第50話 リバース

「もう駄目!耐えられないわ!」 


 アイリーンが悲鳴を上げていた。

 出発してから1時間経過した位にそれは起こった。


 馬車を止めて貰ったが、馬車が止まるとアイリーンは慌てて街道の脇に行き、しゃがみ込むと・・・リバース。

 俺はそっと背中を擦り、水を出して嗽をさせた。げっそりとしているアイリーンは顔色が真っ青だ。


 俺は昔ジムカーナやラリーをやっていたから、多少のいや、車のバウンド位は何ともない。お尻が痛いのは別問題だけど。


 アイリーンはそうではなかった。車酔いはしないと言っていたが、あくまで日本の舗装路を走る車での話であって、残念だが、この世界は違う。車輪が轍の凸凹や、石を踏んだりすると馬車が揺れるのだ。ニーナを始め、他の乗客は慣れたものだった。


 ニーナがここぞとばかりにアイリーンに優しい。

 しかし、再び進み始めるも、20分もしないうちにもう一度馬車を止め、リバースした。

 ニーナと話し合った結果、他の人達に迷惑を掛けられないからと、馬車での移動を諦めて徒歩に切り替える事にした。


「栃郎さん、ニーナさん、ごめんなさい。折角お金を払って馬車に乗っていたのに」


「あの揺れじゃあしょうがないよ。急ぐ訳でもないし、歩くのも良いさ」


「お尻痛かったろ。アタイが擦ってやるよ。アタイも歩く方が好きだから気にすんなって」


 俺は何となくその手をお尻に当てさせては駄目な様な気がして、ニーナの手がアイリーンのお尻に触れる前に掴んでやった。


「自分でするから大丈夫だと思うけどな」


 すると、アイリーンはうんと返事をし、ニーナからは気の所為かチッと舌打ちが聞こえたような気がした。


 ここから次の町まで馬車で1時間、徒歩だと2時間位だと言う。


 一旦少し街道から外れた所に岩を数個出して安全を確保した。そこで暫くの間アイリーンを休ませた。

 

 30分位してから撤収し、丁度街道へ戻る時に、馬車10台位の異様な一行が王都に向けて通過していた。レオンはちらっと見たが、どうやら奴隷が運ばれているようだった。


「なあニーナ、あっちの馬車には奴隷が乗っているけど、この国にも奴隷制度はあるの?」


「何を言っているんだぃ?大陸の全ての国にいるに決まっているだろう。馬車からすると多分アーリバン王国辺りからこのクマーシャルに奴隷を売りに来たんだろうさ」


「珍しくもないのかい?」  


「別に。ただ、人数は多いな。でもそれだけだよ」


「どうしてそんな酷い事ができるのですか?奴隷だなんて可哀想!」


「そのうち分かるさ。奴隷が何故必要なのかな。もしアイリーンが奴隷を持ったなら優しく接してやれば良いさ」


 俺とアイリーンは頷き、3人で再び歩き始める。飛ぶ手もあったが、それは誰かに見られでもしたら無用な混乱を招いたり、貴族から目を付けられるから、この辺りから先はそのリスクが高くなるとして徒歩を選んだのだった。

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