第7話 【7】105分
藤田琴音と三枝加代子の出会いは近所のスーパーだった。
名前も住んでいる所も知らないスーパーで顔を合わせるだけの関係はある日の雨で変わった。
スーパーへ入った時は降っていなかった雨は買い物中に降り出し、帰る頃に雨足を強くした。
買い物を終えた藤田が帰ろうと傘を広げた時、買い物荷物を抱え雨宿りしていた加代子が気になり声をかけたのだと言う。
藤田は広げた傘に加代子を入れ家まで送ったのだった。
「驚きました。あんな大きな家にたった一人で住んでいたなんて。加代子さんは寂しかったんだと思います」
それから藤田は加代子に招待される様になり、交流が始まった。
暫くして加代子は家を売り施設に入るのだと藤田に告げ、残った分の半分を藤田に相続して欲しいと言った。
藤田は始めは断ったのだそう。息子がいるのに赤の他人に相続させるのは後々揉めると。
それでも加代子はどうしても藤田にお礼がしたいと譲らず、公証人を立て公正証書遺言を作成してしまった。
「だから⋯⋯私は加代子さんからいただいた相続で家を買い戻して、加代子さんを帰してあげようと思ったのです」
「何故、そこまで⋯⋯」
「私、親がいないんです。家族も親戚も。加代子さんは施設に入りましたけど、私は施設で育ったんです。だから⋯⋯加代子さんをお母さんだと、勝手に思って⋯⋯」
そう寂し気に笑い、藤田は大事そうに馬車を撫でた。
「琴音さん、その中に何が入っているんですか?」
「それが、鍵を何処かで落としてしまったらしく開けた事はないんです」
「それ! 琴音さんは内覧の時に二階の主寝室とか見てましたよね」
「え、はい」
「あ! そうかそこで落としたんですよ」
「琴音さん、行きましょう!」
「あのっ、どこへ」
「もちろん、琴音さんの家になる所です」
訳がいまいち分からないと目を丸くした藤田に上杉と直江は合点がいったとサムズアップし、ニンマリと笑う。
そんな二人を交互に見てますます困惑している間に、二人は藤田の腕を引き部屋を出た。
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