第33話

自分にそう言い聞かせて、まだ心配そうな表情を崩さない蘭へ向けて微笑んで見せた。



「今度はなにをすればいい?」



「あ、次は草むしりです。庭は大きいのに全然使えなくなってますから」



そういわれて、彰はさっき閉めたカーテンを開けてみた。



確かに庭全体が草に覆われていて、庭でなにかをすることはできない状態だ。



草の高さは蘭の腰ほどまである。



「これを狩るのか」



途方もない作業に思えて彰はその時点でため息を吐き出してしまった。



草刈機でもあればいいが、そういうものは置いていない。



あるのは草刈用の小さなカマくらいだ。



手作業でこれ全部を刈り取ろうとすると、途方もない時間がかかるだろう。



「そうです」



蘭はうなづき、軍手をつけた手で草の頭のあたりを引っ張った。



すると、草は意外とすんなりと抜けていく。



「ここは土が軟らかいみたいですね。これなら簡単に抜けそうです」



それならとやってみると、たしかにスルスルと気持ちがいいくらいに抜けていく。



根についてくる土もほとんどんなかった。



「よし、じゃあやるか」



彰は気合を入れて庭に下りたのだった。


☆☆☆


彰と2人で草むしりをしている間、蘭はまた鼻歌を歌っていた。



気分がいいとつい出てきてしまう。



しかし、今度は彰が一緒に鼻歌を歌い始めた。



互いに目を見交わせて、小さく笑いあう。



肉体労働をしているはずなのに全然疲れを感じなかった。



蘭が草むしりの手を止めたのは太陽が真上に近づいてきてからだった。



「さすがにちょっと休憩しましょうか」



まだ身をかがめて草むしりをしている彰へ向けて声をかける。



「あぁ。そうだな」



家に入って時間を合わせた時計を確認してみると、10時半になっていた。



2時間くらい休憩なしで草むしりをしていたことになる。



背中にはジットリと汗が滲んでいてシャツが張り付いているのがわかった。



今から服を洗濯しておけば、夜には乾いているかもしれない。



キッチンで手を洗って脱衣所へ向かおうとしたとき、彰も入ってきた。



「今日は暑いので、お昼は冷たいうどんにしましょうか」



「いいね。仕事の後には食べやすいものがいい」



「そうですよね」



「でもその前にシャワーくらい浴びないとな。さすがに汗をかいたから」



「あ、じゃあ先にどうぞ」



蘭が一歩しりぞいて彰に道を開ける。



しかし彰は脱衣所へ向かわず、蘭を背後から抱きしめた。



突然のことで心臓が跳ねる。



彰が顔を近づけてきて、耳の近くに息を感じる。



「ど、どうしたんですか?」



どぎまぎしながら聞くと彰は「一緒に入ろう」と、ささやいた。



蘭の体温が急上昇していく。



「い、一緒に、ですか?」



1度体をあわせてはいるが、お風呂に入ったことはない。



蘭は一瞬にして耳まで真っ赤になってしまった。



「嫌?」



「嫌じゃ……ないです」



蘭としてはそう返事をする他なかった。



実際嫌ではなかったし、このまま密着されていると心臓がもたない。



それにきっと汗臭い。



すぐにシャワーを浴びてキレイになりたかった。



「じゃあ、行こう」



彰は蘭の手を握って、一緒に脱衣所へ向かったのだった。

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