第20話 ぺったんこの現実を知る

 朝食を終えた後、町を出てから少しすると、再び瑞希ちゃんをお姫様抱っこして飛ぶ事になる。


 着替えた後は瑞希ちゃんは許してくれたようで、今までと同じように接してくれた。食事をしてからは町を歩いて出ていった。道中瑞希ちゃんから涙混じりで誤解を招いたのは自分の所為だと謝られてしまった。


 10分程歩き、誰もいない事を確認してから藪に入ると、アイリーンをお姫様だっこして飛んで行く。


 飛んでいる時にこんな事を言われた。


「勘違いから結婚しようと言われたのには驚いたけど、女としては嬉しいものなんですよ。でも、レオンの事は人として好きだけど、まだ早いかな?でもね、レオンは亡くなった奥さんの事を愛しているのかもだけど、今は異世界にいて、しかももう5年も経っているのだから、新たな恋人とお付き合いをして、やがてその人と結婚して子供を作っても良いと思うの。亡くなった奥さんもレオンが新たなパートナーと共に幸せになって欲しいと思っているはずよ。私ならそう思うかな。あっ。ごめんなさい。私なんかが言う事じゃないよね」


 そんな優しい言葉はお兄さんの心にぐさっ、ぐさっ、ぐさっ、っと刺さりまくって、ぐう・・・うわあああ!となったんだ。確かに周りからも散々言われており、再婚を勧められていたんだよね。いつまでも腐っているなとね。


「俺が幸せになっても良いのかな?」


「そうですよ。それだけの事をしたと思うよ!それに折角若返ったんだから!」


「そうだね。状況が落ち着いたら新たな人生を考えてみるよ」


 俺はペンダントを握っていた。首から下げているペンダントは開けると知り合った頃の妻の、つまり若かりし頃の写真と、妻の遺髪を入れており、失くさないようにそっと収納に入れた。


「遺髪をずっと持っていたんだ。定住先が決まったらお墓を作るよ。うん」


 そうして1時間程でトイレ休憩だ。林の外側に降り立ったので、早速岩を出してトイレスペースを作り、アイリーンが入る。人の気配がなくとも、外に出れば本名は言わない。何処に誰が潜んでいるか分かったものではないからだ。


 アイリーンが用を足していると、前方から何かの気配がしており、草を掻き分けてこちらに向かって来ている。やがて姿を現したのは、羊程の大きさで狼に似た獣で、グルルルと唸りながらレオン目掛けて跳び掛かってきた。


 ドスン!その衝撃で辺りが揺れた。


 何とか間に合った。


「何なんですか!?もう!」


 するとアイリーンから抗議の声が聞こえた。用を足している最中に一瞬体が浮いたのだ。


「ごめんね。獣がジャンプしてきたから、岩を出したんだよ」


「またぺったんこさんですか?」


「そう、ぺったんこさんだよ」


 彼女なりにおどけて言ってくれているのは分かる。そうそう、トイレ状況は少しは良くなった。スコップが城で見つかったから、それも合わせて出してスコップで穴を掘っており、用を足すとその土で埋め戻してから俺が用を足す事にしていた。


 岩を退けて地面を見ると、別の場所に魔石が埋もれているのが光の反射から分かったので掘り起こした。  

 先程の獣は魔物とは違い、血の跡と潰されてミンチになり、半ば土にめり込んだ無惨な姿だった。血と臓物、排泄物の入り混じった臭いに我慢できず、お兄さん吐いちゃった。 


 慌てて駆け付けたアイリーンに来るなと言ったけど遅くて、彼女も泣きながら吐いちゃった。


 どうやら動物は血肉を残し、魔物は魔石と場合によってはアイテムを残すっぽい。


 その場を離れ、2人共収納に入れていた水で嗽や口を濯いだりして息を整えた。


「ごめん。アイリーンに見せるべきじゃなかった。さっきあいつに襲われたんだ」


「もう大丈夫ですよ。血と臭いに驚いたけど、分かっていれば大丈夫ですよ」


「ごめんね。お兄さんの方も、もう大丈夫だから。身構えていない所にあれだったけど、もう次は覚悟しているから。でもこれだと潰れてしまうから肉は無理だね」


「獣さん、ごめんなさい。私達はこんなところで死ぬ訳にはいかないの」


 手を合わせている瑞希ちゃんを見て俺はまじこの子天使やわぁ!と唸りながら再び空の人となったのであった。

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