第6話 【6】90分
事件から四日。上杉と直江は三枝加代子が入所していた施設や近所に聞き込みをし、再び藤田琴音を訪ねていた。
あれからすぐに三枝力也の元へと向かった山谷と上林は部屋で寝ていた力也を確保し、あっけなくも彼は罪を認めたと言う。
そして、事件翌日の新聞には豪邸で起きた事件が、次の日には容疑者が捕まったと続報が載り、事件から四日目の今日の新聞には事件のあらましが載った。
テーブルに広げられた新聞に目を通した藤田琴音はほうっと一息吐いてから呆れた様に肩をすくめた。
「兄弟間の相続争いですか⋯⋯」
「既に持ち主の手から離れているのに入り込んだ住居侵入も加算されてますけど」
「何かを探していたんでしょうね」
藤田は落ち着いた声で呟いて再び視線を紙面に戻した。その様子は四日前と同じで事件によって彼女の心が乱れる事は無かったらしい。
新聞には被害者三枝学と容疑者三枝力也の名前が並び、兄弟は相続をめぐって争っていた事が書かれていた。
遺産相続をめぐる兄弟間のトラブルが事件を起こし、二人を被害者と容疑者へと変えてしまった。
彼らは何故こんな事になってしまったのか。
本来なら兄弟で半分づつ相続出来るはずだった遺産は三枝加代子が残した遺言書によって兄弟以外の人物が遺産の半分を相続していた。
兄弟は半分の半分になってしまった相続が不満だった。
そこで生前三枝加代子が言っていた「宝物」を思い出し、不動産会社のものになり売りに出されたと言っても家には家電も家具も残ったままだった旧三枝邸。彼らはその中に「宝物」が残されているはずだとそれを盗み出そうとあの豪邸へと侵入したそうだ。
しかし、どこを探してもそれらしきものが見当たらず、元々それほど仲が良い訳では無かった兄弟だ。学は力也が、力也は学が本当は母親加代子から「宝物」を受け取っているのではないか、それを隠す為に話を合わせているのではないかと兄弟は互いに疑心暗鬼になったのだ。
始めは口論、次第に取っ組み合いとなり力也が学を突き飛ばし、大理石製の上がり框に頭を強打した学はそのまま意識を失ったのだと言う。その時に救護していれば学は助かったかもしれないのに、力也は学を置いて逃げ帰ってしまった。
「宝物⋯⋯彼らは本当の宝物が目の前にあると最後まで気が付かなかったんですね」
「──琴音さん、単刀直入にお聞きします。加代子さんの遺産を受け取ったのは貴女ですね。そして「宝物」を持っているのも貴女」
「⋯⋯どうしてそう思うんですか?」
驚くでもなく藤田は首を傾げた。
「名前は教えてもらえませんでしたが加代子さんを訪ねて女性が来ているのを何度か見たと施設の方が。その女性の特徴が琴音さんに良く似ているんです」
「あとですね、僕と先輩が藤田さんと三枝さんが繋がっていると考えたのは、あれです。あの馬車の置物。加代子さんの宝物の一つ。ほら、この写真に写っているでしょう?」
そう言って直江がタブレットの画面を見せた。そこには馬車を手にした加代子が微笑んでいる写真が映し出されている。
これは三枝加代子が入所していた施設で撮られたものを借りてタブレット撮影してきたものだ。
「話してもらえませんか? 加代子さんと琴音さんの関係」
「──そう、景子さんと直江さんはこれが加代子さんの「宝物」だと。そうですね⋯⋯もう一つの「宝物」を当てられたら、お話します」
馬車を大事そうに抱えた藤田が試す様な視線を二人に向ける。それは当ててほしい。そう言っているかの様だった。
「簡単です。それは「桜の木」ですから」
「ふふっ、流石景子さん。当たりです」
嬉しそうに藤田は笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます