第46話

男女問わず仲がよくて、みんなが仲間って感じのクラスで、浮いている子なんてひとりもいない。



そんなクラスに自分はいたのだと思い出した。



途端にジワリと視界が滲んで、涙が零れ落ちていた。



スマホ画面に水滴が落ちたのを慌てて手のひらでぬぐい、電源を落とした。



「スマホの電源つけちゃダメだよね。位置情報でバレちゃうから」



蘭は頬の涙をぬぐい、なんでもない顔で振り向いた。



その瞬間険しい表情の彰と視線がぶつかった。



手の中でスマホをギュッと握り締める。



「……やっぱり、蘭は帰ったほうがいい」



その言葉でみんなからのメッセージを読まれてしまったことがわかった。



蘭はキュッと唇を引き結び、左右に首を振った。



「ちょっと、学校のことを思い出しちゃっただけだから」



「それなら帰ればいい。みんなのところに行くんだ」



「嫌だ、帰らない!」



蘭は彰を睨みつけて答えた。



ついさっきどれだけ彰のことが好きか伝えたはずだ。



彰だって引いてしまうくらう好きだとわかったはずなのに、どうしてそんなことを言うんだろう。



「あたしはずっと彰のそばにいる。一緒に殺してくれてかまわない」



真っ直ぐに目を見て言った。



自分の気持ちに嘘はないと、彰にわかってほしかった。



彰は蘭の目を見て、大きなため息を吐き出した。



それは困り果てたような、少し突き放すようなため息だった。



蘭は一瞬胸にチクリと傷むものを感じたが、彰から目はそらさなかった。



「あたしは本気だから」



「……わかった。最後まで俺と一緒にいればいい」



彰はそう言い、横になると蘭に背中を向けて目を閉じたのだった。


☆☆☆


翌日目を覚ました蘭は見知らぬ部屋に混乱した。



慌てて身を起こすとほこりっぽい四畳半の部屋で寝ていたことを思い出した。



昨日は少し彰と喧嘩をしてしまって、そのまま眠りについたのだ。



だけど彰はわかってくれた。



最後まで一緒にいていいと言ってくれたから。



しかし、今四畳半のその部屋には蘭がひとりだった。



「彰さん?」



声をかけても返事はない。



蘭は開けっ放しにしていた窓を閉めて四畳半の部屋を出た。



隣の部屋はフローリングで、リビングとして使われるのか多きな窓がある。



その窓が割られていたから、昨日入り込むことができたのだ。



「彰さん、どこ?」



一瞬トイレかもしれないと思ったが、ここは空き家だ。



水もガスも使えなくなっているはずだ。



じゃあ、どこに……?



急に不安が広がっていき、蘭は慌てて和室へかけ戻った。



部屋の中にあるのは蘭のバッグ、それに必要なものを突っ込んできた袋。



その袋を開けてみるとキレイに彰のものだけがなくなっているのがわかった。



「嘘……」



蘭は彰が横になっていた畳に触れた。



すでに冷たくなっていて、体温は残っていない。



蘭はバッグを肩にかけ、袋を掴んで家中を探し回った。



キッチン、トイレ、お風呂。



どこにも彰はいない。



2階へ駆け上がって二部屋とも調べてみたが、やっぱり誰の姿もなかった。



あるのは落書きされた汚い部屋だけだ。



「なんで!?」



叫びながら空き家から飛び出した。



しかし、右に行けばいいのか左に行けばいいのかわからない。



咄嗟にスマホを取り出して彰に連絡をいれようとしたけれど、彰の番号を知らないことに気がついた。



その事実に全身の力が抜けていき、その場にズルズルと崩れ落ちる。



あれだけ一緒にいたのに。



何度も体を重ねたのに、彰の番号すら知らないなんて……。

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