第30話
そうと決まれば一輪車を押していてもおかしくないような格好をしなければならない。
たとえば、清掃員の制服姿とか。
今度はスマホを取り出してリサイクル品を扱うアプリを起動させた。
ここは規制はあれど大抵なものは販売されているし、価格も安い。
オークションとは違うから値段の競り合いもなく、お金のない彰はしょっちゅう利用していた。
そこで目当てのものを見つけるのはとても簡単なことだった。
清掃員の制服と検索すればいくらでも出てくる。
中には会社名や個人名が刺繍されたものもあり、本来なら転売してはならないものも混ざっているけれど。
その中からなにも書かれていない作業着を選んで購入した。
カードの引き落としにしているので、早ければ明日の昼には荷物が到着しているはずだ。
それからロープやカッターナイフ。
自殺するための道具も必要だった。
気がつけば彰は夢中になって誘拐自殺の準備を始めていたのだった。
そしてついに蘭の姿を再び見かけることになった。
しかしそれはいつものパン屋ではなく、飲み屋街のほうだった。
まさかこんな場所に蘭がいるとは思っていなかった彰は慌てて身を隠した。
彰に気がつかず通りすぎていく少女はどう見てもあの女の子で間違いがない。
このとき彰はもちろん蘭を探していたのであり、その格好は清掃員そのもの。
そして一輪車もあった。
このタイミングを逃せばきっと次はない。
彰は周囲を確認して、一人の若い男が蘭と通り過ぎるのを見た。
男は蘭の顔を見た瞬間顔をゆがめ、なぜだか逃げるようにして走っていってしまった。
知り合いだろうか?
少し気になったが、彰の頭は蘭を誘拐することで一杯になっていた。
蘭は再び歩き出す。
その後姿めがけて彰は走った。
計画通り後ろから口を塞ぐ。
蘭は腕の中でもがいたが、力いっぱいわき腹を殴りつけると、大人しくなった。
そのまま一輪車を置いてある路地まで蘭の体を引きずっていき、用意していた麻袋に入れた。
あまり体力のない自分にそんなことができるのか不安があったけれど、蘭の体は想像以上に華奢で、比較的簡単にそこまでの作業を終わらせることができた。
そして、今に至る……。
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