第112話 早速
最初の休憩までずっとアイリーンの機嫌が悪かった。仲間と分かれたのが辛かったのか?
席は俺とエンピアルが後ろ向き、アイリーンとみっちゃんが前向きで、対面に座っている。
エンピアルは俺の腕にしがみついている。
見る物全て目新しく、表情の乏しい彼女の目だけは輝いて見える。
そうそう、屋敷を出て冒険者ギルドに向かったんだ。依頼を受託するのと、アウィンを冒険者パーティーレオーネの1人として正式登録する為だ。
仮の予定だが、それでもアウィンは剣聖のいるパーティーに一時的とはいえ所属する事になるので、それを伝えた時は一瞬ふらついたのだが、それ程衝撃だったらしい。
道中アイリーンはみっちゃんとずっとおしゃべりだが、俺は途中途中でエンピアルと能力について話していた。
「あのう、聞いても良いのか分からないので駄目なら駄目と言って頂きたいのですが、レオンさんはどのように戦われるのですか?あの時はニーナさんよりも多くの盗賊を倒されていましたよね!?」
「ああ。まぁ、一緒に戦うから勿論聞くのは当たり前だな。多少の肉弾戦と無限収納5段階活用による攻撃かな」
「5段階活用でございますか!?」
「そうだね、飛翔を持っているのは知っていると思うけど、エンピアルなら無限収納と飛翔のスキルをもっていたら、どうやって戦うか想像がつくかな?」
「そうですね。上空から物を出せるのですよね?そうでしたら、大量のナイフを購入し、それを投げるとかでしょうか?」
「なる程、それも中々だね。俺の場合、外限定だけれども建物や、小山程の岩を落とすんだ。文字通り、」
「ぺったんこさんよ!」
俺がドヤっていると、アイリーンが横から割って入って来てドヤ顔で話し始めた。
「レオンのぺったんこさんは凄いのよ!私をお姫様抱っこしたまま、ポイっと岩を落として何もかもぺったんこさんするの!だから安全安心でいられるの!私はレオンがいなければ今頃死んでいたか、変態貴族の毒牙に掛かって惨めな状態だったかなと思うの!」
「アイリーンさん、もっと詳しく聞かせてください!」
エンピアルはアイリーンの手を取り、目を輝かせていたが、アイリーンが予測した行動ではなかったようで、アイリーンは戸惑っていた。
それはともかく、最初の休憩でエンピアルとシャルルをチェンジした。シャルルともちゃんと話をしたかったからだ。
俺はというと、道中アイリーンと離れるなとイデアさんからきつく言われた。
複数台の馬車に乗る場合、常にアイリーンと同じ馬車に乗るようにと言われて送り出されたのだ。
シャルルはエンピアル同様、必要以上に俺にくっついてくる。腕を取りギュッとしている。
リアルお姫様だ。
その良い匂いにノホホンとなる。
しかし、何故かアイリーンの機嫌は更に悪化している。
おかしい。生理は終わったばかりだと口を滑らせていたから、生理での不機嫌ではない。この年の子はよく分からない。
ふと思ったのが、シャルルからはアイリーンと同じ匂いがする事だ。
確かさっと風呂に入ったはずだから、アイリーンのシャンプーや石けんを使ったのか。なるほど。
彼女は所作も淑女のそれだ。
流石に胸元の開いた服は着ていないというより、冒険者が着るような服にしてもらっている。
それでも滲み出る色気が半端ない。いや、色気ではなく良い女からするフェロモンだ。
何故か向かいに座るアイリーンに足を踏まれたりする。その度に
「ごめんあそばせ」
と言われる。
エンピアル同様、俺の戦闘スタイルを聞いてきた。同じ質問をしたら、彼女の回答は石をやたらと上空から投げるだった。ぺったんこ、つまり無限収納5段階活用の話をすると、手を握ってきた。
「発想が凄いです!」
そう褒められ、どきりとする。美人のそういった行動に俺は弱い。だが、同時に足に痛みを覚える。
アイリーン、俺の足を踏み過ぎだぞ!
しかしシャルルの腕をよく見ると、俺やアイリーンがしているのと同じようなブレスレットをしていた。
「シャルルも風の腕輪を持っているんだ」
「いえ。これはニーナ様より貸して頂きました。一応魔力持ちなので使えるのですが、自衛するようにと言われましたわ」
「そうか。うん。それが良いですね」
しかし、不意にみっちゃんが緊張した声で話を中断してきた。
「ニーナさんからで、警戒しろと伝えるようにと」
その一言に緊張が走るのだった。
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