第10話

そう思っていた、数時間後。



大きな病院での検査結果を彰は放心状態で聞いていた。



こちらの先生はまだ20代くらいで若く、はつらつとした印象だった。



タバコも酒もやらない、趣味はランニング。



そんなのが似合う雰囲気だ。



しかしその先生も検査結果を見るなり深刻な表情になった。



彰はますます不安が膨らんできて、座っている椅子から前のめりになって「俺、どこが悪いんですか?」と、質問をした。



早く病名がわかってしまったほうが気が楽だ。



そうすれば治療方針が決まるだろうし、手術が必要ならそれも仕方のないことだと思えた。



しかし、医師が説明した内容はまるっきり予想していないことだった。



「急性骨髄生白血病です」



頭の中は真っ白になった。



それから医師がなにか説明を始めたけれど、まるっきり入ってこない。



それでも返事だけはしていたようで、気がつけば入院資料を手に持って病院の廊下に立っていた。



それまでの記憶はほとんどすべて失われる中、彰はゆっくりと歩き出した。



フラフラと今にも倒れてしまいそうになりながら。



途中で入院資料を手からすべり落としてしまったが、それにも気がつかずに外へ出た。



外は相変わらずいい天気で、日差しが突き刺さるように暑い。



まだ4月下旬だというのにこの暑さなら、真夏にはどうなってしまうだろう?



そう考えて、自分の命が今年の夏を迎えないことに思い至った。



医師がくれた入院資料の表紙を思い出す。



そこには『ホスピス』の文字があったはずだ。



つまり、死ぬための病院。



彰は途中で足を止めて自分の両手を見つめた。



俺は死ぬのか?



この若さで?



まだ大学も出ていないのに?



まだ信じられなかった。



だけど医師からホスピスのパンフレットをもらったことだけは事実だった……。



それからまた頭の中は真っ白になり、気がついたときにはベッドの中にいた。



見慣れた部屋。



一度も干していない掛け布団。



クッションが弱くなってきたマットレス。



それらにくるまれて、彰は泣いていた。



こうしている内にだんだん医師の言葉を思い出してきたのだ。



『進行ガン』



『ステージ4』



『治療法はない』



そして彰が一番衝撃を受けた言葉がよみがえってくる。



『余命一ヶ月です』



は?



なんだそれ。



余命一ヶ月?



誰が?



俺……か?



布団の中で震えながらも、まだ実感は伴っていなかった。



自分が余命宣告されたなんて信じられない。



だってまだ生きている。



そりゃあ少し体は痛いけれど、でもまだ生きている。



なにかの病気ならこれから治していけばいいじゃないか。



そんな気分だった。



だけどもうダメだと言われた。



ガンは様々な臓器に転移していて、手の施しようがないのだと。



それが自分の体のことなのか、彰は何度も疑ってかかった。



それは本当に俺のカルテですか?



レントゲンを取り違えていませんか?



あらゆる可能性を医師に告げた。



しかし、どれひとつとして当てはまるものはなかった。



当然だ。



カルテやレントゲンを他人のものと間違えるなんて、そんなこと頻繁にあってたまるか。



それで彰はやっとわかってきた。



今、医師が説明していることは、全部自分の身に起きていることなのだと。



俺は気がつかないうちに末期ガン患者になっていたのだと。

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