第49話
どうにか大学の構内に入り込んだものの、右も左もわからない。
学科や実験室などによって塔も別れているようで、見た目よりも入り組んでいることがわかった。
とにかく彰が通っていたはずの幼児教育学科を目指そうと思ったのだけれど、思うように行かない。
誰かその辺の生徒に聞いてみようかと思ったが、そんなことをすれば余計に怪しまれてしまうし、バレる可能性が高くなるだけだ。
蘭は自力で彰を探し出すしかないのだ。
仕方なく、最初に入った棟の教室をひとつひとつ確認していくことにした。
まだ授業開始時間ではないようで、生徒たちはみんな思い思いにくつろいでいる。
この時間だからまだ探しやすいけれど、授業が始まればそうはいかなくなってくる。
蘭一人が校内を歩き回っているわけにはいかない。
だからこの時間が蘭にとっても勝負だった。
しかし、探しても探しても彰はいない。
1階の教室2階の教室、この棟の最上階になる3階の教室。
そのどれもに彰の姿を見つけることはできなかった。
だけど学校内にあるのは教室だけじゃない。
もしも彰がどっかの男子トイレに隠れていたら、探すことは更に困難になってしまう。
彰の番号さえ知っていれば、こんな歯がゆい気持ちになることもなかったのに。
蘭は下唇をかみ締めて、最初に入った棟から出た。
次に探す場所として選んだのは隣の棟だった。
ここが一番大きな棟になるようで足を踏み入れてみると複数の生徒たちが入り混じっていて、少し躊躇してしまった。
だけど行かないわけにはいかない。
ここまできて彰のことを諦めるなんて蘭にとってはありえないことだった。
蘭は大きく息を吸い込み、胸を張って校内へと足を進めた。
蘭はまだ17歳だけれど大学生に見えなくはない。
本物の大学生でも、蘭より幼く見える子はいたりする。
堂々と胸を張って歩いていれば誰も蘭のことなんて気にしないはずだ。
そのときだった。
前から歩いてきた一人の女子生徒と視線がぶつかった。
蘭は咄嗟に視線を地面に移動させる。
女子生徒はそんな蘭の反応に眉を寄せて、小走りに近づいてきた。
蘭は恐怖を感じて思わず足を止めた。
「ねぇ、あなた」
声をかけられてビクリと体を震わせる。
目を合わせちゃいけないと思い、蘭は下を向いたままだった。
「どこかで見たことがあるんだけど、どこかで会ったっけ?」
そう聞かれて蘭は息を飲んだ。
もちろん蘭はこの大学生のことなんて知らない。
だけど相手は自分のことを知っているらしい。
他人の空似かもしれない。
でも、万が一、蘭の顔写真がテレビで公開されていたとしたら?
彰のことはすでに大きな事件になっているから、被害者である蘭のこともテレビニュースでやっているはずだ。
この人はそれを見て蘭の顔を知っているんだ!
悪い想像はふくらみ、蘭はその場から駆け出した。
逃げるときに彼女と肩がぶつかったけれど、謝る暇だってなかった。
そのまま女子トイレに駆け込んで、個室に入ってカギをかけた。
ずるずると便座に座り込み大きく息をして呼吸を整える。
全身が小刻みに震えていることがわかった。
どうしよう。
さっきの人自分に気がついて警察に連絡するかもしれない。
そうなると蘭は保護されて、やはり彰とは二度と会えなくなってしまうだろう。
それが今の蘭にとっては一番の恐怖だった。
考えただけで目の前は真っ暗になっていく。
彰がいない人生なんて考えられない。
「どこに行っちゃったの……」
蘭は頭を抱え、呟いたのだった。
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