第3話

この男は自分の誘拐した男だ。



どれだけかっこよくてもそんなのは関係ない。



「あ、あたしをどうするつもり?」



蘭の声はまだ少し震えていた。



男はカッターナイフを蘭を向けると、白い歯を除かせて笑う。



「俺と一緒に死んでもらう」



蘭は一瞬息を飲み、男からカッターナイフへと視線を移動させた。



蛍光灯の光でカッターナイフの刃はギラギラと光っている。



その刃は今にも蘭の白い肌を切り裂いてしまいそうだ。



蘭は呼吸を整えて男へ視線を向けた。



その大きな瞳を見つめると、男は一瞬たじろいだようで蘭から視線をそむけ、カッターナイフをテーブルに戻した。



「明日、決行する」



「どうして今日じゃないの?」



蘭からの質問に男は驚愕し、勢い欲振り向いた。



自分がこんな状況にあるというのに、そんな質問をしてくるとは思っていなかった。



誘拐され、拘束され、挙句の果てに一緒に死んでもらうと宣言した。



それなら普通は死にたくないと懇願するのではないか?



それでも平野蘭という女は最初こそ泣いていたものの、今は涙も引っ込めて真正面から男を見ている。



それは犯人からしても予想外の展開だった。



「変な質問をするんだな」



男はかろうじてそれだけ返事をした男は部屋を出て行こうとする。



「ちょっと待って!」



蘭は咄嗟に呼び止めたが、男はそのまま部屋を出て行ってしまったのだった。

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