第23話
☆☆☆
朝食が終わると今度は昨日掃除の続きだった。
「庭に出しているゴミを分別して捨てに行きます」
「あぁ。すごい量だな」
大きな窓を開けて廊下から庭の様子を見た彰はため息を吐き出した。
庭を埋め尽くしてしまうくらいのゴミの量。
これだけのゴミをよく溜め込んだものだと我ながら呆れてしまう。
「関心している暇はありませんよ。夜までかかっちゃいますから」
蘭は手袋をはめてさっそく庭へ下りて行く。
彰もそれに続いて庭に出た。
窓は年中閉めっぱなしにしてあるから、こうして庭に出ることすら久しぶりなことだった。
自分がどれだけ不健康な生活を続けてきたのか目の当たりにした気分だ。
病気とそれが関係あるとは思わないが、それでも蘭が気にするのは当たり前だと感じられた。
蘭は分別用のゴミ袋を広げながら彰へ視線を向けた。
「ちなみに質問ですけど。このゴミの山分別はしてないですよね?」
聞かれて彰は申し訳ない気分になった。
そしてとても小さな声で「してない」と、答えたのだった。
ペットボトルはラベルを剥がして、キャップを取って、リサイクルの透明な袋へ。
剥がしたラベルとキャップはプラゴミのピンク色の袋へ。
それから燃えるゴミは緑色の袋へ。
アルミ缶、スチール缶は中をキレイに洗ってリサイクルの袋へ。
アルミとスチールの分別はこの地区ではいらないみたいです。
缶をつぶす必要もありません。
それからスプレー缶は穴を開けてガス抜きをしてからリサイクル袋へ。
それ以外のゴミは黒い袋にお願いします。
蘭は説明しながら手際よく分別を進めている。
一人暮らしを始めてから何年にもなるけれど、これだけ分別されているなんて知らなかった。
買い物へ出たときに何種類もゴミ袋を購入してどうするつもりだろうと疑問を感じていたのだけれど、こういうことだったみたいだ。
彰は適当に詰め込んだだけの袋を開けて、中身を分別し始めた。
こうして確認してみると、燃えるゴミとリサイクルゴミが一緒に入っていたり、スプレー缶に穴を開けていなかったりする。
「最初の頃はちゃんとゴミ出しをしていたんですか?」
蘭は手を休めずに聞いた。
彰は昔を思い出すように何もない空間に視線を投げ出し、そして首をかしげた。
「どうだったかな。何度か出したとは思うけど」
それはもう記憶にないくらいに昔のことだった。
着るものがなくなってしまったら困るから、洗濯だけはしていたけれど。
「そうですか」
蘭は呆れた風でもなく、せっせと手を動かす。
一円にもならない作業なのにどうしてこんなに頑張ることができるのだろうと、彰は疑問に感じた。
とはいっても蘭は自分のためにこんなことまでしてくれているのだ。
自分が手を休めるわけにはいかない。
「それにこの家、古いものが多いですね」
「あぁ。元々の持ち主のものがそのまま残ってるんだ。タンスやテーブルは重
たいものばかりだ」
蘭はうなづいた。
昨日和室を掃除したときにあの一枚板のテーブルを動かそうとしたが、とても無理だった。
それから数時間2人で分別をしたけれど、なかなか終わりは見えてこず彰の「少し休憩しよう」という言葉によって2人は日差しが差し込んでいる廊下に座っていた。
蘭が用意した冷たいお茶を飲むと生き返るようだ。
「ようやく3分の1くらいですかね」
庭のゴミをみて蘭が言う。
彰はうなづいた。
向かって右側においてあるゴミが分別済みで、左側に置いてあるものがまだこれから手をつけるゴミだ。
今日の内にゴミ出しを終えてしまいたいと思っていたけれど、ちょっと無理かもしれない。
蘭は一気にお茶を飲み干すと、立ち上がって大きく伸びをした。
「もう少し、頑張りましょう」
そして、庭へと出て行ったのだった。
☆☆☆
結局、ゴミの分別が終わったのは夕方近くになってからだった。
今からゴミを出しても、ゴミステーションには鍵がかけられていることだろう。
「先にお風呂に入ってください」
黒く汚れてしまった彰を見て蘭は言った。
「いや、蘭が先に入ったらいいよ」
「でも、あたしは……」
そこまで言って言葉を切り、彰の部屋へ視線を向けた。
あの部屋だけはまだ片付けることができていない。
だけど寝る場所なのだから一番にきれいにしないといけない場所なはずだ。
「俺の部屋を片付けたいのか?」
「……はい」
蘭はおずおずとうなづいた。
せめてホコリだけでも取っておいたほうがいいと思う。
苦しそうに咳き込んでいる彰の姿を思い出すと、いてもたってもいられない気持ちになるのだ。
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