第19話

「俺はお前を誘拐したんだぞ? しかも、殺そうとした!」



自分がムキになっていることがわかっていた。



だけど蘭の笑顔を見ていると怒鳴りたくなる。



何度も言うようだけれど、自分の状況を理解していなさすぎる。



蘭は一瞬目を見開いて驚いた表情を浮かべたが、さっきまでのように不安そうな顔にはならなかった。



そしてそれもほんの一瞬のことで、すぐに強いまなざしを彰へ向けた。



「だけどあたしは今生きています。そして、自分の意思でここにいます」



物怖じしない蘭に彰のほうがたじろいでしまった。



視線をそらし、返答に困って目の前のカレーに視線を落とす。



「それなら……どうしてここにいるんだ?」



かろうじてそれだけ質問することができた。



しかしその声はさっきまでの気迫が失われている。



蘭は微笑み「あたしがここにいたいと思ったからです」と、当然のように答えた。



彰はもうなにも言わずカレーをすくって食べ始めた。



彰の体調を考慮してか、お米はやわらかく炊かれている。



カレーも甘口で喉へ入っていきやすい。



ふと、人が作った料理を食べるのは何年ぶりだろうかと考えた。



外で食べることはもちろんある。



だけどそういうことではなくて、こうして家で食卓を囲むこと自体だとても久しぶりなことだった。



不意に、目の奥が熱くなった。



我慢する余裕もなく視界が歪んで、涙が浮かんできているのだと理解した。



どうしにかそれが零れ落ちてしまわないように、食べることに専念した。



「おいしいですか?」



蘭は彰の涙に気がついているのかいないのか、暢気に聞いてくる。



彰はただうなづいた。



なにか言葉を発すれば、そのまま子供みたいに泣いてしまいそうだったから。

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