第15話
そう考えて、すぐに思い出した。
おとつい、誘拐される前に小腹が空いてコンビニに入ったのだ。
その時にこのポイントカードをサイフから出して使い、そのままポケットに入れた。
思い出した蘭は笑ってしまいそうになった。
なんてラッキーなんだろう。
たしかこのカードの中にはまだ1000円分のポイントが残っているはずだ。
それだけあればおにぎりくらい食べられる。
そう思い、カードをポケットに戻して彰の部屋へと近づいた。
ノックはせずにそっとドアを開けて中の様子を確認する。
電気が消されて薄暗い部屋の中、彰の規則正しい寝息だけが聞こえてくる。
ぐっすりと眠っているようだ。
蘭はホッと胸を撫で下ろし、玄関へと向かったのだった。
玄関先で見つけた黒いキャップを目深にかぶり、蘭は家を出た。
彰の家は住宅街の一角にあるようで、周囲には古い民家が建ち並んでいる。
こんな場所までよく自分を誘拐してきたなぁ。
蘭は呆れ半分、尊敬半分にそんなことを思った。
相当リスクが高かったんじゃないか。
目撃者だって、実はいるかもしれない。
歩きながら時間を確認するために少しだけ見たテレビを思い出した。
偶然昼のニュース番組が放送されていたけれど、誘拐事件についてはなにも言っていなかった。
たぶん、まだ大丈夫だと思うけれど……。
それでも焦燥感が胸にわき始めて、蘭は足早に近くのスーパーへと向かったのだった。
☆☆☆
スーパーですぐに食べられるおにぎりと、後はカレーの材料を購入してきた。
幸いにもスーパーはカレーの日の銘打って、ジャガイモ1個20円。
にんじん一本40円と、格安で材料を手に入れることができた。
一番高かったのはカレーのルーで、ひと箱210円だった。
家に戻ってきた蘭は玄関先で「ただいま」と言って、照れて頬を赤らめ、そそくさとキッチンへ入って言った。
彰はまだ眠っているようで、今の声に気がついた様子はない。
勝手に拝借した帽子をテーブルに置いて、まずはおにぎりを食べて腹ごなしをした。
何事も、お腹が減っては戦はできぬだ。
1個47円で売っていたおにぎりはお世辞にもおいしいとは思えなかったけれど、空腹は最大のスパイスであり、食べ終わるころには満足していた。
少し休憩してお茶を飲んでから、「よし、またやりますか!」と、腕まくりをして立ち上がる。
ついさっきキレイにしたキッチンに立ち、買ってきた材料を並べていく。
ジャガイモ。ニンジン。タマネギ。
肉は高くて変えなかったから、変わりにシーブードミックスを購入した。
300円で一キロも入っている激安品だ。
なんでもサイズが小さかったり身が千切れているというB級品をかき集めて作っているから、安くなっているみたいだ。
蘭はシーブードミックスを使うだけボールに入れて自然解凍し、後は冷凍庫に入れた。
その後野菜の皮を剥き、カットして大きめの鍋を取り出して火をかけていく。
鍋が温まってきたら油を引き、軽く野菜をいためた。
それだけでいい匂いがしてくる。
彰がカレー好きならいいけれど。
そこまで考えて、ふとお米をたいていないことに気がついた。
鍋に水を入れておいて炊飯器を確認する。
お釜はきれいに洗ってあり、すぐに使えそうだ。
炊飯器の台の下におかれている米びつを開けて見ると、まだお米が残っている。
手にとって見てみると虫もついていないし、嫌な匂いもしていない。
これなら食べられそうだ。
彰が沢山食べることを想定して、お米を3合分炊くことにした。
予約設定で、夕方5時には炊き上がるように設定する。
そうこうしている間にシーフードミックスが溶けてきて、カレー鍋に入れられる状態になった。
外に出たときやけに日差しがきついと感じていたけれど、本当に気温が高いみたいだ。
こうして冷凍ものもすぐに溶けてしまうくらいには。
それを鍋に入れれば、少しの間暇になる。
ニンジンにしっかりと火を通したいから、その間もう一杯お茶を飲むことにした。
テーブルに向かってゆったりと座っている時間は嫌いじゃない。
学校にいれば休憩時間のたびに誰かが話しかけてくるし、家にいても同じようなもので、ここまでのんびりとした時間を過ごしたことは久しぶりかもしれない。
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