第19話 二人は甘えたいらしいが俺は大丈夫なのか!?
「どっちかで言うなら私は……甘えたいかな。やっぱり好きな人に抱きしめられたら幸せな気持ちになると思うの」
「もしかして詩織好きな人できた?」
「そんなわけないでしょ! そ、それより理沙はどうなのよ?」
「私もどっちかというと甘えたいかな。男の人からぎゅーってして欲しいな~なんて」
あざとい視線を新上に向けて言葉を紡ぐ理沙は少し前のめりになってきた。
胸元が緩い服を着ているため、少し見えそうになるが新上の場所からはギリギリ見えない。
後数センチ前のめりになってくれたと願うも、残念ながらこれ以上は無理そうだ。
ただチラッとほんの一瞬だが赤い物が見えた気がした。
一体何なのだろうか。。。
「いいなぁ~理沙には甘えられる人がいて~」
羨ましそうな声で詩織が声をかける。
「えへへ~。詩織にはいないの?」
「えっ!?」
「この人にならって人一人ぐらいならいるでしょ?」
女の子だって甘えたい時はある。
特に普段からしっかりした人に限って実は甘えん坊だったという話はよく聞く。
つまり詩織も例外ではない?
意外な一面を見つけた新上は少し嬉しくなった。
「い、いないよ……私にはそんな人……」
下を俯く詩織に理沙は傍に歩み寄ってニコッと微笑む。
「私は詩織のこと大好きだよ?」
力いっぱい抱きしめる理沙に詩織が驚き、新上の目が大きく見開かれる。
「詩織?」
「な、なに?」
「遠慮しない関係なんだよね? 私たち」
「あっ」
何かを思い出したように詩織が呟いた。
「そうだったね。同性なら理沙が一番好き。異性なら……一番は……」
手を広げ、抱きしめ返しながら新上に視線を向ける詩織。
「安心感って意味で新上かな?」
「えっ、俺?」
「うん。一番だから私まだ近くにいるんだよ?」
もしかしたら作り笑顔なのかもしれない。
それでも新上は嬉しかった。
ドキッとした。
やっぱり大好きだと思ってしまった。
初恋の毒はやっぱりすぐに身体から抜けてくれない。
だけど可笑しいと思うこともがあった。
理沙に抱きしめられた詩織を見てて羨ましいと感じているもう一人の自分がいることだ。心の中で詩織が好きな自分と理沙が好きな自分がいる。
新上はこの時まだ気付いていなかった。
詩織が土俵に上がり、理沙は正面からそれを受け止めていたことに。
詩織は詩織で、理沙は理沙で、新上との距離をさらに縮めようと動き始めていた。
「詩織に抱き着くといつもポカポカしてて暖かくて気持ちいいんだよね~。私冷え性だから」
「ちょっと! どさくさに紛れて手を動かしてどこ触ってるのよ」
「まぁまぁ、チャンスを与えた変わりに私の欲も満たしてよ」
「恥ずかしいから止めて」
詩織が胸元で両腕をクロスさせる。
理沙の手が仕事をしている時、新上の視線がそこに釘付けされていたことに気付いていつも以上に恥ずかしくなったからだ。
反対に満足したのかパッと離れた理沙は満足顔で二人に提案する。
「そうだ! なんかゲームしない?」
「いいぜ」
「なにするの?」
理沙が少し考える。
「そうだね~、新上はなにかいい案ある?」
なにかいい案と急に言われてもと思い、考えると視界にある物が入ってきた。
「そうだな~なら理沙と詩織でポッキーゲームで。当然罰ゲームありで審判は俺がする。勝った方は負けた方になんでも命令できる。とか、どうだ?」
すると、二人の頬が微かに赤くなった。
チラチラとお互いを見てから、新上に向けられる視線。
「そ、それってなんでもありなの?」
「それでいいんじゃないか?」
「「な、なんでも……」」
なんでも、と理解した二人が見せる恥じらう姿がとても可愛い。
もじもじと身体を動かして、なにかを考えているようだ。
それを見て考えるのも新上としては楽しい時間。
「ねぇ理沙? やっぱりゲームが始まる前に罰ゲーム何にするか決めない?」
「そ、そうだね。新上もそれでいいよね?」
「わかった」
「なら最初は勝った人が新上に甘える! とかどう?」
「理沙それでいいの?」
「逆に詩織はそれだと困る理由でもあるのかな? さっき自分で言ったよね? 一番だって」
不敵な笑みを浮かべる理沙には自信があるように見える。
「うっ……な、ないわよ! いいわよ、絶対後で後悔しないでよね!」
対して、詩織はちょっとムキになってその場の勢いで言葉を発しているように見える。
なにより、その言葉を聞いた瞬間、新上の脳が軽いパニックに陥った。
どっちが勝っても負けてもこれでは――。
嫌な予感にかられるも頭を振って否定する。
きっと問題は起きないと信じて新上は二人のゲームの行方を見守る事にする
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