第52話

理解すると同時に彰のそばに座り込み、自分の袋の中からペットボトルの水を取り出した。



「水ならあるから、心配するな」



蘭はそれに返事をせず、彰に水を差し出した。



受け取るときに指が触れてすごく熱を持っているのがわかった。



顔が青白いのに、発熱しているみたいだ。



こんな場所にいさせるわけにはいかない。



せめてどこか横になれる場所を探さないと。



しかし、大通りに出れば施設に集まっている報道陣たちに見つかる可能性がある。



どうにか狭い路地を移動して、報道陣のいない道に出ないといけない。



蘭ひとりならそれは簡単なことだった。



狭い路地をひたすら歩いて遠ざかればいいだけのこと。



でも、彰がいる。



今の彰は呼吸をすることも難しそうで、どこまで歩いていけるかわからなかった。



「水、サンキュ。もう大丈夫だから、行っていいよ」



彰にそう言われ、蘭は今にも泣き出してしまいそうな表情になった。



探して探してようやく見つけたのに、行っていいよなんて言われたくない。



「あたしは彰と一緒にいたい」



「俺と一緒にいたって、どうせもうすぐ死ぬ」



その言葉に心臓がドクンッと大きく跳ねた。



警察に捕まって捕まらなくても、彰の命は残り少ない。



それは蘭だって見たら理解できることだった。



それでも一緒にいることに決めたんだ。



「一緒に死ぬとか、もう言うなよ」



先を越されて蘭は彰をにらみつけた。



「あたしを殺すつもりだったくせに」



「そういえばそうだったな……。でも、もうやめた」



彰はそう言うとうっすらと笑みを浮かべた。



蘭もつられて笑う。



「誰かを道連れにしたとしても、死ぬときはやっぱり一人になる。今はそう思ってる」



蘭は返事ができず、彰の手を握り締めた。



熱を持った指先が握り返してくる。



「薬は?」



聞くと、彰は左右に首を振った。



袋の中を確認してみたけれど、彰の言うとおり薬は入っていなかった。



家から逃げるときに彰はもう決めていたのだろう。



自分の寿命はここまでだと。



「少し横になりたい」



彰に言われて、蘭はうなづいた。



本当はもっとマシな場所で横にならせてあげたい。



なんなら、すぐにでも救急車を呼んであげたい。



だけどそれは彰が希望しないことだと、蘭はすでに知っていた。



蘭は彰の頭を自分のひざに乗せて、横にならせた。



アルファルトの地面には空にした袋をシーツ代わりに広げて。



「最高だな」



蘭を見上げて彰は笑う。



「路地裏なのに?」



「どこにいたって、蘭がいれば最高だ」



それは蘭も同じだった。



どんな場所にいたって、隣に彰がいればそこは最高の場所になる。



「少し、寝たい」



「うん。いいよ」



「ごめんな。足痛いだろ」



「あたしは平気。ゆっくり眠って」


蘭は彰の頭をなでて優しく声をかける。



そして彰は目を閉じた。

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