第42話

彰の熱は下がったけれど、体力は随分と消耗してしまったようで部屋の片付けや買い物に行く回数は減っていた。



それでも家の中ではいつも通りの生活が遅れているので、蘭はそれで満足だった。



この家にやってきて、2週間が経過していた。



「なんか、あっという間の2週間だったね」



蘭と彰は食卓で向かい合って座っていた。



今日のお昼は彰が作ったワカメもスープに、蘭が作ったハンバーグが並んでいる。



「もうそんなに経ったのか」



彰は壁にかけてあるカレンダーを見て呟く。



蘭をここへ連れてきてからほとんど日付の感覚が失われていた。



スマホは確認していないし、テレビもつけていない。



そんなものが必要だったことすら忘れてしまいそうになる生活を送っている。

この家に2人でいる。



それだけが、世界のすべてだった。



「晩ご飯はちょっと豪華なものにしようよ」



「豪華なもの?」



「うん。あたしたちが一緒に暮らし始めて2週間記念日だから」



「それを言うなら、誘拐してきて2週間記念日だろ」



彰の言葉に2人して笑った。



しかし、彰はすぐに真顔に戻っていた。



「テレビをつけてみよう」



その提案に蘭はビクリと体を跳ねさせた。



ここに来てから1度だけテレビをつけたことがある。



その時はニュース番組をしていなかったけれど、今の時間はちょうど昼のニュースが始まったくらいかもしれない。



「別に見なくていいじゃん」



「どうして?」



「だって……」



蘭が最後まで言うより先に、彰はリモコンを手にテレビをつけてしまっていた。



途端に部屋の中が騒々しくなる。



自分たち以外の声が聞こえる空間は、こんなに騒がしいものだったのかとびっくりしてしまった。



そして2人は無言で画面に見入ることになった。



昼ごはんが冷めていくのもおかまいなしに、この2週間でおきたニュースを確認していく。



もし、2人のことがニュースになっていたら?



もし、すでに警察が動いていたら?



ううん。



その可能性は十分にある。



しかし、予想に反してニュースは行方不明事件について触れることなく切り替った。



意外な気持ちと安堵の気持ちが入り混じった空気が流れる。



「まだ、か……」



彰がそう呟いたときだった。



今度はローカルニュースの番組が始まった。



地元では知られたニュースキャスターが、今人気のスイーツ店などを紹介していくゆるい番組だ。



しかし今日は勝手が違った。



いつもなら人気店紹介から始まる番組が、突然ニュースを伝え始めたのだ。



「2週間前から行方不明になっている平野蘭さんの足取りがわかりました」



深刻な表情で伝えるニュースキャスターに蘭の目が見開かれた。



自分の名前がテレビで伝えられたことに驚き、同時に納得もしていた。



今気になるのはどこまで捜査が進んでいるか、というところだった。



画面が切り替り、顔にモザイクがかかった男が映し出される。



それでも蘭にはそれが誰だかすぐにわかった。



誘拐される前、蘭と偶然すれ違ったあの男で間違いない。



男の驚いた表情は今でもちゃんと思い出すことができる。



「目撃者Aさんの証言です」



アナウンサーの説明があった後、VTRが流れ始めた。



「2週間前このあたりで蘭さんを見かけました」



「蘭さんとはどういう関係ですか?」



「あ、僕は中学時代の同級生です」



「蘭さんはその時ひとりでしたか?」



「はい。ひとりでした」



「蘭さんと会話はしましたか?」



「いえ、それはしていません。だけど蘭さんも僕に気がついていました」



「蘭さんとすれ違った後振り向くと、もうそこには蘭さんがいなかったということですが」



「はい。通り過ぎたあとなにか物音がした気がして振り返ったんですけど、もういませんでした」

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