またしても変なトラウマが蘇ろうとする瞬間、顔に鋭い上段の蹴りを喰らわされる。


「お゛み゛あ゛しっっっ!!!」


バゴーンと、どこぞの即席麺のような音が鳴り響く。

さっきまで思い浮かべていた情景エデンとは全く異なり、視界が一気に真っ白に染まりそのままホワイトアウトしていくのだった。








左頬に深く突き刺さるような痛みと、お腹が圧迫されているような感覚が生じ始める。そこから一気に意識が覚醒し、


「おや、やっと起きたのかい? こんな時間にお昼寝とは…幼稚園児にしては大分早すぎやしないかい?」


亮のお腹の上に足を組んで横向きに座りながら、組んだ足に右ひじを乗せ、頬付きながら上からニヨニヨとしている表情がしっかりと目に入った。


紺色の瞳は人を小ばかにしたように目が細められ、口はもにょもにょとさせていた。


それを見た亮は、


「俺は、悔しいっっ!!それ以上にお前が恐ろしい!!」


自分の両目を腕でお覆い涙を流す。


(必ず個人用モードで見ていたし、予測変換機能は止めていたはずなのに…どうして!!)


性癖直球のストライクが出され、好みを完璧に把握されていたことに震えが止まらなかった。


なによりも、ニヤニヤとしてる桜の顔がトラウマを呼び起こす。


小学生のころ秘密でラブレターの下書きを、使われていないガラケーのメモ機能に書き込んでいたのを、母親にバレて、「これは、なんですかああ?」と告白文キモイ文字列を目の前に突き付けられたときに浮かべていた顔に似ていた。


それ以来、亮のプライバシーリテラシーはテスト満点レベルである。


思春期に最初に満点になったのが、保健体育ではなく情報であることからも亮の闇が見受けられであろう。


加えて、座っているお腹辺りに少し柔らかい感触と優しい香りが、桜に「早くどいてくれ」という言葉を投げかけるストッパーになっていることも悔しかった。


そんな当人は、桜のように薄いピンク色の髪を左手で耳にかけ、完全勝利したといわんばかりにくしゃりと笑った。














<追記>

今回は区切りがいいのでここまでにします。少なくてごめんなさい。

あと、現実の方で忙しくなってしまうのでこれから隔日投稿になるかもしれません。

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